「ミラル」紛争の地の半世紀を、愛と希望に満たして描く意欲作

『潜水服は蝶の夢を見る』で世界的に高い評価を得たジュリアン・シュナーベル監督の最新作『ミラル』は、紛争の中で生き抜くパレスチナ人女性の姿を描く意欲作だ。画家としても著名な同監督による独特のカメラワークと映像感覚は、厳しい運命に翻弄されながらも懸命に生きる女性たちの姿を美しく描き出す。

物語は1948年イスラエル建国宣言の1カ月前から始まる。ヒンドゥ(ヒアム・アッバス)はエルサレムの路上で、ユダヤ民兵組織に家族を殺された子ども達55人と出会う。連れ帰り、空き家となっていた祖父の家で保護することに決めるヒンドゥ。これが、幼稚園から高校までの孤児たちがともに学び、生活するダール・エッティフル(子どもの家)の学校の始まりだ。やがてその門を、母親をなくした7歳のミラルがくぐり、聡明で強い少女に成長していく。ヒンドゥとミラルのほか、つらい過去を抱えたミラルの美しい母ナディア、テロ活動に身を投じるファーティマという4人の女性の人生にスポットを当てながら、パレスチナの半世紀をたどる。

本作はイスラエル生まれのジャーナリスト、ルーラ・ジブリール(脚本も担当)による自伝的小説「ミラル」を原作としている。ミラルがそうであったように、ダール・エッティフルで少女時代を過ごし、やがて外の世界へ飛び立ったルーラ。彼女は教育と、周囲の大人からの愛という恩恵にあずかった。難民キャンプに暮らす少年少女と比べると、恵まれた境遇にあったと言えるのかもしれない。では、真のパレスチナ問題を捉えきれていないのかというと、それは違う。彼女が伝える世界もまた、パレスチナ問題の真実の一側面であり、彼女のような存在こそが、紛争の地に光をもたらす一筋の希望となるのは事実である。

ミラルを演じるのは、ダニー・ボイル監督作『スラムドッグ$ミリオネア』のヒロイン役で注目されたフリーダ・ピント。インド出身ながら、その生命力を感じさせる魅力は、ミラルという少女像に説得力を持たせている。また、ヒロインの限りない未来を祈らずにはいられないエンドロールに流れる曲はトム・ウェイツの「Down there by the train」。音楽スーパーバイザーも務めたシュナーベル監督のセンスにうならされる。

Text by :新田理恵

オススメ度:★★★★☆

8月6日(土)、渋谷・ユーロスペースほか全国順次公開!

【原題】MIRAL
【監督】ジュリアン・シュナーベル『潜水服は蝶の夢を見る』
【出演】フリーダ・ピント『スラムドッグ$ミリオネア』、ヒアム・アッバス『扉をたたく人』、ウィレム・デフォー『アンチクライスト』

2010年/仏・イスラエル・伊・インド/英語/112分/35mm/カラー作品/1.85:1/ドルビーSRD/字幕翻訳:渡邉貴子
配給:ユーロスペース+ブロードメディア・スタジオ
協力:コミュニティシネマセンター

(C)PATHÉ – ER PRODUCTIONS – EAGLE PICTURES – INDIA TAKE ONE PRODUCTIONS with the participation of CANAL + and CINECINEMA A Jon KILIK Production

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