【TIFF】第24回東京国際映画祭短評(20作品)

~見たい作品をクリックしてください~

『デタッチメント』 『ガザを飛ぶブタ』 『失われた大地』 『最強のふたり』 『明日を継ぐために』 『アルバート・ノッブス』 『僕は11歳』 『われらの大いなる諦め』 『カリファーの決断』 『アナザー・ハッピー・デイ』 『ティラノサウルス』 『プレイ』 『クリスマス・イブ』 『スリーピング・シックネス』 『別世界からの民族たち』 『ヘッドショット』 『転山』 『ボリウッド~究極のラブストーリー』 『黒澤 その道』 『クレイジー・ホース(仮題)』




『デタッチメント』
(第24回東京国際映画祭・コンペティション部門)
アメリカの教育の荒廃というテーマにとどまらず、もっと深い部分にまで問題点を掘り下げている。教師も子供も誰もが苦悩している。子供が荒れるのは、誰もが世の中のカオスに怒りを覚え、生活の中で苦悩していること、それを教える大人がいないことなのだ。自分を守るために本を読むことが大切など、良い台詞もいっぱい。過去の記憶を短いカットで挿入したり、黒板の落書きのような映像を挿入したり、さまざまな方法で登場人物の内面に迫ろうとしている。また、この短い上映時間の中には、教育問題にとどまらない社会問題や人生の問題もさりげなく提示されている。さらには、ジェームズ・カーンの存在が、深刻さの中で緩衝材の役割を果たしている。ユーモアも決して忘れてはいないのだ。これは、傑作と言っていいだろう。
オススメ度:★★★★★
トップに戻る



『ガザを飛ぶブタ』
(第24回東京国際映画祭・コンペティション部門)
これもいい映画だなあ。主演は『迷子の警察音楽隊』のサッソン・ガーベイ。今度はパレスチナ人の役、本当はイスラエルの人というのだから、見かけではわからない。逆にイスラエル人の役をやった女優はフランス人みたいなのに、アラブ人。私たちはいかに偏見に囚われていることか!!
イスラム、ユダヤ教信者にとって、共に不浄なものである豚が「海」で取れたことによって起こる騒動は、イスラエル側、パレスチナ側にとっても微妙な問題であり、この作品を作ったキャスト、スタッフの勇気を称えたい。
オススメ度:★★★★★
トップに戻る



『失われた大地』
(第24回東京国際映画祭・natural TIFF部門)
チェルノブイリの事故とその10年後を描く。木は枯れ動物は死に、美しい大地は、死の町に。事故後の町の様子もリアルだが、それよりも10年後、例え別の町に住宅を移されても心は故郷の町にとどまり、心の傷からも、身体の不安からも、逃れられない人々の姿が痛々しい。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『最強のふたり』
(第24回東京国際映画祭・コンペティション部門)
これはいい。主人公の身体は『海を飛ぶ夢』と同じように、首から下が動かないという障害を抱えているのだが、明るく前向きで、こちらが元気づけられる。介護をする青年が屈託がないようでいて、優しい。健常者と身障者の垣根を感じさせない彼の態度が爽やかだ。貧しい移民と富豪、白人と黒人、若さと老い、クラシックとアース・ウインド&ファイアー、すべてが違うふたりの間の友情物語には、フランス人自身への皮肉の意味も込められている。これは、無意識の偏見へのアンチテーゼであり、考えさせられるところも多い作品だ。しかもこれは、実話というのがすごい。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『明日を継ぐために』

