『オリーブの樹は呼んでいる』イシアル・ボジャイン監督

夫はケン・ローチ監督脚本家ポール・ラヴァティさん、「夫の脚本は自分では絶対に思いつかない物語、反骨精神に満ちている」。夫婦のコラボには「信頼関係が何より大事」

イシアル・ボジャイン監督

20歳のアルマ(アンナ・カスティーリョ)はオリーブ農園を営む祖父が大好きで、家族の誰よりも強い絆を感じていた。だが彼女の父親は、オリーブの樹の価値を見出せず、祖父が大切にしていた樹齢2千年の樹を売ってしまった。折しもスペインは不況の真っただ中。アルマも特に就職しているわけではなく、養鶏場を無気力に手伝っている。家族仲は険悪になり、そしてオリーブの樹を失った祖父は喋らなくなり、やがて食事も摂らなくなってしまう。思い余ったアルマは大好きな祖父のためにオリーブの樹の所在を突き止め、農園に取り戻そうとするのだが・・・。
アルマのあまりにも無計画なオリーブの樹奪還作戦は、正直唖然とするむきもある。だが彼女の必死さに加え、家族の断絶と再生、EU内の経済格差や蔓延する不況、企業の欺瞞など多々盛り込み、100%ハッピーエンドというわけではないけれど、彼女にとって最良で現実的な結末には、素直に胸を打つ良作だ。

本作の監督は、ビクトル・エリセ監督の名作『エル・スール』(83)のヒロインを演じたイシアル・ボジャインさん。ケン・ローチ監督『大地と自由』(95)等でも女優として活動していたが、現在は監督に転向し、スペインを代表する女性監督となるまでに活躍の場を広げている。彼女の夫はローチ映画の脚本家としても有名なポール・ラヴァティさんだ。本作の脚本はラヴァティさんが担当し、夫婦共同作業として本作が誕生した。ラヴァティさんとのコラボ、女優から監督へ転身した理由などボジャイン監督にお聞きした。

――『オリーブの樹は呼んでいる』は、ポール・ラヴァティさんが樹齢2千年のオリーブの樹が誰かの欲望のために引き抜かれて商売の道具にされているという新聞記事を読まれたことをきっかけに脚本を書かれたとのことですが、ボジャイン監督が最初から映画化することは決まっていたのでしょうか?

イシアル・ボジャイン監督(以下IB):ええ、ポールと一緒にこの映画を撮ることは最初から決めていました。『雨さえも~ボリビアの熱い一日~』(09)(DVDタイトル:『ザ・ウォーター・ウォー』)は、私が初めてポールの脚本を映画化した作品ですが、その後も彼と一緒に、スペインでスペイン語の映画をつくりたいと考えていました。オリーブに関する新聞記事の内容を聞いたとき、そんなことがあるの?と驚いたのですが、ではこれをポールは書いてみようか、と(脚本を)準備してくれていました。ただ私もオリーブの樹やオリーブ農家を一緒に見に行ったりしていたので、(脚本が仕上がる)プロセスは知っていたし、アイディアを入れていきました。

――『雨さえも』は2011年のラテンビート映画祭で上映された際に拝見しました。『雨さえも』も本作も経済的に苦しい立場に追い込まれた人を描いていますが、この点は監督とポールさんにとっての映画をつくるうえでのテーマでもあるのでしょうか?

IB:確かに(2作品には)共通するものがありますね。私、昔は自分で脚本を書いていたんです。『雨さえも』は初めて自分以外の人が書いた脚本を映画化した作品でした。それは私にとっては冒険でした。でも素晴らしいのは、ポールは私が絶対に思いつかないようなシチュエーションや物事の見方を提供してくれることです。ストーリーテリングが素晴らしいし、自分が知らないところ(世界)へ連れて行ってくれるのです。そして決して妥協しない、反骨精神に満ちているのが夫の脚本です。『雨さえも』も『オリーブの樹は呼んでいる』も、自分では絶対に思いつかなかった話でした。ただ他の人の脚本を映画化するのは非常にチャレンジであるし、取り組むうえで困難はつきものです。でもポールの脚本は非常に価値があるものです。まあ、私たちは20年生活をともにしていますので、脚本以外でのポールの“価値”って言われれば、いろいろな意味も含まれるかと思うけれど(笑)。

――ポールさんは監督の撮影現場には足を運ばれるのですか?現場ではポールさんはアドバイスなどもされるのでしょうか?

IB:本作の場合、彼は私たちの子供の面倒をみなくてはならなかったので、1週間しか現場にいられませんでした。ポールはケン・ローチ監督の現場にはいつもいるのですが、やはり脚本が映画化される難しさをよく理解しています。だから私の大変さを分かってくれるし、私を尊重してくれて全面的に信頼してくれます。もし脚本に変更を加えたいときなど問題が発生した場合は、彼とその問題を共有します。信頼関係があることは大切ですし、次回作もポールの脚本で撮りたいと思っています。

――ちなみにお休みの日にはお二人で何をされているのでしょうか?

IB:一緒に映画を観ています。普段はお互いに忙しくて観る機会が少ないんです。そしてその映画についていろいろな議論します。ただ私たちは同じ職場(映画人)なので、仕事の話は極力避けるようにしています。

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