トーキョーノーザンライツフェスティバル2011鑑賞ガイド

北欧映画の1週間を楽しもう 

トーキョーノーザンライツ12011年2月12日~2月20日「トーキョーノーザンライツフェスティバル」渋谷ユーロスペース、アップリンクファクトリーにて開催される。世界的に評価の高い北欧の映画作家たちの旧作・劇場未公開作品が一同に集められるまたとない機会である。
北欧映画…あんまり馴染みが無いなどと、どうかおっしゃらないでください。それではあまりに損。スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、アイスランド、ひとつひとつの国は決して大きくはないけれど、それぞれに個性的な監督たちがしっかり存在しているのだから。
【北欧映画のイメージ】
 今回のこの映画祭のイメージ・イラストをご覧になって、どう思われることでしょう。暗くて寒そうな背景にポツンと佇む人。彼女あるいは彼?は何かを見つめているのだろうか。それとも誰かを待っているのだろうか。あるいは何かを考えているのだろうか。彼女あるいは彼?の見つめる先のものは人とのつながりだったり、自分自身の事だったり。この暗くて広い空間が色々なことを想像させてくれることでしょう。私は、このイメージにどこか北欧映画と通じるものを感じている。
北欧映画は生きる喜びを見つめている…『バベットの晩餐会』(87年)、最高の食事を楽しんだ後の、老人たちの幸福な顔。『歌え!フィッシャーマン』(01年)歌う男たちの幸福な瞬間。
 北欧映画は死を見つめている…ベルイマンの『野いちご』(57年)の老人の夢、転がった荷車の中から出てくる棺の中に入った自分の死体。『春にして君を想う』(91年)の人々から見捨てられて故郷に帰った老人を優しく迎える天使 (『ベルリン天使の詩』のブルーノ・ガンツが天使の役) 。
北欧映画は愛を見つめている…『しあわせな孤独』(02年)の禁断の愛、『秋のソナタ』(78年)をはじめとするベルイマン作品の家族間の愛と憎しみ。アキ・カウリスマキ監督の登場人物たちの不器用な愛。
北欧映画は孤独を見つめている…『キッチン・ストーリー』(03年)の友だちがいない男の思わぬ嫉妬。『過去のない男』(02年)の記憶を失った男の不安。『ヤコブへの手紙』(09年)の刑務所から出所したばかりの女の孤独。『ホルテンさんのはじめての冒険』(07年)仕事を定年になった男の孤独。
 厳しくも美しい自然を背景として、人間そのものを見つめなおそうとする態度。それが北欧映画の真髄ではないだろうか。
【北欧映画祭の意義】
元々、北欧諸国は、歴史的にも深い繋がりを持っている。さらには、デンマーク、スウェーデン・ノルウェーの北欧3カ国は、言語的にも近いものがある。どの位近いかというと、分かりやすく言えば、津軽弁と鹿児島弁より近い言葉だということだ。そういった文化的な近さが協力関係を作りやすいのか、アイスランド映画祭や、フィンランド映画祭のラインナップを見ていると、案外たくさんの作品が、北欧各国の合作になっていることに気がつくはずだ。『ヤコブへの手紙』の監督クラウス・ハロは、フィンランド人だが、スウェーデンとフィンランド両国で映画を作っているし。そんなことを考えると、ラテンビート映画祭があるのに、北欧映画祭がないというのは、やっぱり寂しい。「北欧映画祭」としての総合的な映画祭は、1997年を最後に以降開催されていないとのこと。それだけに今回の映画祭の意義は大きい。
【トーキョーノーザンライツフェスティバルの見所】
それでは、簡単に今回のフェスティバルの見所を、各国の映画事情と共に紹介しよう。各国の旧作の中には、きっと、あの映画も北欧の映画だったっけというような作品もあるかもしれない。
スウェーデンは北欧のなかでも、サイレントの時代から世界に名を馳せた映画の国。
イングマール・ベルイマン(『処女の泉』)ばかりに注目が集まっていた時期もあるのだけれど、今でも『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』(85年)で世界的な監督になったラッセ・ハルストレム、伝説的な監督ロイ・アンダーソン、『エヴァとステファンと素敵な家族』(00年)のルーカス・ムーディソン監督、『太陽の誘い』(98年)のコリン・ナトリー監督らが活躍している。国内ではミステリー・ドラマの秀作も多く作られており、日本のCSでも放映されている。昨年は『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(09年)から始まるミレニアム三部作の劇場公開が話題になった。今回のラインナップではロイ・アンダーソン監督の復活作であり、カンヌの審査員特別賞を受賞した『散歩する惑星』(00年)、またルーカス・ムーディソン監督の特集上映が組まれており楽しみである。
