「テンペスト」シェイクスピア作品に挑んだジュリー・テイモアの意欲作

ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の最後の作品とも言われる「テンペスト」。日本では「あらし」とも訳される戯曲が、執筆から400年の時を経て公開された。監督は、舞台の演出家でもある『アクロス・ザ・ユニバース』のジュリー・テイモア。同原作はこれまでにも何度か映画化がなされているが、本作は主人公のミラノ大公(プロスペロー)を女性(プロスペラ)に翻案、主役にオスカー女優ヘレン・ミレンを迎え、大胆なアレンジを加えたテイモア監督の野心作だ。

 シェイクスピアほど後世に影響を与えた劇作家はいないのではないだろうか。舞台はもちろん、映画、ドラマは数多く存在する。黒澤明監督の『乱』が「リア王」をベースにしているのは周知のとおりだ。シェイクスピアの戯曲のセリフは、様々な場面で引用される。本年度米アカデミー賞作品賞『英国王のスピーチ』でも用いられていたのは記憶に新しい。

しかし、400年も経過して、なぜいまだにシェイクスピアなのか…?私は、なんといってもプロットの面白さにあると思う。彼の作品に多く見られる、復讐や陰謀、その陰に渦巻く憎悪、嫉妬、野心…というような人間の根底にあるドロドロした部分。結局それは今も昔も変わらない部分であり、誰もが持ち得る要素であり、だからこそ否応がなく惹きつけられる。また、原作はト書きが少なくセリフによって進行するので、舞台や映画、ドラマにする際にも自由度が高いのかもしれない。作品として、多様なアレンジを許す懐の深さ…のようなものがあるのだろうか。

では、このたびの『テンペスト』はどうだろう? 弟の陰謀により、国を追われたミラノ大公プロスペラ(ヘレン・ミレン)は幼き娘ミランダと共にある孤島に流れ着く。復讐の時を12年間待った彼女は、魔術により嵐を引き起こさせ、弟のミラノ大公やナポリ大公らの乗った船を沈め、自らの島に引き寄せる…。

この作品のテーマは「復讐と赦し」である。プロスペラが、自身を破滅に追い込んだ者たちへの復讐に心燃やしながらも、ある時からそれが赦しへと変わっていく。魔術を放棄しただの人間に戻ろうとする。その過程が興味深い。また、主人公を女性にしたことで、猛々しさと言うよりは冷静さ、母としての優しさもクローズアップされている。娘ミランダとナポリの王子との恋愛模様も初々しく、復讐劇のなかにさわやかな余韻を残している。映像的にもCGを駆使し映画ならではの楽しさを盛り込んでいて、特に妖精エアリアル(ベン・ウィショー)、怪物キャリバン(ジャイモン・フンスー)といった、「人間でないもの」の描き方が絶妙だ。

これからまだまだ世に登場するであろうシェイクスピア作。今後も、更なる自由度を増して、私たちを楽しませてくれるに違いない。

Text by 外山 香織

オススメ度★★★☆☆

製作国:米 製作年:2010年
原作:ウィリアム・シェイクスピア
監督・製作・脚本:ジュリー・テイモア
出演:ヘレン・ミレン、ジャイモン・フンスー、ベン・ウィショー
公式サイト http://www.tfc-movie.net/tempest/index.html
(C) 2010 Touchstone Pictures

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