(第24回東京国際映画祭・WORLD CINEMA部門)
メキシコでは麻薬戦争が激しく、それが米国への不法移民を増やす。これは不法移民親子の話。普段は真面目で静かなお父さん、いざという時頼りになる彼の背中を見て息子は成長していく。なぜ僕を産んだのか、その答もいい。これはアメリカ版『自転車泥棒』泣きました。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『アルバート・ノッブス』
(第24回東京国際映画祭・コンペティション部門)
19世紀という時代は、女性には生きにくい時代だった。女性が生きていくには、結婚が一番。職業は、家庭教師、ナニー、召使、洗濯女など限られたものしかなく、後は売春婦か救貧院に逃れるしか手立てがない。無論、後者の悲惨さは、言うまでもない。ダブリンの街の階級社会はとても厳しく、アイリッシュの青年は虫けらのように扱われ、貧しい女性はその男にコケにされる。唯一馬鹿にされない方法は、ホテルの女将のように自立すること。教養のない彼女(彼)にとっては、そのためには、男になるしかなかった。途方もない話のようでいて、説得力がある。グレン・クロース、ヒューバート役のジャネット・マクティアが見事だ。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『僕は11歳』
(第24回東京国際映画祭・アジアの風部門)
自分で親は選べないし、生まれてきた場所、時代も選べない。ゆえに、『スタンド・バイ・ミー』のように、子供時代の思い出を綴る過程で、文革時代の悲劇がするっと入り込んできてしまう。上海出身の気の毒な家族、工場の派閥争いなど。母親が徹夜して作ってくれた白いシャツには、母の思い、少年の思い、悲運な青年の苦悩がつまっている。人はそれぞれが違う、父は少年にそれを理解させるため花を描かせている。この時代はそれを許さない時代だったからだ。シンプルだからこそ、ジワジワと伝わってくるものがある。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『われらの大いなる諦め』
(第24回東京国際映画祭・アジアの風部門)
共同生活をするアラフォー二人の男たちが、親友の妹を預かることに。大学生の彼女は、まるで猫のように気まぐれで、男たちを悩ます。果たして自分のことをどう思っているのか。悶々とする男たちの様子が、可笑しくも切ないが、女優さんが綺麗なので、気持ちがわかる。また、猫は気まぐれ、けれども物陰で、いつもこちらを観察しているというセリフは、猫好きには実感できる。それは、まさに二人の男の家に仮住まいした彼女そのものでもあることが後からわかってくる…彼女自身にとっては気まぐれでもなんでもないのだが。 台詞に出てくるトルコのアンカラにあるという「猫好き通り」がどんなところなのかも気になった。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『カリファーの決断』
(第24回東京国際映画祭・アジアの風部門)
流産したのは神の警告、夫の言葉でニカブ(目の部分だけが開いているヴェール)を着用することになった女性の揺れる心が伝わってくる。私たちが、想像することが全くできない世界である。それが素晴らしい。インドネシアの人々もニカブへの偏見があるという描写も興味深い。女性がニカブを着用するのも、自分の意志であれば、女性差別とは次元の違うものということを理解する。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『アナザー・ハッピー・デイ』
(第24回東京国際映画祭・WORLD CINEMA部門)
本作は、俳優の使い方が適材適所で、深刻な話のようでいて、笑えるところも多く、楽しめる喜劇である。特に、デミ・ムーアが、いくつになっても80年代のイケイケネェちゃんぶりを引きずっているのがたまらなく可笑しい。豪華なベテラン俳優陣と若手俳優たちのアンサンブルを楽しむべき作品。監督は、バリー・レビンソンの息子。才能あるねえ。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『ティラノサウルス』
(第24回東京国際映画祭・WORLD CINEMA部門)
ケン・ローチ風英国映画。主人公は、ワーキングクラスで、怒りを抑えられない男。一方DV を妻にふるう男は、暮らしもいい。主人公の男は、DV 被害の女性との交流を通して自分を見つめ直す。それは、暴力 の原因を探る心の旅でもあった。DV は階級、教育の有無には関係なく存在するものであり、解決するには、本人自身の意識の改革が必要なのかもしれない。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『プレイ』
(第24回東京国際映画祭・コンペティション部門)
長回しの映像、遠くから見つめる視点によって、黒人少年グループによるカツアゲがリアルに描かれている。それゆえ観客は緊張の連続である。スウェーデンは、少数派へのいじめについて、教育がしっかりしている国だ。ただ、この作品を観ると成果はイマイチ。というより、その教育がちゃんとしているからこそ、移民の子に下手に口を出せないという逆転現象が起きているのかもしれない。あるいは、移民の子も学校で普通に共存している社会だからこそ、大人にとっては、事件性の有無を判断しにくいという面もあったのだろう。これは大量に移民を受け入れてきた国、スウェーデンが抱えるジレンマのひとつではなかろうか。電車の中で置き去りにされた揺りかごのエピソードが、少年たちの事件とうまくからんでこないのが惜しまれる。
オススメ度:★★★☆☆
トップに戻る



『クリスマス・イブ』
(第24回東京国際映画祭・アジアの風部門)
裕福な家に泥棒が入る。さまざまなものが盗まれていて、彼らはそれを巡って争いを始めてしまう。このアイデアが秀逸である。クリスマスとは、クリスマス・ツリーの下にプレゼントを置き、家族団欒みんなでプレゼント交換をするいわば「愛の日」である。よりによってこの日に、家族それぞれのお互いの心の中に隠していたはずの不満が大爆発してしまうこと、ここにこの家族の偽善、言いかえればブルジョアジーの偽善が、格別に強調されている。
オススメ度:★★★☆☆
トップに戻る