 デンマークもまた、北欧ではスウェーデンと肩を並べる映画の国、古くは『裁かるゝジャンヌ』(28年)のカール・テオドール・ドライエル監督があまりにも有名。近年でも『ペレ』(87年)、『バベットの晩餐会』(87年)、『幸せになるためのイタリア語講座』など名作の宝庫。今回は『幸せになるためのイタリア語講座』(00年)、昨年の『17歳の肖像』がまだ記憶に新しいロネ・シェルフィグ監督の『ウィルバーの事情』(02年/CSのみで放映)が上映されるのが楽しみである。
そしてなんといっても、この国はラース・フォン・トリアー監督が提唱したドグマ95(ロケーション撮影、手持ちカメラ、証明効果の禁止、効果音の禁止などのルールを作り、これに沿って作られた映画がドグマ95作品と認定された)これを忘れてはならない。この運動から数多くの才能が輩出されたことで、デンマークは北欧映画界の中心的な存在になっている。今回のラインナップのうち目玉と言えば、やっぱりラース・フォン・トリアー監督『アンチクライスト』(09年)のジャパン・プレミア上映であろう。主演のシャルロット・ゲンズブールがカンヌ映画祭主演女優賞を獲得、またその内容から当地で物議を醸し出した問題作である。今回は、ラース・フォン・トリアー監督特集も組まれており、CSで放送したのみで未公開作の5つの挑戦』(03年)、他旧作と共に楽しみたいところである。また、ドグマ95関連の作品として『しあわせな孤独』(02年)もエントリーされているのが嬉しいところだ。
 アイスランドには、フリドリック・トール・フリドリクソン監督がいる。アイスランド映画界に多大な貢献と影響力を与えている重鎮だ。『春にして君を想う』(91年)『精霊の島』(96年)『ムービーデイズ』(94年)キリスト教的世界と土着の神話的世界が入り混じった独特の世界を持っており、日本公開作品も多い。『コールド・フィーバー』(95年)には永瀬正敏、鈴木清順も出演していた。今回は裕木奈江が出演している『レイキャビク・ホエール・ウォッチング・マサカー』(09年)がジャパン・プレミア上映ということでラインナップに入っており、日本の映画界とも意外に縁のある国である。
 ノルウェーは残念ながら、映画では遅れをとっている国という印象が拭えないところだ。これまでは第二次大戦後に作られたレジスタンスによるセミ・ドキュメンタリー映画が高い評価を受けていたというくらいであった。最近になって『歌え!フィッシャーマン』という印象的なドキュメンタリーがあったのは、そんな伝統によるものかもしれない。他に『ホルテンさんのはじめての冒険』(07年)『キッチン・ストーリー』(03年)のベント・ハーメル監督が、味わいのある喜劇を作っている。今回はアニメーションのみの上映ではあるが、旧作『ピンチクリフ・グランプリ』(75年)が、入っているのが嬉しいところだ。5年もかけて撮影されたというパペット・アニメーションである。レースシーンの疾走感は一体どうやって撮影したのだろうか。とても楽しい作品なので、お見逃しなく。
フィンランドは、昨年秋開催されたフィンランド映画祭が記憶に新しいところ。
フィンランド語は、北欧にありながら、その言語が日本語に近いウラル・アルタイ語系という特殊さゆえ、永らくシェアが国内だけという状況にあった。しかし、アキ・カウリスマキ監督の作品は、今や日本や南米の監督にまで影響を与えており、良い作品を作れば、世界市場も夢でないことが証明された。フィンランド政府は5年ほど前から映画の製作や配給に対する助成金を大幅に増額、その成果が作品の質に表れ、各国映画祭で高い評価を受ける作品が出てきている。先の映画祭では、もはやこの国もアキ・カウリスマキ(『浮き雲』『過去のない男』)だけがフィンランド映画ではないのだということが見事に証明された。今回の映画祭では、さすがに目玉はないのだが、それでも『革命の歌』(06年)がラインナップに入っている。今年は、アク・ロウヒミエス監督『4月の涙』、「映画と。」にて紹介しているクラウス・ハロ監督『ヤコブへの手紙』が劇場公開されるので、そちらもぜひご覧になってください。
他にも、女性アニメーション監督特集など、内容盛りだくさんの「トーキョーノーザンライツフェスティバル」、どうか自分だけのお気に入りの作品を探してくださいね。そして、来年、再来年へと続いていくよう、みんなで盛り上げていきましょう‼ 北欧には、まだまだ未公開の秀作が一杯埋もれているのですから・・・。
Text by  藤澤貞彦
トーキョーノーザンライツB
※スケジュールの詳細はこちらから

公式サイト:トーキョー ノーザンライツ フェスティバル 2011

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