2024年3月イスラーム映画祭9の開催が決定

ガザが戦争中の今だからこそ知っておきたいことがある。

2024年3月16日(土)から渋谷ユーロライブを皮切りに、東京・名古屋・神戸の3都市にて『イスラーム映画祭9』を開催される。名古屋においては、本年7月に閉館した名古屋シネマテーク跡地に新たに誕生する「ナゴヤキネマ・ノイ」にて開催することも決定した。

特に今回は、10月7日にパレスチナ・ガザ地区を拠点とするイスラム組織ハマスの越境攻撃から始まった戦争のただ中での開催となり、その注目度は高い。2023年11月28日までのガザ地区の死者は1万5000人を超え、そのうち子供の死者は6150人にも上るという。爆撃による死者だけではなく、必要な物資が得られないことから病院で治療を受けられずに亡くなる人も多数いるというのがまた痛ましい。そもそもイスラエルとパレスチナはなぜこのようなことになったのか。テレビでも色々と解説はされているが、短い時間ではなかなかピンとくるものがない、そんな人も多いかとも思う。その点、今回上映される劇場未公開の傑作『ファルハ』は、パレスチナ問題の原点である1948年のイスラエルによる民族浄化、“ナクバ”(アラビア語で“大災厄”)を少女の視点から描いているので、大変わかりやすい。映画は、遠い世界の出来事を身近なものに感じさせてくれるもの。また上映後には早稲田大学文学学術院教授で、パレスチナ問題を専門とされている岡真理さんのトークセッションも行われるので、この問題をより理解しやすくさせてくれることだろう。

12月2日、そのイスラエル軍により、シリアの首都ダマスカス近郊で、イラン影響下のイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラの拠点が空爆された。ヒズボラはアサド政権を支援する立場だが、逆にアサド政権は、最近サウジアラビアと近づいている。イランとシリアが近くなりすぎることを警戒しているのである。(ああ、それにしてもこの地域は、なんと複雑なのであろう。) 元々「アラブの春」がきっかけで始まった内戦だが、まだ終息したわけではない。軍事情勢はアサド政権に有利に動いるため、民衆革命への弾圧はますます厳しいものになっている。その独裁政権下で長年行われている人道犯罪、“強制失踪”の被害者家族を追ったドキュメンタリー映画『アユニ/私の目、愛しい人』(日本初公開)も注目される作品である。

ヨーロッパに目を向けると、フランスの都市郊外(バンリュー)に暮らす移民ルーツの若者たちの実態を、モノクロのシャープな映像で描いて本国公開時(1995年)に一大センセーションを巻き起こし、日本でも1996年に公開され話題となったフランス映画『憎しみ』が28年ぶりに劇場公開(東京・神戸のみ)される。ユダヤ系、アラブ系、アフリカ系の若者たちが主人公で、警官の失くした拳銃をユダヤ系青年が拾ったことから爆発する彼らの鬱屈した心情を描いており、『レ・ミゼラブル』(2020)へと続いていく「郊外(バンリュー)映画」(フランス映画の一ジャンル)の正式な誕生とも言われるエポックメイキングな作品である。

シリーズ企画では、イスラーム映画祭7から続く北アフリカ・マグリブ諸国の女性監督を紹介するシリーズの決定打として、『私は今も、密かに煙草を吸っている』が初公開となる。アルジェリア内戦中フランスへ亡命した俳優兼舞台演出家が、公衆浴場「ハマム」を舞台に抑圧下の女性たちを描いた戯曲を、自ら映画化したワンシチュエーション・ドラマである。

他にも、2006年に起きたイスラエルによる第二次レバノン侵攻後、1年足らずの間に撮影された戦禍の人間ドラマ『戦禍の下で』。12世紀アンダルシアが舞台の歴史大作『炎のアンダルシア』。東京国際映画祭で『タタミ』が審査員特別賞を取ったことが記憶に新しいイランからは、女性たちの生き方を描いた作品『私が女になった日』(22年ぶりの劇場リバイバル)『メークアップ・アーティスト』などなど。歴史大作からヘビーな社会派ドラマ、移民をテーマにした子ども映画やコメディまで、今観るべき映画、多彩な12作品が上映される。
もちろん、今回も気鋭の研究者やジャーナリストを迎えての上映後のトークセッションも、東京では過去最多の11回が予定されており、映画を楽しみながら世界を知る貴重な機会になることは間違いないであろう。
全ラインナップ、開催概要は以下のとおりです。作品の詳細は、イスラーム映画祭公式サイトをご覧ください。

ラインナップ

1 『炎のアンダルシア』12世紀アンダルシアが舞台の歴史大作。26年ぶりの劇場リバイバル
2 『私は今も、密かに煙草を吸っている』フランスへ亡命した女性監督が描くアラブ女性たちの本音★日本初公開
3 『アユニ/私の目、愛しい人』シリア政権下で続く人道犯罪を訴えるドキュメンタリー★日本初公開
4 『ファルハ』民族浄化を目撃するパレスチナ人少女の物語
5 『戦禍の下で』フィクションがドキュメンタリーと化す戦禍のドラマ
6 『憎しみ』公開当時フランスで社会現象となったエポックメイキング★28年ぶりの劇場リバイバル
7 『ハンズ・アップ!』クラスの移民少女を守るための子どもたちのレジスタンス
当サイトレビュー:【TIFF】ハンズ・アップ!(World Cinema部門)
8 『辛口ソースのハンス一丁』ドイツに暮らすトルコ移民二世の恋愛と家族事情
9 『私が女になった日』イラン・イスラーム社会における女性たちの生き方★22年ぶりの劇場リバイバル
10 『メークアップ・アーティスト』自分らしく生きようとする現代イラン女性の肖像
11 『スターリンへの贈り物』旧ソ連圧政下における宗教や民族を超えた共生の物語
12 『ハーミド〜カシミールの少年』カシミール問題が背景の無垢なムスリム少年の父親探し

【開催概要】

【東 京】
会期:2024年3月16日(土)17日(日)23日(土)24日(日)※4日間
会場:渋谷ユーロライブ(ユーロスペース階下)
   ( http://www.eurospace.co.jp/
【名古屋】
会期:未定
会場:ナゴヤキネマ・ノイ
【神 戸】
会期:2024年4月27日(土) – 5月3日(金)
会場:神戸・元町映画館( http://www.motoei.com/

主催:イスラーム映画祭
公式サイト:http://islamicff.com/
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