白いリボン
不穏な2時間24分である。同時に、作り手への“信頼感”に満たされる時間でもある。
監督は人間の秘めた感情を鋭くえぐり出してきたミヒャエル・ハネケ。これまで、年老いた母親の過干渉のもと、40歳になろうというのに恋人もいないピアノ教師が主人公の『ピアニスト』(01)や、何者かに自宅を撮影したビデオテープを何度も送りつけられた男が、やがて忘れていた子ども時代の出来事に対面していく『隠された記憶』(05)などを発表してきた。いずれの作品でも、人間の抑圧された精神や悪意などを切り取ってみせるが、決して明確な答えや結末を与えてはくれない。2009年カンヌ国際映画祭パルムドール大賞受賞作『白いリボン』でもしかり。ただし、ハネケ監督は、観る者にさまざまな解釈の余地を与えてくれる。そして冷たいモノクロ画面のこの作品に、私たちは「人間とは、社会とは、こんなにも不穏で、生々しいものなのだ」と改めて気づかされるのだ。
『白いリボン』は、憎悪と暴力、そして死に満ちた映画だ。第一次世界大戦前夜の北ドイツの村。そこに暮らす人々を、次々と奇妙な事件が襲う。「一体犯人は誰なのか?」村人の間には不信感が充満する。疑心暗鬼と憎悪に満ちた村で、やがて我々は、そこに暮らす子どもたちの苦しみに歪んだ顔から目が離せなくなるが、事件は最後まで解決を見ることはない。子どもたちの心の闇、怒りや悲しみは憎悪の塊となって弱者へと向かう。抑圧された心は、「なぜ私がこんな目に……」というSOSメッセージを発する替わりに、相手の見えない復讐へと駆り立てられているように見える。
自己憐憫と憎しみは限りなく近しい関係にあると感じる。このあとドイツは第一次、第二次世界大戦、ナチスの時代へと突入していき、同作で歪んだ表情を見せる子どもたちがドイツを、世界を闇の中へと引きずり込んでいくわけだが、その“悪魔”を生んだ根源には何があったのか。ハネケ監督は、私たちを路頭に迷わせるというよりむしろ、“考える観客”に変えようとする。その手法は誠実で、とても好ましい。
オススメ度:★★★★★
Text by:新田理恵
『白いリボン』
12月4日(土)より、銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館他
全国順次ロードショー
配給:ツイン
【原題】DAS WEISSE BAND
【英題】THE WHITE RIBBON
【監督・脚本】ミヒャエル・ハネケ
【撮影】クリスティアン・ベルガー
【出演】クリスティアン・フリーデル、エルンスト・ヤコビ、レオ二ー・ベネシュ、ウルリッヒ・トゥクール、ブルクハルト・クラウスナー、ライナー・ボック、スザンヌ・ロタールほか
2009年/独・墺・仏・伊合作ドイツ映画/2時間24分
『白いリボン』公式サイト http://www.shiroi-ribon.com/
▼大ヒット記念!『白いリボン』トークショー開催
【日時】12月21日(火)16:00の回、上映終了後
【場所】銀座テアトルシネマ
【ゲスト】エドツワキさん(アーティスト)×カヒミ・カリィさん(ミュージシャン)
~チケット購入方法~
5日前から窓口で指定席券の販売・引換を開始。オンライン予約では3日前からの販売。
満席になり次第、受付終了。
詳しくは銀座テアトルシネマHPまで!http://www.ttcg.jp/theatre_ginza/
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