【スウェーデン映画祭】苦いバナナ(仮題)

12人の怒れる農民たち

苦いバナナ

(C)WG Film, Sweden

中米ニカラグアの12人のバナナ農園労働者たちが、雇い主であるドール社を訴えた。その裁判のいきさつを描いた『苦いバナナ(仮題)』。そして、本作の映画祭での上映を巡って、さまざまな圧力をかけ中止に追い込もうとしてくるドール社と闘うフレドリック・ゲルテン監督自身の姿を描いた『触らぬバナナに祟りなし(仮題)』。2本続けて観ると、作品の価値が間違いなく2倍、3倍になってくる。

ドール社は、農薬製造会社ダウ社が人体に害があるとして製造を停止した農薬を、国外の農場向けには使用可能であるとして、契約不履行を理由に同社に脅しをかけ、その後もニカラグアなどの農園で使い続けた結果、労働者たちに多大な健康被害を与えた。具体的には、癌になったり、生殖能力が奪われたり、無脳症の子供が生まれてきたりと、その被害も多岐にわたっているのだが、『苦いバナナ(仮題)』が興味深いのは、農園労働者たちの被害状況の詳細を描くというよりは、むしろその裁判をテーマの中心にしているところだ。

ゆえに描写は、裁判を請け負ったヒスパニック系弁護士ホアン・ドミンゲスを中心に動いていく。農民たちへのインタビューも、彼の助手の聞きとり調査を映すという形になっている。証拠となる映像も、彼らが裁判に使うために探した資料を使っている。農民たちの意志をまとめていく過程もそこに映し出されている。ホアン・ドミンゲスについては、弱者の立場に寄り添い、負けた場合の費用は無料にするとうたってはいるものの、ロスの高層ビルに立派な事務所を持ち、高級車に乗っているところを見ると、大きな企業相手に戦い、高額な賠償金を引き出すことを相当数やっているのではという印象を持った。理念をちゃんと持った現実主義者ではあるが、ある意味ビジネスマン的なところが無きにしもあらずで、途中までは彼に寄り添い過ぎることに、この作品の危うさがあるようにも感じられた。

それにしても、農園労働者たちの証言、ドール社の会長の証言、原告の主張に揺さぶりをかけてくる会社側弁護士の反証。それはまるで劇映画の裁判シーンを観ているかのようで、スリリングでさえある。日本と違いアメリカでは、裁判を映像で撮ることも可能だし、その様子をネットで配信することも可能なのだ。筆者にはそのこと自体驚きなのであるが、何より裁判の映像そのものを流すということは、映画製作者の意図が入りようもなく、本作の公正さを示すことにも繋がり、先の危うさを埋めるのには充分なものになっている。ホアン・ドミンゲスに協力した主任弁護士の誠実さも大きい。また、訴訟の経過をラジオによって伝えられる度に一喜一憂する、ニカラグアの農民たちの顔も、紛れもない真実を映し出していると言える。そしてそのことは、2年後の続編『触らぬバナナに祟りなし(仮題)』に生きてくるのである。

『触らぬバナナに祟りなし(仮題)』につづく

☆配給:きろくびと 2016 年公開予定



【スウェーデン映画祭 2015開催概要】
■開催期間:2015年9月19日(土)〜9月25日(金)
■場所:ユーロスペース(渋谷区円山町1−5)
■主催:スウェーデン映画祭実行委員会
■公式WEBサイト:http://sff-web.jp/

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