「家族X」吉田光希監督インタビュー~“家族を繋ぎとめるもの”見たかった
人とのつながり、家族との絆が見直されるようになった大震災以降の日本。“家族を繋ぐもの”について、改めて考えてみたくなる映画『家族X』が9月24日(土)に公開初日を迎える。ある家族の静かな崩壊と再生への足取りを描いた吉田光希監督にお話をうかがった。
自分の家族映画で何が描けるか
東京郊外の新興住宅街に暮らす主婦・路子(南果歩)は、毎日家族が集うことのない食卓を整える。いつの頃からか交わることのなくなっていた家族の心。整然と繰り返されてきた路子の日常は、ある日静かに壊れていく――。この『家族X』は、2008年の第30回ぴあフィルムフェスティバル(以下、PFF)で審査委員特別賞を受賞し、スカラシップの権利を獲得して撮り上げた吉田監督の劇場デビュー作となる。
「学生時代から既に何本か映画を撮ってるんですけど、いつも自分と誰かの関係を描こうとしてきたんです。その中で一番身近な存在である親子を扱いたいと思ったのが前作『症例X』(PFF受賞作品)を撮ったきっかけです。そこから少し引いて見たときにあった単位が、やっぱり家族。昔から何本も名作が作られている題材ですけど、それでもなお、自分が撮る家族映画では何ができるのかやってみたかった」という吉田監督。1980年生まれという若さながら、主婦やサラリーマンら、居場所が見つけられない登場人物たちの置かれた環境をとらえる視点が実に鋭い。もしやインスピレーションを受けたような実体験があるのだろうか。
「実体験というわけではなく、“一体なぜ家族という関係を保っているのか”ということを見ようとしていたのかなぁ」と否定し、少し考えてこう続けた。「いわゆる“普通の家族”って、何が、どういう関係性がそうなのか。家族を繋ぎとめているものって、単純に血縁や婚姻といった関係だけじゃない。その家族同士の間にあるものを見たかったんですよね」
願いが身近な人に届かない寂しさ
登場人物に関しては、生い立ちから今に至るまでの細かな履歴書を作成し、設定を作りこんだという。実生活では映画の設定と同様、都内でご両親と暮らしている吉田監督。映画を作るに当たり、やはり息子のキャラクターにご自身の視点を投影させたのだろうか。
「シナリオの段階ではそうなると思っていたのですが、撮影していくうちに、むしろ路子と自分を重ねる心境になっていきました」と意外な答えが返ってきた。
「路子の思いというのは、例えば作った料理を食べてほしいとか、自分の願いが身近な人に届かない寂しさなんです。映画では主婦として描いているけど、それってもっと誰にでも起こり得る孤独な感情であるということが見えてきたんですよね。そう考えた時に、自分と路子が重なった部分がありました」
小学生の時は漫画家になりたいと、ノートに漫画を書いていたという吉田監督。目標はやがて映画へと変わっていったわけだが、“物語をつくり、伝えたい”という表現者としての欲求が垣間見られた言葉だった。
南果歩「イメージとは真逆」がポイント
どこか虚ろで、不確かな印象を観る者に与える主婦・路子。演じる南果歩さんについて、
「キャスティングはプロデューサーと相談するなかで決まっていったのですが、路子は僕がいままで映画で見てきた南さんのイメージと真逆の役柄だと思いました。南さんには、一本芯の通った役をやられている印象があったので。路子というのは、すごく色んなものに追い詰められる役。イメージ通りではなく、すぐに想像できなかったから意味があるような気がしました」と吉田監督は語る。そして、その南さんを背後からカメラがひたひたと追っているような撮影方法が印象的だ。
「この作品は家の中のシーンが多いので、三脚を据えてしまうと俳優さんのお芝居できる範囲が限られてしまう。お芝居の自由度を作りたかったということもあるし、路子を追いかけ、彼女をとらえて放さないことで、見ている人も彼女の心境に近づけないかなという思いがありました」
家族が暮らす住宅街の風景は、八王子市みなみ野。吉田監督が通っていた東京造形大学の隣の駅で、「4年間、毎日電車の中から見ていた風景。まだ空き地もあって、作られつつある住宅街という感じですね。また数カ月すれば風景が変わってしまうような場所なので、今ここで撮りたいという気持ちがありました」という。戸建の家の中で浮遊するかのような家族を抱えてこんで、未来へと姿を変えていく住宅街。「それが明確に絵に映っているかというとそうでもないんですけど(笑)。そういう場所で撮ることもひとつ意味があるかなと思って」
海外の映画祭で気付いた普遍性
日本で反応を見るより早く、完成した本作が初めて観客に披露されたのは海外の映画祭だった。ベルリン国際映画祭、ブエノスアイレス国際インディペンデント映画祭など、『家族X』とともにいくつかの映画祭をまわった吉田監督だが、国が異なれば観客の反応も違っていたのだろうか。監督は、「むしろ似ていたような気がします」と言う。
「『こうした家族の問題は、自分の国だけのものではないことを知りました』という感想もいただきました。それは逆に僕が気付かされたことですよね。日本だけの問題ではないということ」
そしていよいよ日本で公開を迎えるわけだが、気が早いかなと思いつつ、今後の構想について聞いてみた。
「次回作の構想は、練ってはいます。これまでわりと重い題材を扱ってきたので、それとは違う明るいものを撮りたいなとは思っていましたけど、ここ1~2週間でまた似たようなことをやりたくなっちゃって(笑)。心が感じる痛みみたいなものに、何が救いになるのか考えたい気がするんですよね、いつも」
映画と同じく“伝えるべきもの”の形を探るように、慎重に言葉を探してインタビューに答えてくれた吉田監督。その姿からは、洞察力の深さが垣間見える。過去のPFF入選者には現在第一線で活躍している映画監督の名前が並ぶが、フレッシュな吉田監督の才能にも今後大いに期待したい。
取材・文、撮影 : 新田理恵
<プロフィール>吉田光希(よしだ・こうき)
1980年10月7日、東京生まれ。東京造形大学造形学部デザイン学科映画専攻領域卒業。在学中より諏訪敦彦監督に師事したほか、塚本晋也監督作品を中心に映画制作現場に参加する。卒業後は製作プロダクションにてCMやPVの制作に携るかたわら、自主製作映画4作目の『症例X』で第30回PFF審査員特別賞を受賞。スカラシップの権利を獲得し、本作『家族X』で劇場デビューを果たす。※『症例X』は10月8日(土)~21日(金)の2週間限定で、ユーロスペースにて公開される。
▼作品情報▼
『家族X』
【監督・脚本】吉田光希
【プロデューサー】天野真弓
【撮影】志田貴之
【出演】南果歩、田口トモロヲ、郭智博ほか
9月24日(土)、ユーロスペース他にて全国順次ロードショー!
2010年/35ミリ/90分
配給=ユーロスペース+ぴあ
(C)PFFパートナーズ
2011年9月23日
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