【FILMeX】山<モンテ>(特別招待作品)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

【作品紹介】

山モンテ前作『CUT』を日本で撮影したアミール・ナデリの最新作は、全編がイタリアで撮影された作品だ。時代設定は中世末期。主人公は山の麓の村で妻子と暮らすアゴスティーノ。巨大な山が壁のようにそびえているため、この村には太陽の光が十分に当たらず、作物も育たない。移住を勧める忠告に耳も貸さずアゴスティーノは村に住み続けるが、窮状は極まるばかりである。遂にアゴスティーノは、山そのものに挑戦するという驚くべき行動に出る……。何かに取り憑かれたかのように一つの行動を続けるというナデリ作品に共通する設定が、ある意味極限まで推し進められた異形の傑作。ヴェネチア映画祭での本作の上映に際し、ナデリに「監督・ばんざい!賞」が授与された。
(東京フィルメックス公式サイトより)

【クロスレビュー】

富田優子/一念岩をも通す!度:★★★★★

本作上映後のQ&Aでのナデリ監督のことばが印象的だ。「不可能を可能にする」。まさにこのことばをアゴスティーノは実行した。彼は屹立する岩山の麓に住んでいることで様々な不利益を被り、教会からは異端者と見なされる。ついに彼は山を破壊しようという誰も考えないような行動に出るが(ダイナマイトなどない中世なので手作業・・・!)、その狂気のさまは自分たちの生活を脅かす山そのものへの恐怖と、理不尽な社会や不寛容な教会に対する怒りと闘っているようだった。物語後半は、彼と息子が鋤や鍬で山をひたすら打ち砕くことしかしていないのだが、それでも目をくぎ付けにしてしまうナデリン映画の恐るべき吸引力。終始耳に入る轟く風や、悪魔の叫びか獣の咆哮か定かではない不気味な声も緊張感を加速させている(監督は音響に非常にこだわったという)。最終的に彼に与えられたのは、救済か祝福か。神々しく昇華されたアゴスティーノの一念に、思わず自分の口から出てきたことばは「すごい」。圧巻の映像体験だ。

外山香織/このタイトルしかありえない度:★★★★★

本作の主役は山、そして山から吹き下ろされる風の音だろう。もしも神が山におわすとしたらその神は間違いなく怒り狂っている。荒ぶる神である。そして人間はとてもちっぽけだ。その人間が、神に挑戦する孤高の作品と言ってもいいのではないだろうか。時代は中世。男とその家族は山のふもとに住んでいるが、死んだ子どもの亡骸を葬る土もないような場所だ。あるのは石ばかり。高い山に日差しは遮られ植物も育たない。町に下りれば異端の者、その目は邪眼だと言って蔑まされる。もはや山に住んでいるのは彼ら一家と埋葬された死者だけである。闇と寒さと飢え。なぜこの地に住むのかという思いが渦巻く(差別的な扱いを受けていることから、何かの理由でそこに隔離されているのかもしれない)。妻や子どものみ移り住むと言う選択肢も提示されるが、結局は男の執念が彼らにも及んだのだろうか。一家は死に物狂いで咆哮しながら山を穿つ。そして神はどんな返事を返すのか……。こんな映画、観たことない。アミール・ナデリ監督にただただ脱帽。


▼第17回東京フィルメックス▼
期間:2016年11月19日(土)〜11月27日(日)
場所:有楽町朝日ホール・TOHOシネマズ日劇
公式サイト:http://filmex.net/2016/

トラックバック URL(管理者の承認後に表示します)