【TIFF】ネヴァー・エヴァー(ワールド・フォーカス)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

作品紹介

© Alfama Films

© Alfama Films

映画監督のレイは、パフォーマンス・アーティストのローラに出会い、恋に落ちる。長年の恋人を捨て、レイはローラと田舎の広い家に向かい、愛を育む生活を始める。しかし、ローラが家で奇妙な音を耳にするようになると、事態は思いもよらない方向に進んでいく…。文芸ものから恋愛スリラーまで幅広いジャンルを手掛け、精力的に高水準作を届け続ける欧州映画界の巨匠ブノワ・ジャコーの新作は、アメリカを代表する作家のひとり、ドン・デリーロの小説「ボディ・アーティスト」をベースにしたゴースト・ストーリーである。(TIFF公式サイトより)

クロスレビュー

藤澤貞彦/古い大きなお屋敷のミステリアス度:★★★☆☆

「決してあり得ない」強い否定形をタイトルにしたこの作品は、ミステリアスである。一体何をそんなに強く否定しているのか。なぜ映画監督のレイは、死に取りつかれたかのように、オートバイのスピードを上げていたのか。新しい恋人ローラと住んだ郊外の広い家に響き渡る、この世の物とは思えないドンという音は何だったのか。謎は一切明かされることがない。
肉体は滅びても、魂は残るのか。愛は残るのか。これは、ひとつの実験的ドラマである。レイが亡くなった後、元恋人がお葬式で、自分こそが彼の永遠のパートナーであると、ローラの前で宣言する。相手が亡くなっていても、彼女たちの嫉妬心は燃えさかったままである。人には、死者をも愛せるサガがあるのだ。屋敷に戻ると、レイの霊が現れて、ローラは、彼を独り占めにし、彼と一体化したかのような気分に浸る。しかし、彼が語ることは、過去の繰り返しでしかない。魂とは過去の思い出に過ぎず、愛を留め続けるには、もはや自分も過去に生きるしかない、とでもいうように・・・。永遠というものは決して存在しない。ただ、寂しい家だけがそこに佇むだけである。ネヴァー・エヴァー。

富田優子/才媛ジュリア・ロイの透明感が羨ましい度:★★★★☆

いくつもの解釈ができそうな作品だった。ただつくり手側は答え合わせを望んではいないと思うので、次のように解釈してみた。レイが亡くなったのは確かだとしても、ローラがパフォーマンス・アーティストであることを考えると、彼女がレイの霊と対話しているように見えるそれが、実は彼女自身がレイを演じていたのではないだろうか。彼女が孤独感を埋めるために、レイとの愛を確かめるために、もしくは繋ぎとめるためにレイになりたいと考えていたのかもしれない・・・。ただ、他の人に聞けば違う見方がありそうで、そういうことを鑑賞後に話し合う楽しみもある作品だろう。
広いお屋敷に主な登場人物が2人というシンプルな設定だが(個人的にはジャンヌ・バリバールにもっと出番があってほしかったが)、それゆえに俳優の演技力が試されるだろう。レイを演じたマチュー・アマルリックは相変わらずの魅力で(少々歳をとった感は否めないものの)観客を惹きつけるが、何よりもローラ役ジュリア・ロイの透明感がこのミステリアスな物語にとてもマッチしている。愛する人を亡くした喪失感がやがて狂気じみた切なさに変貌するさまが素晴らしい。彼女は本作の脚本も担当しており、フランス映画界にまた新たな才能が現れた。


第29回東京国際映画祭
会期:平成28年10月25日(火)~11月3日(木・祝)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) ほか 都内の各劇場および施設・ホールを使用
公式サイト:http://2016.tiff-jp.net/ja/

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