【TIFF】トム・アット・ザ・ファーム(ワールド・フォーカス)

グザヴィエ・ドラン、溢れる才気

※2014年10月25日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク他 全国順次ロードショー

(第26回東京国際映画祭 ワールド・フォーカス部門)
亡き「友」の葬儀のために彼の実家を訪ねたトム(グザヴィエ・ドラン)。友人の兄(ピエール=イヴ・カルディナル)から暴力的な扱いを受けながらも、彼がそこにとどまる理由とは……?

死を受け入れるということは誰にとっても大きな困難が伴う。精神科医エリザベス・キューブラー・ロスによれば、人間が自分の死を受容するには「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」の五段階があると言うが、家族や恋人といった近しい人が亡くなったときにも、人は何らかの過程を辿るだろう。本作の場合それが冒頭に青インクで書かれる手紙(手記?)によって表されている。現実の否定、混乱、喪失感、虚無感。そして死を受容するために次に来るものは何か? それは、「代わり」を見つけることである。

年老いた母親と息子が暮らす片田舎の農場に突然やってきたトム。閉鎖的な土地に闖入する部外者、絡まり合う家族感情、誰もが口をつむぐ過去の事件、血と地のしがらみ。これはまさに横溝正史ワールドだ。三者三様の「死の受容」。愛情と嫉妬、暴力と融和を経て変化していく心情、浮かび上がる過去と「ここにはいない人間」の輪郭。肝心なことは言葉では説明されない。観る者はただただイマジネーションを掻き立てられ、次第に戦慄していく。

広大な畑や牛がひしめく牛舎。一見のどかな農場の風景も、車という移動手段が無ければ簡単に外界から遮断され、切り立ったトウモロコシの茎は人を傷つける。都会からやってきたトムとともに、我々もまた理解する。死んだ彼は、どんな思いで田舎から都会にやって来たのか? 死して埋葬されたこの土地に、果たして彼は帰りたかったのだろうか?

カンヌ国際映画祭で高い評価を受け、世界が注目するグザヴィエ・ドラン監督。その才気もさることながら、この作品の主演を務めた彼は金髪の巻き毛をなびかせ、まるでレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた天使のような佇まい。全く、天は二物も三物も与えるものだ。『トム・アット・ザ・ファーム』。この監督に本気で付いていこうと決めた1作。

▼作品情報▼

監督/エグゼクティブ・プロデューサー/製作/脚本/編集:グザヴィエ・ドラン
出演:グザヴィエ・ドラン、ピエール=イヴ・カルディナル、リズ・ロワ、エヴリーヌ・ブロシュ
2013年/カナダ・フランス/95分
Photo by Clara Palardy ©2013 – 8290849 Canada INC. (une filiale de MIFILIFIMS Inc.) MK2 FILMS / ARTE France Cinéma

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  1. ここなつ映画レビュー

    「トム・アット・ザ・ファーム」…

    東京国際映画祭のワールド部門。「わたしはロランス」で評判を獲得したカナダ人のグザヴィエ・ドラン監督の作品。 とても良かった。映画的な、極めて映画的な。 友人(と表現していいのかな?)の死に際して、葬儀に参列するために彼の故郷の農場を訪れた主人公であるが、彼の家族…主に兄、に暴力的に引き止められ、ファームに滞在する事になる。強迫観念と自己のアイデンティティの崩壊の中、滞在は長期に渡り、やがて主人公は彼の家族の秘密を知る事になる。そして、自分自身の心の闇も…。 何がどう良かったか、を一言で表現するのは難…

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