『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』セドリック・カーン監督

人生とは悲喜劇。深刻な時間もあれば楽しい時間もある。

――映画のなかに子供たちの演劇やロマンが撮影する映像が組み込まれていましたが、その意図するところは何でしょう?

CK:家族のメンバーは何かしらのアーティストと言えるでしょう。各々の立場や視点で自分のストーリーを語る構造にしたかったのです。それから私自身が信じているのは、私たちを狂気から救うのは芸術的な表現であり、演技は人を救うと思っています。ロマンの撮っていた作品自体は狂っていたでしょうが、彼の狂気のクリエイティブな部分や楽しい面を表しています。対してヴァンサンは現実的で遊び心がない。そういう意味でヴァンサンは悲劇的な人物と言えるかもしれません。

――『ロベルト・スッコ』(01)等のカーン監督の作品では、父親が不在で、でも困難を乗り越えていくことがテーマであったと思います。それが本作にも通底していると思えるのですが。

CK:家族における父親の不在は私にとって重要なテーマです。本作でも父親の不在=女性の存在感が強いことを表しています。でもそれはすべての家族において、父親的な権威、強い男というのはもう失われています。男性の立場が難しいのは多くの家族に言えることではないでしょうか?

――そうすると本作は結果的にアンドレアやクレールなどの女性を中心とした映画とも言えそうですが、そうなった理由を教えてください。

CK:自分の家族が本作のインスピレーションの源になっているのですが、我が家では女性が強いんですよ。男性は女性の存在に押しつぶされています。ですので、この作品は私の初のフェミニズムの映画と言えるのかもしれません。

――コロナ禍にある現状ですが、あなたの監督として、または俳優として、このコロナ禍があなたの映画づくりにどのように影響を及ぼすと思いますか?

それを決めるのはまだ早過ぎるかもしれません。フランスでは演劇の公演が中止になったり、博物館や美術館は休館したりしていますが、映画の撮影は続けられていますのでまだマシなほうです。ですから映画業界がどうなるか、私自身がどうなるかはまだ答えが出ない状況です。ただ映画は現実に近いものなので、いずれ何らかの影響は出てくるでしょう。

――本作を通じて伝えたいメッセージがあれば教えてください。

本作はスペシャルでパーソナルなことを語っていますが、すべての人が共感できるものであればと思っています。日本の方々が本作を見て下さるのは嬉しいですが、このコロナ禍のために日本へプロモーションに行けなくて残念でした。日本が好きなのでいつか必ず行きたいですね。

≪プロフィール≫
セドリック・カーン(CÉDRIC KAHN)
1966年6月17日生まれ。フランス出身の映画監督・脚本家・俳優。パリ高等映画学院で学び、92年に映画監督デビュー。長編初監督作である『鉄道バー』(92)をヴェネチア国際映画祭に出品、2作目の『幸せ過ぎて』(94)でジャン・ヴィゴ賞およびカンヌ国際映画祭ジュネス賞を受賞。また『ロベルト・スッコ』(01)が第54回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に、『The Prayer』(18)は第69回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に正式出品されている。俳優としての出演作には『おとなの恋の測り方』(16)、『COLD WAR あの歌、2つの心』(18)など。


©Les Films du Worso
1月8日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー

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