エル ELLE
【作品紹介】
新鋭ゲーム会社の社長を務めるミシェルは、一人暮らしの瀟洒な自宅で覆面の男に襲われる。その後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、誰かが留守中に侵入した形跡が残される。自分の生活リズムを把握しているかのような犯行に、周囲を怪しむミシェル。父親にまつわる過去の衝撃的な事件から、警察に関わりたくない彼女は、自ら犯人を探し始める。だが、次第に明かされていくのは、事件の真相よりも恐ろしいミシェルの本性だった-。
フランスの至宝イザベル・ユペールがハリウッドのA級女優たちが断り続けたこの難役を是非自分で撮って欲しいと立候補し勝ち取り、世界的評価に繋げ、初のアカデミー賞ノミネートを果たした超話題作。
【クロスレビュー】
富田優子/ユペール様の荒らし(嵐)っぷりのすさまじさ度:★★★★★
突然ヒロインが覆面男に襲われるという、冒頭からかなりショッキングな描写でド肝を抜かれた。しかも彼女は警察を頼らず、自分で犯人探しをするというのだから、筋書的には相当ハード。しかしヴァーホーベン監督ときたら、ブラックな笑いをちょくちょく盛り込んでくる。暴行される飼い主を無表情で見つめる猫にですら笑ってしまう始末。このズレた感覚が彼女の歪んだ感情を巧みに表現していることに成功している。そして何よりも、モラルなんてどこ吹く風よ!とばかりに、パンプスでかつかつと闊歩する彼女の姿が圧巻だ。彼女が関わることすべて、嵐が過ぎ去った跡かのように壊滅状態。そして不思議なことに、あらゆることを彼女が支配している。冒頭の暴行は偶発的なものだろうが、その後は彼女が意図して操っているかのようなのだ。だが、そんな彼女に嫌悪感を覚えるのでなはなく、災難すら逞しさに変えていく図太さに、ある種の尊敬の念すら抱いてしまうのだから、イザベル・ユペール、恐るべし!“彼女”以外にこの難役をこなせる女優はいない。そういう意味でも、ユペール様にオスカー獲ってほしかったなぁ・・・。
折田侑駿/この「ゲーム」に参加はしたくない度:★★★★★
冒頭で目にしてしまう、猫の顔に続く、主人公・ミシェル(イザベル・ユペール)が見舞われるショッキングな瞬間。それは彼女のフラッシュバックや、「もしもあの時、◯◯していたら…」といった妄想、そして現在形進行形の物語として、様々なかたちで繰り返し展開される。執拗なまでに追い込まれていく彼女の“状況”だけに目を向ければ、嫌悪感は募っていくばかりだ。しかし、あらゆる場面での彼女の“様相”に目を向けてみる。とりあえず催涙スプレーと手斧を手に(!)する姿や、前のめりに議論へと挑む姿は、多種多様な関わり方を求めてくる幾人もの男達との関係性の中で、彼女自身どこか楽しんでいるように見える。翻弄されているのは彼女ではなく、男達の方だと気付いた時には、まるで彼女を中心とした、ゲームを傍観している感覚に陥る。傍観者という立場を強要された私たちにはーーもちろんプレイヤーにはなれず、自ら望んで傍観者(鑑賞者)へとなった前提の上でーー、気まぐれな猫のような眼差しが必要だと、強く感じた。
外山香織/映画を何本も取れるような「不幸」の連続度:★★★★★
暴行を受けた女性が警察への通報を拒否。最近もどこかで観たと思ったら、ファルハディ監督の『セールスマン』だった。が、その後の展開はなんと異なるのだろう。冒頭のレイプシーンはショッキングではあるが本作はそれを主軸に据えていないように見える。浮き彫りになる過去の忌まわしい事件、父や母との離別など次々と「不幸」な出来事が彼女を襲う。事故ったときはもうやめてあげてと言いそうになった。しかし彼女は挫けない。傷ついていないわけではないのだが、何か事があるごとに「どんなことがあっても自分は自分を変えない、変えてたまるか」という気概へ変遷している気がする(脚を怪我してもヒールを履いてるところとか最高)。なかなか観客の共感を得にくい複雑なキャラクターながらイザベル・ユペールが見事に体現。そのスタイル、佇まいがかっこよすぎました。
8月25日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー
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