「サンザシの樹の下で」圧倒的に清らかに描かれた異常な時代の純愛


文化大革命という異常な時代を背景にしながらも、「ケータイ小説」を読んだような感覚にとらわれる。ピュアで古典的。ともすれば、ただ現実離れしたおとぎ話にすらなり得た危険もある純愛物語に、チャン・イーモウ監督は『秋菊の物語』(92年)で用いたような抑制の効いた演出で説得力を加えている。

1970年代初頭の中国。「農民に学べ」という毛沢東の方針のもと、都会の学生は農村に派遣され、住み込みの実習を強制された。女子高生のジンチュウ(チョウ・ドンユィ)は、送られた村で青年スン(ショーン・ドウ)と出会う。互いにひかれ合う二人。しかし、ジンチュウは両親が「反革命分子」として迫害を受けている身で、革命の教えに背いて恋にうつつを抜かしていると見なされては、将来が危ない立場。一方のスンは恵まれた共産党幹部の息子という、“身分違い”な二人だった……。

原作者の友人が体験した悲恋がベースの実話だというが、文革という厳しい時代背景も、本作ではあくまで純愛を盛り上げるエッセンスの一つといった扱いだ。それゆえに時代背景の描写がライトで、二人が置かれた立場の厳しさ、切ない心情が日本の観客の胸には容易に迫ってこない難点も。しかし、そこを補って余りあるのが、圧倒的な清らかさだ。それは本作で映画デビューした主演チョウ・ドンユィの世間ずれを感じさせないピュアな魅力と、ショーン・ドウの一本気で爽やかな好青年ぶりによるところが大きい。なかでもショーン・ドウはチャン監督の新作『金陵十三釵/Nanjing Heroes』にも続けて起用され、クリスチャン・ベールと共演している今後要チェックのイケメンだ。中国で一躍人気者になった二人の今後に要注目である。

Text by: 新田理恵
オススメ度: ★★★☆☆


『サンザシの樹の下で』(原題: 山楂樹之戀)
【監督】チャン・イーモウ
【製作】チャン・ウェイピン、ビル・コン
【出演】チョウ・ドンユィ、ショーン・ドウ、シー・メイチュアンほか
2010年/114分/中国

新宿ピカデリー他で公開中

© 2010, Beijing New Picture Film Co., Ltd and Film Partner (2010) International, Inc. All Rights Reserved.

公式サイト http://sanzashi.gaga.ne.jp/

トラックバック 2件

  1. soramove

    映画「サンザシの樹の下で」おとぎ話のような純愛…

    「サンザシの樹の下で」★★★★ チョウ・ドンユィ、ショーン・ドウ、 シー・メイチュアン出演 チャン・イーモウ監督 113分、2011年7月9日より順次公開 2010,中国,ギャガ (原作:原題:Under the hawthorn tree ) →  ★映画のブログ★どんなブログが人気なのか知りたい← 映画を見ている間じゅう サントリーの烏龍茶のCMが連想された。 「初恋と田舎の生活 名作『初恋のきた道』を彷彿とさせる設定 監督はどうしてもこの時代と人間を 描かずにはいられないようだ、 切なさが全編…

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