【TIFF】彼ら(ワールド・フォーカス)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

photo-by-Gianni-Fiorito

政治の天才か、俗物の極みか
パオロ・ソレンティーノ監督が毀誉褒貶の激しいベルルスコーニ元首相を描く。莫大な富に囲まれ、色欲も露わな元首相をイタリアの名優トニ・セルヴィッロが鬼気迫る演技で再現。アクの強い元首相に対抗するような濃い演出に注目の話題作。

クロスレビュー

鈴木こより/政治家というよりパリピ度:★★★☆☆

P・ソレンティーノ監督が元伊首相ベルルスコーニを斬る。同監督は過去作『イル・ディーヴォ』でも元首相アンドレオッティの実像に迫り、政治家として葛藤する姿を描いているが、今作では政治家としての顔がまったく見えてこないから驚きである。演じているのは両者ともトニ・セルヴィッロ。早朝から教会に通い告解するアンドレオッティに対して、ベルルは美女やサッカー選手を口説くことに精を出す。そんな彼とその取り巻きによる泡沫の夢を冷やかに見つめる語り口は、フェリーニの「甘い生活」を思わせる。口から生まれてきたような人物だが、実業家で資産家という側面が色濃いところも、好みの女性についてもトランプそっくり。監督の意図はわからないが「彼ら」というタイトルに色んな含みを感じるのである。

富田優子/これはベルルスコーニ、そしてイタリアだけの問題ではない!度:★★★★★

胸やけするほどの狂乱の世界が繰り広げられるなか、とても印象的な場面がある。ベルルスコーニはかつて不動産業を営んでいたが、そのときの営業トークを再現するシーンだ。家がどんなに素晴らしいか、あなたにだけ特別に眺望の良い住まいを用意しよう、あなたのお嬢さんやお孫さんもきっと喜ぶ・・・的なことを言葉巧みに語りかけ、相手の期待値を釣り上げるだけ釣り上げる。この話術が政治家になった今も十分に生かされているのだが、結局のところ政治も〝営業トーク”で、ただの甘く空虚な夢を見させているだけ。ただ、これはベルルスコーニ、もしくはイタリアに限らず、あらゆる国にも通じる問題でもある。政治家の私利私欲やお友だちへの便宜供与、口先だけの美辞麗句・・・。どこかでも見覚え、聞き覚えのあるような。その結果として、夢が消え去ったとき、一体何が残るのだろうか。過激なまでに豪華絢爛な世界を見せつけられただけに、宴のあとの虚しさは大きい。ラストに登場する疲弊した人々の姿は、私たちの近い将来のそれなのかもしれない。辛辣さのなかにも憂いを残したソレンティーノ監督、こういう類の映画が日本でも登場することを切に願いたい。


第31回東京国際映画祭
会期:平成30年10月25日(木)~11月3日(土・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:https://2018.tiff-jp.net/ja/

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