『少年は残酷な弓を射る』19歳の新星エズラ・ミラー インタビュー

あの目力はキャラクターから自然発生的に表れたものなんだ

エズラ・ミラー

昨年の第64回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『少年は残酷な弓を射る』では、主演ティルダ・スウィントンの演技もさることながら、彼女の息子役エズラ・ミラーが絶賛された。今年5月の第65回カンヌ国際映画祭では、映画界で最も活躍が期待される若手俳優としてショパール新人賞も受賞した、将来性豊かな19歳だ。今回は、そんなエズラのインタビューをお届けしたい。

エズラの役どころは、母親エヴァ(ティルダ)に異常なほどの悪意と執着心を持つ息子ケヴィン。幼い頃から母親に心を開かず、事あるごとに反抗を繰り返す。やがて、美しく成長したケヴィンだが、エヴァへの嫌がらせは次第にエスカレートし、衝撃的な事件が起こる・・・。ケヴィンの数々の悪事に、何度おののいたことか。しかし、目の前のエズラは、取材前の挨拶で、笑顔でぺこりと頭を下げ、まるでサッカー日本代表の長友佑都選手(インテル)のお辞儀パフォーマンスのようで、かわいい。映画では「妖しい」「悪魔」などの言葉がぴったりだったのだが、それとはもう別人。190㎝近い長身に一瞬たじろいだが、挨拶の握手をしたとき、その手の柔らかさに素直に感動してしまった。

――あなたが演じたケヴィンは非常に複雑でリスキーなキャラクターだと思います。この難役に挑戦しようと思った理由は?

 エズラ・ミラー(以下エズラ):『少年は残酷な弓を射る』は苛烈なシーンを含めて、魂が揺さぶられるほどの強烈な作品です。さらに、登場する全てのものが綿密に計算されていた脚本にも心動かされました。確かにケヴィンは難しくて、人間としても理解しがたいキャラクターですが、だからこそやってみたいと思いました。(映画を含む)芸術は難しいチャレンジをすることに価値があると僕は思っているから。

――ティルダ・スウィントンとの2ショットのシーンでのあなたの目力が強烈です。これはあえて目力を意識して演技した結果なのでしょうか?

 エズラ:目力は、ケヴィンのキャラクターから自然発生的に表れたものです。自分で意識して目力を強くしようとしたわけではないんです。ケヴィンの目は真実――他人の取り繕った表面的な姿を見破って、その人の本質――を見通してしまうことができる。そのことを感じて、自分で取り入れて演じた結果として、目力が強くなったのかな。それと、撮影はケヴィンの3歳役、9~10歳役の子役さんが先に入っていて、順撮りで行われました。僕は、子役さんの演技を観ることができたので、彼らの特徴を取り入れたところも少しありました。

――昨年の東京国際映画祭ワールドシネマ部門で上映されて好評だった、あなたの出演作『アナザー・ハッピー・デイ』(11)も家族の物語でした。ここであなたの演じたエリオット役は、家族がカオス的な状況に置かれているのに、エキセントリックな行動で家族の調和をかき乱すような存在でした。このエリオットといい、本作のケヴィンといい、家族において爆弾的な存在の役が続いたのは、偶然なのでしょうか?それとも家族を描く作品に興味があったのでしょうか?

 エズラ:この世のすべての問題は、実は家族から派生しているのではないかと僕は思っています。アーティスティックな考察をするのに、家族ほど意味のあるものはないんじゃないかな。人間は成長すれば、いずれ家族から離れることになるけれど、家族から学んだことや役割は、社会に出ても僕たちは無意識のうちに繰り返すんだと思います。僕にとって俳優人生はこれからだし、キャリアの初期段階に家族ものが続いたのは、(エリオットとケヴィンと)キャラクターが異なったとしても人間というものを模索することに役立っていると思います。ただ、これからは家族もの以外の映画にも出演したいけれど、どんな役のバックグラウンドにも家族があると思っているので、今後の役作りのアプローチに役に立つと思っています。

――映画のなかでの家族に関するお話が出ましたが、エズラさんご自身の家族についてお聞かせ下さい。あなたはご両親にとってどんな息子さんでしょうか?お仕事の相談もされますか?

 エズラ:僕は16歳で高校を中退したり、いろいろルールを破ったり、典型的なダメ息子だけど(苦笑)、両親とは何でも話せる良い関係だし、常に正直にありたいと思っています。こういうのってダサイかもしれないけれど、僕は両親を理解していて、両親は僕を理解してくれていて、仲のいい親友みたいです。そういう環境にあるのは本当にラッキーだし、感謝しています。仕事に関しては、親の意見は重要視しているので、映画の企画について話したりしています。でも「エズラがやりたいようにやればいいわよ」と母は常に応援してくれています。

(※この質問の回答は映画の核心に触れています。)
――ケヴィンの、母親エヴァへの感情が歪んだかたちで表れてしまいます。この点について、ご自身のお考えはありますか?

