トーキョーノーザンライツフェスティバル 2017 が2月に開催!

~独断と偏見の映画祭鑑賞ガイド~

北欧パノラマ

1 特別先行上映作品

『サーミの血』(2016年/スウェーデン、デンマーク、ノルウェー)
アマンダ・ケンネル監督

サーミの血

©Sophia Olsson

昨年のTIFFで審査委員特別賞、自身サーミ人である、主演のレーネ=セシリア・スパルロクが最優秀女優賞に輝いた『サーミの血』が、劇場公開に先駆け上映される。(配給:UPLINK)サーミ族とは、北極圏下、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドとロシア領コラ半島付近にかけて住む先住民族である。シャーマニズム、ヨイクという歌(宗教的側面をもつもの)など、独自の伝統的な文化を持っている。その昔はコータという名の移動式住宅に住み、トナカイと共に移動する生活をしていたが、現在は定住する人も少なくないという。元々ラップ族と呼ばれていた時代があったが、これは差別用語であり、その言葉こそが、彼らの被差別の歴史を物語っている。1930年代、差別的な扱いと従属することを拒んだ少女のこの物語は、サーミの血の誇りと、それを捨てていくことの意味を、私たちに問いかけている。
【TIFF】サーミ・ブラッド(コンペティション)クロス・レビュー

2 ノルディック映画賞ノミネート作品

北欧パノラマでは、劇場公開作品の穴を埋めるかのように、今の北欧映画における、重要で、優れた作品が紹介されている。例えば、『オリ・マキの人生で最も幸せな日』、『スパロウズ』を観ることで、2016年のノルディック映画賞ノミネート作品がすべてカヴァーされることになる。(他の作品は『ヒトラーの忘れもの』『波紋』(昨年上映) 『母の残像』)
そういう意味でここでは、北欧ファンにとっても、映画ファンにとっても、痒いところに手が届く的な、今観たい作品、観ておかなければならない作品が取り上げられていると言えよう。

『オリ・マキの人生で最も幸せな日』(2016年/フィンランド、スウェーデン、独)
ユホ・クオスマネン監督
f-olimaki-001TIFFのワールド・フォーカス部門で上映された作品の、待望のアンコール上映!フィンランドで初めてワールド・チャンピオンシップをかけてアメリカ人選手と対戦した、オリ・マキの実話をもとに作られた、ラブ・ストーリー。人生における、本当の幸せとは?モノクロの映像が、美しい。劇中では、オリ・マキ本人もゲスト出演している。
監督のユホ・クオスマネンは、フィンランドのコッコラ出身。現在はヘルシンキを拠点として活動している。ELOヘルシンキ映画学校を卒業後、映画、演劇、オペラなどの演出を手掛け、また俳優として映画にも出演している。これが初の長編映画であるが、本作は昨年のカンヌ映画祭「ある視点」部門で、見事作品賞を受賞した。

『スパロウズ』(2015年/アイスランド、デンマーク、クロアチア)
ルーナ・ルーナソン監督
g-sparrow-kari都会で暮らしていた10代の少年アリは、父や祖母、祖父が共に暮らす小さな漁村に、母によって突然送られることになる。あまりの落差に初めは混乱する少年だったが、やがてはそれを受け入れていくことになる。
本作は、ノルディック映画賞にノミネートされた他、アイスランド・アカデミー賞では、
『好きにならずにいられない』『ひつじ村の兄弟』と共に、賞レースを争った作品である。(作品賞は『ひつじ村の兄弟』)また、アカデミー賞外国語映画賞アイスランド代表にも選出されている。ルーナ・ルーナソン監督は、すでに前作『Eldfjall (VOLCANO)』(11)で、シカゴ国際映画祭グランプリをはじめ数々の賞を受賞しており、アイスランド期待の新鋭と評価が高かった監督である。今回が待望の日本初上映となる。

『2人だけの世界』(2014年/フィンランド、オランダ)
ユッカペッカ・ヴァルケアパー監督
A They have escaped青少年更正施設の監視役として赴任してきたヨニは、吃音を持ち、心を閉ざしていたため、どこへ行っても周囲と馴染めずにいた。そこで問題ばかりを起こしている少女ライサと出会い、次第に惹かれていく。2人は施設を脱走し、いつか深い森の中へと入っていく。孤独な少年と少女の見た幻想と現実が、見事な映像美で表現されている。本作は、フィンランドアカデミー賞で最優秀映画賞や最優秀監督賞など4部門を受賞。ヨーテボリ国際映画祭2015スヴェン・ニクヴィスト撮影賞受賞。また、ノルディック映画賞2015にもノミネートされている。ユッカペッカ・ヴァルケアパー監督は77年生まれ。本作は『見知らぬ人』(08年)に続く2本目の長編作品となる。

3 TNLFといえば、やっぱり…
ガールズ青春ムービー、ドキュメンタリー、フリドリクソン

『キス・ミー!』 『ガールズ・ロスト』 『ローディ!地獄からの脱出』『コールド・フィーバー』

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『ガールズ・ロスト』

TNLFでは、これまでにも、ガールズ青春ムービーと呼びたい作品を数多く上映してきている。例えば『ウイー・アー・ザ・ベスト!』『ビッチハグ』『ミス・ジーンズ・フィンランド』『ショー・ミー・ラヴ』など。今年も期待に違わず、2本の作品が上映される。


スティーアン・クリスチャンセン監督『キス・ミー!』(13年/ノルウェー)は、ノルウェーの高校の演劇部を舞台にしたラブ・コメディ。アレクサンダー・テレーセ・キーニング監督『ガールズ・ロスト』(15年/スウェーデン、フィンランド)は一晩だけ少女を少年に変えるという不思議な黒い花を手に入れた少女の、ファンタスティックで、ちょっと危うい青春ドラマである。

h-lordi-kari ドキュメンタリーもTNLFの定番のひとつだが、今年のドキュメンタリーは写真を見るだけで、すでにインパクトがある。アンティ・ハーセ監督『ローディ!地獄からの脱出』(14年/フィンランド)はフィンランドの人気メタルバンド“ローディ”の、“人気が陰ったその後”を描いた作品で、モンスター・コスチュームに身を包んだ彼らの素顔に迫る。その扮装自体がすでに地獄からやってきたみたいではないか、と突っ込みを入れたくなるが、「地獄からの脱出」とあるだけに、きっとその仮面の下に様々な葛藤があるのだろうなと、スチールを見るだけで想像が膨らんでいく。 “ローディ”は子供の頃からKISSの大ファンで、その影響から、メタルバンドを組んだとのことである。悪魔というよりは、限りなく怪物っぽいのではあるが…。因みに、邦題「地獄からの脱出」はKISSの7枚目のアルバムから取ったとのこと。洒落ている。

D Cold FeverTNLFは、フリドリック・トール・フリドリクソンの作品をとことん追いかけてきている。(としか思えない)2012年に大々的に特集を組んだだけでなく、その後も出演作品、プロデュース作品まで上映し続けている。今年は、95年永瀬正敏を主演に迎えた『コールド・フィーバー』(95年/アイスランド他)が登場する。日本も製作に関り、東京でロケされているのも見所のひとつ。残る作品はいよいよ『ムービー・デイズ』のみ。ここまできたら次は・・・と願っている。本編上映前には、映画祭のために特別に行われた、フリドリクソン監督のインタビュー映像の上映があるので、お見逃しなく。

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