柳下美恵のピアノdeシネマ2019 ローレル&ハーディ特集

ローレル&ハーディ、不条理と狂乱の世界【解説:新野敏也さん】

「リバティ」Liberty 1929年

ストーリー
アメリカでは、昔から自由のために戦っている人たちがいた。彼らも自由のために戦っていた。その彼らとは、脱獄囚のローレル&ハーディ。しかし、警官から追いかけられ逃げ回る途中、彼らはひょんなことから建設中の高層ビルに誤って登ってしまう。高層階の剥きだしの鉄骨の上から決死の脱出を試みるローレル&ハーディだったが、頭はクラクラ、膝はガクガク、恐怖と同時に笑いが観客を襲う。
新野さんによる作品紹介
のちの名匠レオ・マッケリーとジョージ・スティーブンスが、若き日にノリノリで作った悪趣味な名作!? 絶望と危険が織りなす、予測不能な悪夢の展開!男二人の妖しい距離感をお楽しみあれ♪


詳細解説(上映前)

新野敏也さん
この作品は反復の使い方がちょっと変わりまして、初めの2本とは趣向がだいぶ違います。前のふたつは、まったく2人のテンポが合わないところから段々合って、最悪な展開を迎えるというような作り方でしたけれども、『リバティ』は、2人がリズム感とかテンポをよく合わせています。加トちゃんケンちゃんにもこれと通じるような演技とか間合いがあります。実は昔、志村けんさんが上映会にご来場されたことがあって、かなりこの間合いを研究されているみたいですね。


詳細解説(上映後)

新野敏也さん(以下新野)ご感想はいかがですか?

柳下美恵さん(以下柳下) これは演じるのに結構体力がいる映画かと思うのですが、若いからこんなことができたのですか?

新野 それはあると思いますね。『僕たちのラストステージ』では、今日ご覧いただいた作品の5年以上後から始まって、さらに老齢期に向かう時期をテーマにしておりますので、この絶頂期のフィルムと比べますと、だいぶ雰囲気が違いますよね。

柳下 私は高所恐怖症なので怖かったですね。本当にあんなに高いところ(鉄骨を組んでいる最中のビルの最上階)演技しているのですか?

新野 ネタばらしをしますと、ビルの屋上に鉄骨のセットを組んでおります。そこでカメラアングルを考え、フレームでうまく切り取ることによって、本当に高いところに上がっているように見せているのです。屋上に組んでいるセットですから背景自体は本物なので、本当に高く見えますよね。実際に演じている人たちは、危険性はないとはいえ、本当に高い場所で演じていますので迫力があり、スタジオで合成しているのとは意識も違い、演技自体も生きてくるのかなと思います。

柳下 最後にエレベーターのカゴの下敷きになり、潰された人の背丈が縮んでしまうというギャグが(笑)

新野 監督が後に『我が道を往く』を作っている名匠のレオ・マッケリーで、カメラマンが『シェーン』とか『ジャイアンツ』を監督したジョージ・スティーブンスですから、この頃まだ若かった2人が、ノリノリに悪いことを考えていたんじゃないかという気がしますね(笑)

柳下 ローレル&ハーディのスボンの中に入り大暴れして、2人を危機に陥れるカニも大活躍でした(笑)

新野 カニという設定がまた…よく思い付きますよね(笑)

柳下 本当にカニが(笑)やっていないですよね(笑)…暴力的なのが本当に身体に染みました。ということで、本日はありがとうございました。新野さんは『僕たちのラストステージ』のパンフレットで解説も書かれていますので、映画をご覧になられた時にお買い求めいただければと思います。


作品情報
『リバティ』
Liberty 1929年 [アメリカ映画/DVD/19分]
M.G.M.配給、ハル・ローチ・スタジオズ作品
製作:ハル・ローチ、監督:レオ・マッケリー
脚本:レオ・マッケリー、H・M・ウォーカー
撮影:ジョージ・スティーブンス
共演:トム・ケネディ(看守)、ジェイムズ・フィンレイスン(レコード屋のオヤヂ)ハック・ヒル(巡査)、ジーン・ハーロウ(タクシーに乗ろうとする女性)


※写真資料提供:©喜劇映画研究会&株式会社ヴィンテージ
さらに詳しいローレル&ハーディの解説については、新野敏也さんのブログ「君たちはどう笑うか」の「ローレル&ハーディ特集」(全5回)にてご覧下さい。コンビの芸風、歴史など他では読めない情報が満載です。⇒「君たちはどう笑うか」ローレル&ハーディ特集

※映画と。『僕たちのラストステージ』レビュー⇒ローレル&ハーディ「極楽英国巡業」~友情の物語~

プロフィール

≪新野敏也(あらのとしや)さん≫
喜劇映画研究会代表。喜劇映画に関する著作も多数。
最新刊「〈喜劇映画〉を発明した男 帝王マック・セネット、自らを語る」
著者:マック・セネット 訳者:石野たき子 監訳:新野敏也 好評発売中
Web:喜劇映画研究会ウェブサイト

≪柳下美恵(やなしたみえ)さん≫
武蔵野音楽大学ピアノ専攻卒業。1995年朝日新聞社主催『光の誕生 リュミエール!』でデビュー以来、国内外で活躍。全ジャンルの伴奏をこなす。欧米スタイルの伴奏者は日本初。2006年度日本映画ペンクラブ奨励賞受賞。原一男、篠崎誠、西原孝至監督など新作映画の音楽も手掛ける。

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