 エズラ:エヴァは息子に対して愛を注げず、ケヴィンは愛情をどう表現するのか分かりませんでした。父親のフランクリン(ジョン・C・ライリー)は、表面的には父親らしいふりをするけれど、それがいかにもインチキ臭くて、ケヴィンにはすべてお見通し。何でこんなバレバレなことをするんだろうと理解しがたく、もはや眼中にない存在です。幼い頃から真実が見えてしまうケヴィンにとって、幸せになる手立てはなかったのです。母親とのコミュニケーションの手段として考えたのが、サディスティックな行為だけでした。でもそれは、母親を驚かせ、戸惑わせます。本当は、母親との誠実な繋がりを、一瞬でいいから感じたいからこその行為のつもりなんです。でもそういうとき、彼女に心の準備ができてないと、その繋がりは一瞬で終わってしまう。さらに彼女は慌てて取り繕うとするので、結局は不純で、まがい物のコミュニケーションになってしまいます。そうしているうちに、ケヴィンは埒があかなくなり、母親との真の繋がりを得るために極端なことをせねば・・・と考えるようになるのです。

(※この質問の回答は映画の核心に触れています。)
――特に好きなシーン、こだわりのシーンは?

 エズラ:ラストシーンに尽きます。髪を剃らなくちゃいけなったこともあり、ラストシーンが撮影の最後だったんです。すべてのシーンが、あのラストシーンに向けての布石だったことは、最初から理解していました。ケヴィンの表情がほんのわずかに崩れて、本当の彼が少し見えるシーンですよね。だからこそ、そのラストシーンに至るまでのケヴィンは、本心を見せることはないな、と観客に思わせなければなりませんでした。ほんの数秒だけかもしれないけれど、彼の本心が垣間見えたときに、観客はケヴィンに対して抱いていた感情(多分嫌悪感めいたものだろうけれど)は、違っていたのか・・・ということを思ってほしいと願っています。いろいろな思いを込めたシーンでもあるので、思い入れは強いですね。

――あなたはミュージシャンとしても活動していますが、俳優業とミュージシャンの両立はどう考えていますか?(注:エズラはニューヨークで「Sons of an Illustrious Father」というバンドでドラムとボーカルを担当している)

 エズラ:この2つは自分にとってバランスをとってくれるものなので、どちらか一方に重点を置くことは考えていません。音楽も役者も、それぞれが自己表現の手段だと思っています。正直に言うと、映画は精神的に疲弊します。だから僕的には1年に2本が限度。それ以上のオファーを受けてしまうと、精神的に苦しいかな。音楽はいつでもできるし(自分だけでも歌えるし、楽器があればなおいいけどね)、演奏することで自分をリチャージしてくれるんです。

――今後共演したい俳優や演じてみたい役は?

 エズラ:フィリップ・シーモア・ホフマンとマイケル・シャノン!マイケルの『テイク・シェルター』(11)が大好きなんだ!できるだけ自分自身とかけ離れた役で、演技の幅を広げたい。例えば、自分の外見とは全く異なるようなキャラクターを演じてみたいと思っています。

(後記)
取材中のエズラは、真摯に質問に答えるときは大人びた表情で、でも、身振り手振りも交えて、楽しそうに人なつっこい表情を浮かべるときは、無邪気な子供のよう。特に「(昨年の東京国際映画祭で)『アナザー・ハッピー・デイ』を観ました」と話したら、エズラが「わーお!嬉しいよ!」と本当に嬉しそうな表情を浮かべたことが印象的だった。19歳にして家族のこと、自分の演じるキャラクターのことを深く考えているし、今後の俳優活動にも意欲的で、ますます期待大!の好青年。今後のエズラの活躍は要チェックだ。

▼プロフィール▼
エズラ・ミラー Ezra Miller
1992年9月30日、米国ニュージャージー生まれ。『Afterschool(原題)』(08)で映画主演デビュー。その後『City Island(原題)』(09)、『Every day(原題)』(10)、『アナザー・ハッピー・デイ』(11)と順調にキャリアを重ねる。『少年は残酷な弓を射る』(11)ではブロードキャスト映画批評家協会賞の若手俳優賞、英国インディペンデント映画賞の助演男優賞にノミネートされるなど、高い評価を得た。新作はエマ・ワトソンとの共演作『The Perks of Being a Wallflower(原題)』。

▼作品情報▼
監督・脚本・製作総指揮:リン・ラムジー
脚本:ローリー・スチュワート・キニア
原作:ライオネル・シュライバー
出演:ティルダ・スウィントン、ジョン・C・ライリー、エズラ・ミラー
原題:WE NEED TO TALK ABOUT KEVIN
製作年:2011年
製作国:イギリス
配給:クロックワークス
公式サイト:http://shonen-yumi.com/
(C) UK Film Council / BBC / Independent Film Productions 2010
6月30日TOHOシネマズシャンテにて公開

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