【スウェーデン映画祭】触らぬバナナに祟りなし(仮題)

ダビデとゴリアテ、フレドリック・ゲルテン監督の憂鬱

触らぬバナナに祟りなし

(C)WG Film, Sweden

『触らぬバナナに祟りなし(仮題)』は、前作『苦いバナナ(仮題)』のロサンゼルス映画祭での上映に対して、ドール社が圧力をかけてくるところから始まる。映画祭で上映できるかどうかが微妙な状況の中で、フレドリック・ゲルテン監督は、あらかじめ現地のカメラマンを雇い、自身が空港ゲートに到着するところから撮影を始めさせていた。『苦いバナナ(仮題)』での経験から、当初よりこれも作品にできるという勘が働いていたのかもしれない。パソコンを使った会議の様子や、ドール社の弁護士からの警告が郵送で到着するところなどもきちんと撮影されており、事の経過が手に取るようにわかる。映画祭事務局、監督や製作者に、訴訟すると手紙を送りつけ脅かす。マスコミを使って、この映画がインチキであることを宣伝する。スウェーデンの小さなマスコミの記事まで探しだし、そこにも圧力をかける。弁護士ホアン・ドミンゲスにも訴訟を起こす。ネットを使って個人攻撃のツイートや、批判記事を流す。誰もまだ映画を観ていないのに、あたかも観たかのように書いているところが、ミソである。『苦いバナナ(仮題)』が公正さを欠いている、そこで描かれていることは嘘であるという会社の主張が、まったく理不尽であることは、映画を観た観客のほうがよくわかる。前作で裁判の経過を丹念に写しだしていたことが、ここで生きてきてくるのだ。再び本作でも映し出されるドール社の会長の発言は、間違いなく本物なのだから。

巨大企業が、スウェーデンの小さな映画プロジェクトに、これだけあらゆる手を使ってくること自体が驚きではあるが、そこにかける費用は、全体の利益からしたら、微々たるものだというのは、言われてみれば当然のことではある。訴訟による圧力と、マスコミを巻き込んで行う宣伝。それによって、個人の経済的破綻や社会からの抹殺を図ることで目的達成する。宣伝には広告会社を使う。どうやって世論を操作するか、企画の段階から作り上げていくのである。ドール社の場合は、イラク戦争の正当化について広報活動をしていた会社にその依頼をしている。日本でも、これと同じようなことが行われている。広告会社と政府、官僚、マスコミ、企業が一体となり、どうやって世論を操作していくか、秘密会議がもたれることがあるという。それだけに、この作品の成り行きは興味深い。

大企業に個人が訴えられることのストレスの大きさは、とてつもないものである。その中にありながら、カメラを回し続けた監督の勇気には、敬服する。そのような状況の中で、突然事態が逆転する。その過程は誠に痛快である。関係した人たちにインタビューを取ることによって、きちんとまとめられているのは、事件が解決した後に、きちんと検証されたことの証である。詳細については、作品を観ていただきたいのだが、結論的には、消費者ひとりひとりが拒否反応を示し、商品が売れなくなることが、企業には一番の痛手なのである。確かにスウェーデンと日本では、国の状況は大きく異なる。スウェーデンの人口は950万人。日本でいえば、神奈川県の人口程度である。それでも、この一連の出来事は、ジャーナリストだけでなく、我々一般人にとっても大きな参考になることだろう。

☆配給:きろくびと 2016 年公開予定



【スウェーデン映画祭 2015開催概要】
■開催期間:2015年9月19日(土)〜9月25日(金)
■場所:ユーロスペース(渋谷区円山町1−5)
■主催:スウェーデン映画祭実行委員会
■公式WEBサイト:http://sff-web.jp/

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