ラブ&マーシー 終わらないメロディー

優しき天才の苦悩

 2012年の奇跡の再結成と来日ライブも記憶に新しいザ・ビーチ・ボーイズ。本作は、その中心人物であったブライアン・ウィルソンの苦悩を1960年代と1980年代の二つの時代に分け、ポール・ダノとジョン・キューザックの二人一役で描いた映画である。

 バンドの作曲・アレンジ・プロデュースをすべてこなしながらツアーにも出るという過酷なスケジュールの中、ツアーに出る事を拒否し一人スタジオにこもるブライアンが作った「ペットサウンズ」の曲が、マネージャーである父やレコード会社やバンドメンバーのマイク・ラヴ(ジェイク・アベル)に理解されず売れ行きも低調、周囲からの新作への期待とプレッシャーで精神を病んでいく60年代。20年後、車のセールス担当のメリンダ(エリザベス・バンクス)の優しさに触れ、心通わせるブライアンに対し、精神科医のユージン・ランディ(ポール・ジアマッティ)が、大量の薬を投与したり家族友人に会う事を禁止したり激しく叱責する事でブライアンを支配していた80年代。

 ビーチ・ボーイズのファンならブライアンの20年余りにわたるブランクの理由は知っていると思うが、こうして改めてその時期のブライアンを見せられてしまうと胸が痛み、複雑な気持ちになるかもしれない。しかし、ブライアンが作る美しい曲の数々が、この様な苦悩に満ちた状況の下で作られていた事を知る事によって、よりブライアンとビーチ・ボーイズというバンドへの理解と尊敬の念が生まれてくると思う。

 天才であるがゆえに理解されず、60年代は威圧的な父親に、80年代は同じく威圧的な精神科医に支配下に置かれ、その重圧をはねのける事が出来なかった優しい男。この点は、レコード会社からの嫌がらせや黒人差別や国税局の度重なる査察など様々な苦悩をはねのけたジェームス・ブラウンの様な“俺が一番”な男とは違うところだ。ブライアンが作る曲は触れたら壊れそうに繊細で憂いを帯びた彼の優しさを見事に表現している。

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