「ヤコブへの手紙」クラウス・ハロ監督インタビュー、驚くべき本作の誕生秘話とは

第82回アカデミー賞外国語映画賞フィンランド代表に選ばれ、世界中の映画祭で多くの賞に輝いている『ヤコブへの手紙』。

この待望の感動作が、いよいよ1月15日(土)から公開される。昨年10月に恵比寿で開催された<フィンランド映画祭>ではオープニングを飾り、上映に合わせてクラウス・ハロ監督が来日した。アキ・カウリスマキ作品などから、“フィンランド人はシャイで寡黙”というイメージを勝手に抱いていたが、ハロ監督はとてもサービス精神旺盛で、本作の驚くべき誕生秘話などをたっぷり語ってくれた。


.多くの国の映画祭で上映されていますが、観客の反応が印象的だった映画祭はありますか?

ハロ監督 「小さな作品になると思っていたので、国境を越えたことに驚いています。最初にスウェーデンで上映されたのですが、多くの観客が涙を流しながら、『素晴らしい作品をありがとう』と言いに来てくれたので、『これは夢じゃないだろうか』とプロデューサーと顔を見合せ、本当に驚きました。

約10の映画祭で上映され、17の賞をいただいたのですが、ビバリーヒルズでは顔をリフトアップしたようなセレブ風の方から、フィンランドでは田舎のおじいちゃんおばあちゃんまで、どこでも同じように受け入れられたという印象です(笑)。どんな国でも人間って一緒なのだな、ということを強く感じました」

.この映画の風景(ロケ地)は、フィンランドにはよくある風景なのでしょうか?

ハロ監督 「このような風景をフィンランドで見つけることはたやすいことではありません。ロケ地を見つけるのは大変な作業でした。

アキ・カウリスマキというフィンランドの有名な監督がいます。彼の作品はある意味でフィンランドを象徴しているのですが、フィンランド全部がそうというわけではありません。あくまでも、それはカウリスマキの世界です。同様に本作で描いているフィンランドも、どこかにはあるかもしれないけど、あくまでも私の世界観と受けとめていただければと思います」

ヤコブ牧師のもとには悩みをもった人々からの手紙が毎日届けられ、牧師はそのひとつひとつに丁寧な返事をする。その手紙が突然届かなくなり、牧師の「手紙は自分のためだったのだ」というセリフが心に残るが、「このセリフは本作において重要なセリフであり、僕の人生に対する考え方でもあります」と、ハロ監督。

実は本作も、インフルエンザで寝込んでいた監督に届いた一通のメールから始まったという。
「まったく知らない人からメールで原案が送られてきました。寝込んでいなかったら、名前も知らない人が書いた原案など読まなかったと思う。とりあえず最初だけ読んでみようと思ったのですが、あっという間にこの素晴らしい世界に引き込まれてしまい、涙を流しながら読み終えた自分がいました(笑)。脚本を書いたのは、40歳の元ソーシャルワーカーで、休職して映画学校に通っている女性でした。彼女は教師に勧められるまま、私のところに送ってきたに過ぎませんでした。

原案を読んですぐに彼女に連絡を取り、登場人物がいかに魅力的で素晴らしい物語かを伝えました。そして、書き直しを快諾してもらいました」
この運命的ともいえる出会いによって、この映画は動き出したのだ。

最後に、コーヒー党の筆者が映画の中で「!」と思ったシーンについて訊いてみた。
.ヤコブ牧師はレイラにいつも紅茶を出していたのに、最後のシーンだけ「コーヒーにするかい?」と訊いたのが、とても気になったのですが。

ハロ監督 「ヤコブ牧師はすごくいい人なんですが、自分の職務のことしか考えられないといった自己中心的なところもあるんですね。自分が紅茶を飲むから、あなたも紅茶でしょというような。しかし、彼も少しずつ変わっていくんです。その過程を表したかったのです。レイラの変化は見ていてわかりやすいのですが、牧師の心のわずかな変化については、そういう形で表してみたかったんです」

セリフは決して多くなく、物語が伝えるメッセージもシンプルであるが、人間の心の奥深さと移り変わりが、じつに豊かな表現方法で丁寧に描写されている。雨や風景などの自然描写も含めて、スクリーン細部までじっくりと堪能してほしい。

『ヤコブへの手紙』は1月15日から、銀座テアトルシネマほか全国順次公開される。

インタビュー/鈴木こより 撮影/藤澤貞彦

▼作品紹介はこちら
「ヤコブへの手紙」人は決してひとりぼっちでは生きていけないのだ

▼クラウス・ハロ監督 プロフィール
1971年生まれ。
大学在学中にショートフィルム『ヨハネス10‐11歳』(93)を制作。卒業後はフィンランドとスウェーデンを拠点に活躍。『Nattflykt』(00)でベルリン国際映画祭短編部門特別賞を、『As If I Didn’t Exist』(03)で同映画祭子ども映画部門クリスタル・ベア賞を受賞。『Mother of Mine』(05)では、第78回アカデミー賞外国語映画部門フィンランド代表に選出された。今まで国内外で60以上の賞を獲得し、批評家と観客の双方から評価が高い。

▼『ヤコブへの手紙』
監督:クラウス・ハロ
キャスト:カーリナ・ハザード、ヘイッキ・ノウシアイネン、ユッカ・ケイノネン、エスコ・ロイネ
2009年/フィンランド/75分
原題:Postia Pappi Jaakobille
配給:アルシネテラン
公式サイト:http://www.alcine-terran.com/tegami/

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