グザヴィエ・ドラン初監督作『マイ・マザー』 若き天才監督の原点とは

 親子の関係というのは子供の成長とともに変化するもので、私自身も高校生の頃が一番難しかったように思う。そのぐらいの年になると、親の愛情をわずらわしく感じたり、異性の親には“理想の異性像とのギャップ”を感じ始めたりするから厄介だ。
思春期の娘が父親に嫌悪感を抱く話というのはありがちだけど、息子が母親に抱く嫌悪感を正面から語った作品は珍しいのではないだろうか。本作はその心象描写がとても鮮明で、繊細だ。「なぜ、そうイラつくのか」と自問自答し、苦悩した後にとる行動というのも興味深い。これが“若き天才”と称されるグザヴィエ・ドラン監督の半自伝的な物語というから驚きで、彼の他の作品を見るうえでも外せない重要な一本と言えるだろう。脚本・監督のほか主人公のユベールも自ら演じ、多才ぶりを発揮。かなり美形で色気のある雰囲気も見どころのひとつだ。

 17歳の高校生ユベールは、カナダのケベック州で母親と二人で暮らしている。絵を描くことと読書が好きで、表現のセンスは大人からも一目置かれている。だからこそ余計に母親の言動にイラついてしまうのかもしれない。母はいつもボロボロこぼしながら食べるし、ファッションもインテリアもアニマル柄だらけでケバケバしい。テレビばかり見ているし、人の話は聞かない。ユベールは分かり合えずにケンカばかりしてる日々にうんざりしていた。
そんなある日、ユベールは学校で先生に「母は死にました」と嘘をついてしまう。その一言が発端となって、母と息子の溝はさらに深まっていく。「手に負えない」と思った母は、ついにある決断をするのだが・・・。

 母に嫌悪感を抱いてしまうことへの戸惑いや罪悪感、嫌いになりきれないもどかしさ、分かり合いたいのに突き放してしまうという葛藤はリアルで、自分の経験と重ねて見てしまう。ただ、そういう気持ちを感情的に訴えるだけではない。親しい人に宛てた手紙や、ビデオカメラに向かって本当の気持ちを独白するシーンが、静かに自答する場面として効いていてグッと胸に迫る。表現力の豊かさといい、抑揚のついた演出といい、これが19歳の監督による初めての作品とはとても思えない。

 カンヌ映画祭でも“恐るべき子供”として驚きとともに迎え入れられ、この初監督作品で一気にスターダムにのし上がる。その後も2作目「胸騒ぎの恋人」、3作目『わたしはロランス』がカンヌ映画祭に、4作目の最新作『トム・アット・ザ・ファーム』がヴェネツィア映画祭に出品され、快進撃を続けている。2作目は未見だが、それ以外の作品に通底して描かれているのは「母親との関係」と「同性愛・トランスジェンダー」である。本作を見て、それらは監督自身が抱えているテーマなのだろうと思った。いま世界で最も注目されている若手監督の、今後の動きにも目が離せない。

11月9日(土)より渋谷アップリンク他にて公開中!

監督・脚本・主演:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、フランソワ・アルノー、パトリシア・トゥラスネ、ニール・シュナイダー
配給:ピクチャーズデプト
提供:鈍牛倶楽部
製作:2009年/100分/カナダ
原題:I Killed My Mother
公式サイト:http://www.ikilledmymother.net/
(c)2009 MIFILIFILMS INC

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