歓びのトスカーナ

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

『人間の値打ち』で絶賛されたイタリアの名匠パオロ・ヴィルズィが紡ぐ、幸せ探しの旅

陽光まぶしいトスカーナの診療施設から、自由を求めて脱走を図ったふたりの女性。それぞれ心に傷を負いながらも、旅を続けていく中で、いつしか掛け替えのない絆で結ばれていく。

【クロスレビュー】

石川達郎/やっぱり女性の事は分からない度:★★★☆☆

約2年前『イタリアは呼んでいる』という映画のこのサイトで取り上げた事があるが、イタリア各地をめぐる2人の友情という同じシチュエーションのバディ・ムービーが、男性と女性ではこうも違ってしまうのかと感じる。『イタリアは呼んでいる』は、仕事が停滞気味な中年男性が束の間の旅でおしゃべりとモノマネと食事と女性で自分を解放させる物語。『歓びのトスカーナ』は、自分を理解してくれず精神病扱いする周囲の抑圧から逃れ、自分を攻撃し型にはめようとする法律や他者に対しては逸脱した行為をしてでも自由になる事で自分を解放させる物語。2つの映画は男女の願望や夢の違いを表現している点で、対を成す映画だと思う。男性は、単純に女性にモテたいおいしいもの食べたい仲間とワイワイしたいという能天気な願望。女性は、法律も周囲への気遣いも含め全ての抑圧から逃れ自由になりたいという切実な願望。この2つの願望の差が、男性と女性の大きな違いなのだという気がする。そう考えると、切実な願望は特にない男性である筆者は『歓びのトスカーナ』にあまり乗れなかった事が露呈してしまうが、過去のいろいろな映画を観てきて、女性の解放というテーマはなくなる事なく常に取り上げられている重要なテーマであるのは理解しているし、この映画は女性の夢であり切実な願望なのだとなんとなく理解した気になってレビューを終え、女性からの感想を待ちたいと思う。

富田優子/寛容の心が大切度:★★★☆☆

自称“伯爵夫人”のベアトリーチェ、彼女の虚言癖が周囲の人々を振り回すが、演じるテデスキ姉さん持ち前ののびやかさとあいまって、尊大だけどバカ丁寧で、明るい狂気が炸裂。苦笑しつつも許したくなる不思議なキャラクターが印象的だった。
ベアトリーチェはドナテッラを連れて精神療養施設から脱走するが、二人の破天荒な道中にはとにかくハラハラさせられっぱなし。とはいえ本作は、二人のロードムービーのかたちをとりながらも、精神を病んだ人への心遣いのありようが主題ではないだろうか。彼女たちの行動は、確かに尋常ではない。だが、心を患った人たちに対しては過度に抑圧するより少し我慢して見守ろうよ、というメッセージを感じる。そんな寛容の想いが終盤の海の場面に凝縮されていて、不覚にも(?)落涙。

鈴木こより/社会復帰には周りの人の理解が不可欠度:★★★☆☆

心のバランスを崩し精神を患ってしまった女性たちと、彼女たちを受け入れる人々を描いた物語。イタリアでは1978年に精神病院が廃絶され、これまでも精神病患者との共生について映画で触れられてきた。好評を博した『人生、ここにあり』(2008)は彼らの経済的自立への挑戦が描かれていたが、本作では彼女たちの繊細な感受性と、彼女らと向き合う人々の眼差しに深い愛を感じることができる。病人や障害者など社会的弱者といわれる人たちとの共生や理解に、その国の文化的成熟が表れているように思う。イタリアは芸術やファッションだけでなく、人権への意識も先進的であり、移民をテーマにした作品の多さからもそのことが窺える。


7月8日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

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