【TIFF】チキンとプラム

壊れたバイオリンに込められた想いとは?

(第24回東京国際映画祭・WORLD CINEMA部門)

 世界的評価を得た「ペルセポリス」のマルジャン・サトラピ、ヴァンサン・バロノー2名の共同監督によるファンタジックな回想形式のラブストーリー。愛用のバイオリンを壊してしまったバイオリニスト、ナセル・アリ(マチュー・アマルリック)。噂を聞きつけて遠路はるばる訪ねた店で“ストラディバリウス”を手に入れる。しかし、やっと手に入れた名器も、愛用のバイオリンを失った彼の心を満たすことはなかった。音楽に絶望した彼は、衰弱死を選び、死が訪れるまでの8日間、人生を振り返る。果たして、壊れたバイオリンに秘められた想いとは…?死を目前にしたバイオリニストの人生が、壊れたバイオリンをキーにして、糸を手繰るように詳らかにされる。ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品作。

文字にすると深刻な感じだが、映像や語り口はユーモラスで暖かく、人間味が溢れている。ミニチュアっぽさを醸し出すデフォルメ気味のセットを使った映像も可愛らしく、ジャン・ピエール・ジュネやティム・バートンの映画を思わせる。そんな映像をバックに紡がれるナセル・アリの生涯。妻との出会い、結婚。バイオリンとの出会い、やがて明らかになる秘められた恋。数々のエピソードが「潜水服は蝶の夢を見る」の名優マチュー・アマルリックの好演もあって、軽やかに描かれる。それなりに重みのある内容にもかかわらず、見る者に圧迫感を与えず、ややミステリアスな美しいラブストーリーとして楽しませてくれる。ナセル・アリの恋人イラーヌを演じたゴルシフテ・ファラハニの上品な美しさも忘れ難い。

さらに、興味深いのは物語の構成。主人公の死から始まり、その生涯を探ってゆくという手法は、“ローズバッド”という今際の際の一言をきっかけに新聞王の人生が明かされるオーソン・ウェルズの名作「市民ケーン」にも似ている。しかし、「市民ケーン」が(少なくとも表面的には)物質的なものに帰着するのに対して、本作で解き明かされるのは古びて壊れたバイオリンに込められた想い。“モノから心へ”という、人々が求めるものの変化を象徴しているようでもあり、その違いが本作に込められた作り手の想いを表しているようにも思える。

ファンタジックなラブストーリーの体裁を取りながら、そこに込められているのは、普遍的な人間の想い。強い想いこそが人を前に進ませる原動力であることを、改めて教えてくれる作品である。

Text by いの
オススメ度★★★☆☆

▼『チキンとプラム』作品データ
監督:マルジャン・サトラピ/ヴァンサン・パロノー
主演:マチュー・アマルリック、エドゥアール・ベール、マリア・デ・メディロス、ゴルシフテ・ファラハニ
製作:フランス/2011/91分

▼第24回東京国際映画祭▼
日時:平成23年10月22日(土)~30日(日)
公式サイト:http://2011.tiff-jp.net/ja/

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