トーキョーノーザンライツフェスティバル2018が2月に開催

~国別・独断と偏見の映画祭鑑賞ガイド~

フィンランド

「特集 監督、ミカ・カウリスマキ」

『ゾンビ&ザ・ゴースト・トレイン』(91年)

ゾンビマッティ・ペロンパーが初めて本格的に映画に出演したのは『つまらない奴ら』(82年)だった。この時31歳。この作品、監督はミカ・カウリスマキ、脚本はアキ・カウリスマキが担当している。アキ・カウリスマキに「悲しいネズミ」と表現されたこの男と彼らの友情はその後、彼が44歳の若さで亡くなるまで続いていく。

一方主演のシル・セッパラは元レニングラード・カウボーイズのメンバー。フィンランド・ロックのトップ・ベイシストと言われていた人である。アキ・カウリスマキ監督のレニングラード・カウボーイズものや短編映画『ロッキーⅥ』のロッキー役でも知られ、いずれの作品もマッティ・ペロンパーと共演している。この2人が親友という設定で共演を果たした幻の作品が『ゾンビ&ザ・ゴースト・トレイン』だ。ファンにとっては、涙なくしては観られない作品である。

この作品には他にも、レニングラード・カウボーイズのサッケ・ヤルヴェンパーマト・ヴァルトネン(『愛しのタチアナ』主人公)やカリ・ヴァーナネン(『浮き雲』主人公)もゲスト出演している。アキ・カウリスマキ監督の常連俳優たち、カリ・ヴァーナネン、サカリ・クオスマネン(『希望のかなた』)らは、ミカ作品にもマッティ・ペロンパーと共によく顔を出しているのだが、ほとんどの作品が日本未公開になってしまっているので、これは貴重である。ぜひ劇場で、カウリスマキ組の懐かしい顔を探してみてください。

『ティグレロ 撮られなかった映画』(94年)

ティグレロカウリスマキ兄弟とサミュエル・フラー監督との繋がりは、86年にカウリスマキ兄弟とペーター・フォン・バーグによって発足された第1回ミッドナイトサン・フィルム・フェスティバルにまで遡る。この映画祭の最初のゲストがサミュエル・フラーだったのである。因みにジム・ジャームッシユ監督は第2回のゲストである。それ以来彼らの友情は、深い絆で結ばれることになる。

その関係は、彼らの作品にも反映されている。アキ・カウリスマキ監督『ラヴィ・ド・ボエーム』(91年)にはサミュエル・フラーが出演し、同『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』(89年)にはジム・ジャームッシュが出演、ミカ・カウリスマキ監督『ヘルシンキ、ナポリ/オールナイト・ロング』(87年)にはジム・ジャームッシュとサミュエル・フラーが出演し、逆にジャームッシュ監督の『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91年)には、マッティ・ペロンパーらが出演するといった具合に。

そんな彼らの関係だからこそ、撮ることができた貴重な記録が『ティグレロ 撮られなかった映画』(94年)なのである。この作品は40年前(54年)にサミュエル・フラーが撮影した映像を元に、再びそのロケ地(アマゾン)を訪ね、ジャームッシュが彼に話しを聴くというだけでも面白いが、この40年間の現地の変化が映し出されている点も、興味深い。


『トム・オブ・フィンランド』(17年)

トムオブフィンランド

©Lasse Frank Johannessen

トム・オブ・フィンランドは、皮ジャンなどの衣装を着た筋骨隆々としたゲイの姿を描いた作品で有名になる。今でこそ、よく目にするスタイルだが、当時は斬新なイメージだったようである。1950年代は、映画でもまだまだ同性愛は、直接ではなく、匂わすような形でしか描けなかった時代。それゆえに彼は、国の恥とまで呼ばれてしまう。

そんなフィンランドも2017年になって、同性婚を法律で認めるまでになった。しかし、差別というのは、法律の整備だけでは容易には無くならない。差別は水面下に沈んでいて、何かの拍子にふとその顔を上げるものなのである。LGBTの社会的認知度が上がってきた今だからこそ、その歴史を振り返り、見つめ直すことが必要なのかもしれない。

ドメ・カルコスキ監督は、フィンランドで最も評判の高い監督の1人。2013年には、バラエティ誌のトップ10ディレクターに選ばれている。彼の映画はすべてヒットを記録、また批評的にも、これまでに監督した6本の作品はすべてフィンランドアカデミー賞にノミネートされ、うち監督賞を2度受賞しており高い評価を得ている。日本では『ラップランド・オデッセイ』がフィンランド映画祭、TNLFにて上映された。

※関連記事【フィンランド映画祭2011】「ラップランド・オデッセイ」ドメ・カルコスキ監督インタビュー⇒http://eigato.com/?p=5890

『オンネリとアンネリのおうち』(14年)

オンネリ

©Zodiak Finland Oy 2014. All rights reserved.

フィンランドで愛され続けているマリヤッタ・クレンニエミの児童文学の映画化作品。シリーズ3本のうち1本目の作品。3作とも同じスタッフ同じキャストで製作されている。サーラン・カンテル監督は他に『星の見える家で』(12年)がフィンランド映画祭にて、上映されている。上映を記念して、上映後に末延弘子さん(フィンランド文学翻訳家、白百合女子大学講師)をお招きしてフィンランドの児童文学の魅力に迫るトークイベントも開催される。

ノルウェー

「特集 アーリル・アンドレーセン×クリストッフェル・ヨーネル」

『愛せない息子』(17年)

『オルハイム・カンパニー』(12年)

ヨーネル

©Norwegian Film Institute

アメリカ映画に進出した『レヴェナント:蘇えりし者』(15) でクリストッフェル・ヨーネルの顔を初めて知った方もいることだろう。しかし北欧映画ファンには、もうすっかりお馴染みの人である。『隣人 ネクストドア』そして今回上映される『愛せない息子』『オルハイム・カンパニー』においてアマンダ賞主演男優賞に3回も輝く、ノルウェー映画界の名優だ。

憧れの俳優はロバート・デ・ニーロというだけあって、ヨーネルもまた、毎回違った顔を映画の中で見せてくれている。TNLFで上映された作品では、神経衰弱の挙句精神に異常をきたす『隣人 ネクストドア』、精神的に不安定な子持ちの女性を優しく支えようとする孤独な電器店の店員『チャイルドコール 呼声』、売れなくなって都会から逃げ出してきた俳優を演じた『キス・ミー!』(17年)など、それぞれがまるで違った役を演じている。メイクが違うということではなく、醸し出す雰囲気がまるで違うのだ。マッツ・ミケルセンがデンマーク映画の至宝なら、クリストッフェル・ヨーネルも間違いなくノルウェー映画の至宝と言えるだろう。

そんな彼が『愛せない息子』『オルハイム・カンパニー』で全く異なるタイプの父親役をどのように演じ分けているか。注目である。なお、両作の演出をしたアーリル・アンドレーセン監督は、少年が主人公の映画を得意とし、デビュー作でいきなりベルリン国際映画祭クリスタル・ベア賞を受賞した他、この両作品でも数々の賞に輝いている。『愛せない息子』は昨年のSKIPシティDシネマ映画祭でも、グランプリを受賞した。

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