「女と銃と荒野の麺屋」巨匠チャン・イーモウのあくなき挑戦

万里の長城の西の果て・嘉峪関の荒野を舞台に、欲望うごめく人間臭い犯罪劇が展開する。若き日のコーエン兄弟によるスリラー『ブラッド・シンプル』(87年)を大胆に再構築した意欲作。チャン・イーモウ監督が得意とする鮮やかな色使いが褐色の大地に映える。

中華麺の店を経営するワン(ニー・ダーホン)は、妻(ヤン・ニー)が従業員リー(シャオ・シェンヤン)と浮気していることを知る。怒り心頭のワンは、巡回警察官チャン(スン・ホンレイ)に妻とリーの殺害を依頼。しかし、麺屋の金庫にある大金に目をつけていたチャンは、ワンが思ってもみなかった行動に出た……。
物語の骨子と予測のつかない展開の面白さは『ブラッド・シンプル』のそれを継承しているが、ホラー映画的な要素の強かったオリジナルに比べ、コメディ色が強く打ち出された印象。舞台の総合監督や、北京オリンピック開閉幕式の芸術監督を務めるなど、幅広いジャンルで活躍するチャン監督だけあって、深夜の麺屋で繰り広げられる格闘シーンなどは京劇の演目「三岱口」をも髣髴とさせる。キャストも中国国内で人気の高いコメディアンや舞台経験も豊富な実力派俳優を起用し、これまでのチャン・イーモウ作品にはなかった“荒野の大演芸大会”といった趣が楽しい。
北京オリンピックの準備のため、約2年間、映画製作から離れていたチャン監督。この『女と銃と荒野の麺屋』は“復帰”後に手掛けた最初の作品だ。中国内陸部を舞台にした『紅いコーリャン』など初期の作品で世界の目を中国映画に向けさせ、『HERO』以降はワイヤーアクションを多用した商業映画で大ヒットを連発。これまで常にブームをけん引してきた中国の巨匠が、今後も新たな挑戦を続けていくことを宣言した“決意表明”の如き一本である。

Text by:新田理恵

オススメ度:★★★☆☆

【原題】三槍拍案驚奇(英題:A Woman, A Gun and A Noodle Shop)
【監督】チャン・イーモウ
【出演】スン・ホンレイ、シャオ・シェンヤン、ヤン・ニーほか
【配給】ロングライド
2009年/中国映画/90分

9月17日(土)より、シネマライズほかにて公開

公式サイト http://www.kouya-menya.jp/

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