『スリーピング・シックネス』
(第24回東京国際映画祭・WORLD CINEMA部門)
ドイツに家族を置いて1人残った医師は、アフリカの魔力にとりつかれ、もはや国には帰れない。一方、両親がコンゴ出身のフランス人医師は、アフリカにも居場所がない。夜のジャングルの闇は、自分の心を映す闇であり、そういう意味では確かに魔物が存在した。
映画としての魅力は確かにあるのだが、日本列島にへばりついて生きている自分には、もうひとつピンとこない作品。
オススメ度:★★★☆☆
トップに戻る



『別世界からの民族たち』
(第24回東京国際映画祭・コンペティション部門)
冒頭は、イタリア人の移民への不満を代弁したかのような過激な演説(実はジョークであることが後からわかる)で始まる。ところがその呪いの言葉が天に通じてしまったのか、雷鳴と共に移民がすべて蒸発してしまうという、奇想天外のコメディ。移民がいなくなった後、生活が立ち行かなくなり、大混乱するイタリア人たちが情けなくも可笑しい。その後の展開が広がりに欠けるものの、ラスト・シーン、川辺での年中行事は、フェリーニの映画のワン・シーンのようで素敵だ。
オススメ度:★★★☆☆
トップに戻る



『ヘッドショット』
(第24回東京国際映画祭・コンペティション部門)
悪には毒を持って制する。けれども、そんな正義は所詮人間の造り出したもの。善とも言えず、因果応報を受ける。仏門も救いはと言えず、ただ死の間際に、人生が精算されるということ、それが救いという、哲学するアクション映画。この監督は、きっと性悪説だと思う。演出としては、雨の使い方が降雨量の多い国ならではの面白さがある。
オススメ度:★★★☆☆
トップに戻る



『転山』
(第24回東京国際映画祭・コンペティション部門)
台湾と中国の合作の本作は、いやでも日中合作の『単騎千里を走る』を思い出させる。家族の遺志をついで中国を旅するというコンセプトが一緒なのだ。チベットの人々との交流、兄貴分の旅人との繋がりを通じて青年の顔が逞しくなってくるのだが、俳優自身の顔自体も変わってくるのがすごい。雄大で厳しい自然の中での撮影は、きっと困難も伴ったことだろう。そこも見所。後味が爽やかな青春ドラマになっているのだが、ただ亡くなった兄の遺志を果たしたこと、その意味についての言及が物足りない。
オススメ度:★★★☆☆
トップに戻る


(ドキュメンタリー)

『ボリウッド~究極のラブストーリー』
(第24回東京国際映画祭・アジアの風部門)
一応、インドの歴史とか、ボリウッドとは、みたいな ことも語られてはいるのだけれど、その辺は中途半端。でも今どきこれだけ豪華絢爛な映画が作られているのが素晴らしいし、見て美しく、聴いてノリノリ、何より楽しくて大満足。時間が短く、もっと観ていたかった。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る



『黒澤 その道』
(第24回東京国際映画祭・WORLD CINEMA部門)
アンゲロプロス、キアロスタミ、イーストウッド、スコセッシなどなど、黒澤明を語る彼等の顔は輝き、まるで少年のよう。彼等をそこまでにするほど黒澤明作品は魅力的なのです。それにしても、ベルトリッチ監督は老けたな。車椅子に座っていたし、大丈夫なのだろうか…
オススメ度:★★★☆☆
トップに戻る



『クレイジー・ホース(仮題)』
(第24回東京国際映画祭・WORLD CINEMA部門)
想田和弘監督が師と仰ぐ巨匠F・ワイズマン監督のドキュメンタリー。キャメラは観察者に徹している。スタッフたちのアツい思いも語られる。株主の要求と自分自身のアートへのこだわり、その狭間に苦悩する演出家やダンサーたちの楽屋裏の姿など舞台裏が興味深い。オーディションでは性転換者が紛れているハプニングも。斬新なショーもたっぷり見られるが、ちょっとお腹一杯になる。
オススメ度:★★★★☆
トップに戻る

Text by 藤澤 貞彦


▼「第24回東京国際映画祭」開催概要▼
期間2011年10月22日(土)~10月30日(日) 9日間
六本木ヒルズ(港区)をメイン会場に、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
映画祭公式サイト:第24回東京国際映画祭公式サイト

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)