『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』ラース・クラウメ監督

フリッツ・バウアーの存在は、ナチスの罪を直視したがらないドイツ人を苛立たせたのではないか。

%e3%82%a2%e3%82%a4%e3%83%92%e3%83%9e%e3%83%b3%e3%82%92%e8%bf%bd%e3%81%88%ef%bc%81sub1――バウアーが最も信頼する部下カール役をロナルト・ツェアフェルトさんがとても繊細に演じておられました。カールは架空の人物とのことですが、同性愛が禁じられていた時代背景において、バウアーの性的嗜好も踏まえてカールの存在がとても象徴的に感じましたが、どういう役割を担わせようとしたのでしょうか?

LK:同性愛に関する点は、実は最初の脚本には入っていませんでした。ですが、先ほど話したバウアーの展覧会で、彼が亡命先のデンマークで男娼と2回関わり合いがあったとの調書が展示されていて、それが同性愛を描くきっかけになりました。それまでも彼には若い男性の友人が多かったことや、デンマークで結婚したものの結局一人暮らしで、女性との結婚はカモフラージュだと言われていたので、決定的なエビデンスはないけれど同性愛者であろうという説はありました。少なくとも男性に性的な意味で惹かれていたのは間違いないと思います。
同性愛の要素を描きたかったのは、バウアーは完全なアウトサイダーだったからです。つまり彼は同性愛者であり、社会主義者であり、ユダヤ人であったこと、つまり当時のドイツでは好ましくない人物であったことを見せたかったからです。とはいえバウアー自身をあからさまな同性愛者として描くのには躊躇しました。彼の功績は性的嗜好とは関係ないからです。そこでカールのキャラクターを創作したのですが、まったくの架空の人物というわけではなく、実際にバウアーの部下で同性愛者であるがために脅迫された人がいました。ですが、その人は時系列的にはアイヒマン追跡よりも後の時期にバウアーの部下になった人物なので、彼をモデルにしてカールという人物像をつくりました。
また同性愛を盛り込んだもう一つの理由は、刑法第175条(同性愛を禁じた法律。1871年に制定され、ドイツ再統一後の1994年まで続いた)の存在です。ナチス政権が倒れて民主国家になったからと言って、一晩でドイツ人の思想が転換することはありませんでした。本作で描いた1950年代後半から60年代は、ナチス政権の道徳観、価値観が引き継がれていた時代だったことを見せたい意図がありました。そうすることで時代背景が分かりやすいのではないかと考えたんです。

――ドイツでは近年、本作を含め『顔のないヒトラーたち』『ヒトラー暗殺、13分の誤算』『あの日のように抱きしめて』などナチスやホロコーストや戦争犯罪に絡めた作品や歴史認識や暗い過去と向き合う大切さを伝える映画が多くつくられていますが、昨年が戦後70年という節目であることも大きいと思いますが、こういう映画界のトレンド(と言ったら語弊があるでしょうか?)をどう思っていらっしゃいますか?

LK:戦後70年だからといって、僕はそれを特に意識したわけではありません。オリヴィエの著作を読んだときから純粋に、生き方に感銘を受け、インスピレーションを感じたある男の人生を描きたいと思いました。もちろん、ナチスに関連する問題は、ドイツのストーリーテリングの大きなトピックであることは間違いないです。第1次世界大戦、ワイマール共和国、ナチスの台頭、ホロコースト、第2次世界大戦、ベルリンの壁、ソ連の占領、東西の分断、東ドイツからの脱出・・・とドイツの歴史は、バイオレントで激動続きでしたからね。映画化しやすい要素はあるかと思います。

%e3%83%a9%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%83%bb%e3%82%af%e3%83%a9%e3%82%a6%e3%83%a1%e7%9b%a3%e7%9d%a3%ef%bc%91<プロフィール>
ラース・クラウメ Lars Kraume
1973年2月24日、イタリア・キエーリ生まれ。ドイツのフランクフルトで育ち、様々な写真家のアシスタントとして仕事を始める。学生短編映画「LIFE IS TOO SHORT TO DANCE WITH UGLY WOMEN」(96・未)はトリノ映画祭の短編賞を受賞。DFFBでの彼の卒論作品・テレビ映画「Dunckel」(98・未)は1998年度グリンメ賞監督賞受賞。2001年には『コマーシャル★マン』(03・未)で長編映画監督デビューを果たす。その後、賞を受賞したシリーズ「KDD – Kriminaldauerdienst」(07・未)、警察ドラマシリーズ「Tatort」(未)の数エピソードなど、テレビ作品が続く。2005年にはセミドキュメンタリー映画「KISMET – WÜRFEL DEIN LEBEN」(未)が劇場公開、同じくセミドキュメンタリー映画「KEINE LIEDER ÜBER LIEBE」(05・未)がベルリン国際映画祭パノラマ部門でプレミア上映された。学校を舞台にした「Guten Morgen, Herr Grothe」(06・未)は、2007年度ベルリン国際映画祭のパノラマ部門でワールドプレミア上映され、ドイツテレビ賞の監督賞、そしてグリンメ賞受賞。


© 2015 zero one film / TERZ Film
1/7(土)Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

1 2

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)