(ライターブログ)夜のロケーション【イタリア映画祭】

カンヌで絶賛された超大作

有楽町で開催されたイタリア映画祭2023のラストを飾った「夜のロケーション」を観てきました。カンヌで絶賛された話題作なのに、未だ劇場公開が決まっていないということで(330分だから?)、とても貴重な機会でした。
以下、レビューです。
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本作でマルコ・ベロッキオ監督がテーマにしたのは”赤い旅団”。このテロ組織は、1978年にモーロ首相を誘拐し殺害するという事件を起こしていて、真相は謎に包まれたまま。黒幕と言われたジュリオ・アンドレオッティ元首相は、多くの疑惑を残しながら裁判で無罪放免となっています。

ベロッキオ監督は「夜よ、こんにちは」(03)という作品でも、この事件を赤い旅団の視点から撮っているんですが、その後思うところがあったのでしょう。今作では、この事件に深くかかわった6人の立場(視点)から、6つに章を分けて事件を振り返っています。

以下、ネタバレあります。

この事件には東西冷戦の影響が根深くあり、背景はとても複雑。故に、作り手は事件の黒幕=悪という単純な構図にはせず、それぞれの立場から撮り、このような章立てにしたのかと思われます。

本作が語る事件の仮説とは、(真相は闇だけど)赤い旅団のバックにはモーロ首相と同じ党に所属していたアンドレオッティがいて、さらにその後ろにはアメリカの存在があったのではないか、というところかと。
ちなみにここまではパオロ・ソレンティーノ監督も「イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男」で匂わせてます。

が、本作はもう一歩踏み込んでいて、冒頭とラストで「もしモーロ首相が殺されずに解放されていたら」というフィクションを挿入しています。そして、このシーンこそが本作の核心なんでしょうね。
「モーロ首相が夢見たその理想は、現実になり得たのだろうか・・・」

もちろん、モーロ首相が犠牲になっても仕方がないなんてことは全く言ってないし、彼は話し合いで政治の舵取りを試みたイタリアの良心であったことがわかります。観客はテロの卑劣さや残酷さに怒りを覚え、モーロ首相の解放を最後まで諦めずに観ることになるでしょう。

でもって、今のイタリアはモーロの命(良心)と引き換えにあるのかと考えると、凄いもの観ちゃったなという気にさせられます。

ちなみに、前述のパオロ・ソレンティーノ監督は「イル・ディーヴォ」で、この重苦しい事件の顛末についてサラッとポップに(?)語っちゃってます。(やっぱり天才なんでしょうね。もう一回観たいな)

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