シスタースマイル ドミニクの歌

想いは時代と国境を越えて、甲子園へ!?

私事で恐縮ですが、筆者の母校が今年の夏の甲子園に出場いたしました。激戦の地方予選を勝ち抜き、甲子園に出場できただけでも十二分に感激したのに、何と決勝戦という最高の舞台にまで辿り着くことができて、OBとしては居ても立ってもいられず、甲子園まで応援に駆けつけました。準優勝という結果でしたが、甲子園という高校野球の聖地に連れてきてくれたことに、もう言葉もありません。本当に選手達には感謝の気持ちでいっぱいです。高校野球が大好きな筆者にとって、まったくもって暑くて、熱い、素晴らしい夏でした。

実は、母校の野球応援のレパートリーのなかに、現在公開中の映画『シスタースマイル ドミニクの歌』で、ヒロインの修道女ジャニーヌ(セシル・ドゥ・フランス)が作曲し、自ら歌って世界的な大ヒットとなった「ドミニク」のメロディーをアレンジしたものが使われているのです。恥ずかしながら筆者はその事実について、本作を見るまで知りませんでした。メロディーは知っていたけれど、これが「ドミニク」だったとは・・・。なので、映画のなかで“ドミニ~ク、ニク、ニク♪”の旋律が流れたとき、我が耳を疑いましたね。こ、これは、母校の野球応援に使っているメロディーと同じではないか!・・・と仰天ものでした。

この映画は実話をベースにしています。「ドミニク」が誕生したのは、1960年代初めのベルギー。抑圧的な母親に反発し、生きる意味を求めて修道院へ入ったジャニーヌでしたが、修道院にも厳格な規律が存在することを知り、失望してしまいます。そんな日々のなかで、ジャニーヌは聖ドミニコの教えを元とした「ドミニク」を作曲し、それがレコード会社の目に留まり、「シスタースマイル」という名前で歌手デビューすることになったのです。そして「ドミニク」はあっという間に世界中で大ヒット!ジャニーヌも一躍人気者になるのですが・・・。

映画は、ジャニーヌのサクセス・ストーリーというよりも、有名人になった彼女の「その後」に焦点が置かれています。自分を抑圧する修道院を飛び出したものの、教会の猛反発を食らい、思うように歌手活動ができなくなったり、頂点を見てしまった人間が普通の生活に還ることの難しさが描かれるなど、彼女は次第に追いつめられてしまいます。彼女の願いは、純粋に「多くの人の前で歌いたい」ということだったのに、周囲の環境はそれを許してくれなかったのです。ジャニーヌの挫折や転落の過程において、愛と夢と希望に満ちていて清々しいまでの輝きを放つ「ドミニク」。その輝きがジャニーヌの悲劇的な最期とはあまりにも対照的で、観る人の胸にほろ苦い余韻を残します。

その「ドミニク」が誕生してから約半世紀。その間、日本でもペギー葉山、ザ・ピーナッツがカバーするなど人気を博したそうですが、まさか21世紀の日本の高校球児の聖地、甲子園で「ドミニク」のメロディーが響いただなんて、天国のジャニーヌが知ったら、さぞ驚くのではないでしょうか?もちろん、「ドミニク」の歌詞は原型をとどめていません。そりゃあ当たり前ですよね、野球応援用なので学校名や選手の名前を叫んでいるんですから。でも、時代や国を超えて、かたちは変えてもジャニーヌが残した想いが、意外なかたちで受け継がれていたことに、感慨深いものがありました。

「ドミニク」の軽やかなメロディーにのせて、メガホンを振り回し、最後の最後まで希望を持って応援をした高校野球。奇しくも敗戦が決まった瞬間に流れていたのが「ドミニク」でした。甲子園での母校の躍進とともに、「ドミニク」は今年の夏の記憶に刻み込まれた一曲となりました。天国のジャニーヌも喜んでくれるでしょうか?この映画に出会えたこともきっと何かのご縁。ステキな出会いにも感謝しています。

Text by:富田優子
オススメ度:★★★★☆
原題:Soeur Sourie
製作年:2009年、製作国:フランス=ベルギー
監督:ステイン・コニンクス
出演:セシル・ドゥ・フランス、サンドリーヌ・ブランク
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/dominique/

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  2. NiceOne!!

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