【TIFF】ヘヴン・ウィル・ウェイト(ワールド・フォーカス)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

(c)Willow Films UGC IMAGES France 2 Cinéma

(c)Willow Films UGC IMAGES France 2 Cinéma

17歳のソニアは、家族に天国を約束すべく中東に旅立つ。音楽と友達を愛する16歳のメラニーは、ネットで出会った「王子」に恋をする。ごく普通の少女たちが、イスラム過激主義に心酔し、召集に応じていく。戻る道はあるのだろうか…。『奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ~』のマンシオン=シャール監督が、現実の深刻さに急かされるように新作を作り上げた。フィクションであるが、登場人物の背景や行動は、全て取材を通じて出会った少女やその親たちの体験をもとにしている。過激主義に染まる若者に共通点はなく、誰にでも起こり得る現実に監督は戦慄する。そして脱洗脳セラピーを取材する過程で、献身的に活動するイスラム女性に出会い、希望を見出す。女性は本人役で出演し、洗脳の手口を冷静に説く姿が大きな印象を残していく。現代欧州が直面する大問題に真っ向から取り組み、見る者の心をえぐるサスペンスフルなドラマを作り上げる監督の手腕は、今やフランス映画界屈指である。

クロスレビュー

外山香織/純粋であるほどに落ちる罠の恐怖度:★★★★☆

イスラム過激派に惹かれ中東に旅立とうと企てるフランスの少女たち。家庭も友人もあり貧困からも縁遠い環境に育ちながら何故?と思うが、彼女らにとってはそれはまだ見ぬ人との「駆け落ち」なのだと知って驚愕する。男たちはSNSにより言葉巧みに語りかける。例えば、赤毛にコンプレックスを持つ少女が「君の髪の色がキレイだ」とか言われたらグッとくるんじゃないだろうか。そして口調は徐々に命令的になっていく。ムスリムにならなければ天国には行けない。家族も地獄へ落ちる……。無理強いではなく、能動的に行動を促す洗脳。これは日本人でも洗脳されてしまいそうだ。神の名のもとに心の隙間に入り込みやがて心を抜き取る。一方、神を語る側も洗脳されているのだとしたら…どうしようもない負のスパイラルに落ちていく気がした。

富田優子/今見る価値のある映画度:★★★★☆

本作はマンシオン=シャール監督が行った綿密な取材を下敷きとして、イスラム過激派に傾倒する二人の少女を軸にフィクションの物語を描いているが、彼女たちの変貌だけではなく、親の戸惑いや苦悩にもフォーカスすることでバランスの良い作品に仕上がっている。解決すべき問題は多々あるが、特に“信仰の自由”と“洗脳”の線引きの難しさを考えさせられる。彼女たちの行動自体は(強制されたと思っておらず)自発的に行われているからだ。他者の目線で善悪を判断し、大人が彼女たちをどう守っていくのかが重要であることを痛感する。もし今もイスラム過激派に心酔する若者がいるのなら、この映画を観て目を覚ましてほしいと願わずにはいられない。非常に有益な作品だ。
ソニアを演じたノエミ・メルランをどこかで見たことあるな・・・と思ったら監督の前作『奇跡の教室』にも出演していた。母親(サンドリーヌ・ボネール)に食ってかかる激しさや冷酷な眼差しに背筋が凍り、自らの行動に動揺し涙する姿に心揺さぶられる。今後期待の女優であることは間違いない。


第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/

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