『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督インタビュー
最近のライフスタイル本のヒットもあり、多くの日本人が憧れるフランス・パリの生活。しかしお洒落で華やかな側面はごく一部分で、移民社会でもあるフランスは深刻な地域格差や宗教的な問題を内包している。8月6日(土)公開の『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』は、貧困層が暮らすパリ郊外の高校が舞台。落ちこぼれクラスの生徒たちが「アウシュビッツ」をテーマに研究する歴史コンクールへの出場を通して成長していく実話を基にした作品だ。
落ちこぼれ生徒が奮起する映画は数あれど、本作が特殊なのは、メインキャストの1人として出演もしているアハメッド・ドゥラメという当時18歳だった少年が自身の経験に基づいて書き上げた脚本を売り込み、実現した企画だという経緯だ。そんなアハメッドに興味を持ったマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督が、ともに彼の経験をより掘り下げ、肉付けし、教育を通して変わっていく若者たちの姿をリアリティある1本の映画にまとめあげた。
マンシオン=シャール監督は、かつて「ハリウッド・リポーター誌」国際版の編集長を務め、自身が設立した製作会社で製作や脚本執筆も手がけるなどマルチに活躍してきた女性。6月に開催されたフランス映画祭2106にあわせて来日した同監督にお話を聞いた。
―学校内の民族的・宗教的対立を盛り込みつつ、さらに生徒たちがホロコーストを学ぶ過程を同時に語ることで、人種差別と闘ってきたヨーロッパの過去から現在への歴史の繋がり、さらにこの先も人種差別と闘っていくというメッセージを同時に打ち出すことに成功していると思いました。そのあたり、監督が、アハメッドさんの元の脚本から大きく膨らませた部分ではないかと感じたのですが、実際のところいかがでしょうか?
マンシオン=シャール監督(以下、監督):最初アハメッドが私のところに持ってきた脚本には、おっしゃったとおり、学校内の民族的・宗教的対立のところは何も入っていませんでした。彼と会って私がいいなと思ったのは、彼自身が経験してきた良い事、つまり、歴史コンクールへの参加を通して得た良い経験を18歳の少年が人に見せたいと言ってきたことです。だいたい18歳のフランスの典型的な高校生というと、学校が嫌いで、朝は学校に行きたくない、友だちとダラリと過ごせればそれでいいという風に思っているものですが、アハメッドは、学校の良いところを見せたい、それを映画にして語りたいという気持ちを持っていることに驚きを感じました。だから私は、それを逆に映画につなげたいと思ったんです。