【FILMeX】Peace(コンペティション)

Peaceにあなたは何を見る?観察映画、観客賞受賞!

(第11回東京フィルメックス・コンペティション作品 観客賞受賞)

ナレーション、説明テロップ、背景音楽を一切使用せず、「観察映画」と自ら名付けた想田和弘監督独特の手法によるドキュメンタリー映画。『選挙』『精神』に続き製作した『Peace』が、東京フィルメックスのコンペ部門に登場、見事観客賞を受賞した。

舞台は岡山県岡山市。冒頭、自宅でたくさんの猫に餌を与えている男性が登場する。彼の名は柏木寿夫、監督の義理の父だ。彼は福祉移動車のボランティアをしており、妻廣子はヘルパーとして現場で働く。そしてカメラは、末期癌を患う91歳の橋本さんという一人暮らしの男性を映し出していく。

印象的なシーンがある。死期が近いことを悟っている橋本さんが「自分が死んだ後のことをよく考える」と言うと、ヘルパーの廣子が「あなたの望むようにお手伝いしたいと思っていますよ」と応えるのだ。普通なら、「何を言ってるの、まだまだ長生きしなきゃいけないでしょ」とでも言うところだろう。しかし、彼らの間ではそういう儀礼的な言葉は存在しない。死を目前にした人間の心に寄り添って、現実として自分ができることをやってあげたいと言う。それこそ、周囲の人間が与えてあげられる「安心」ではないか。映画のラストには、政権交代したばかりの鳩山総理が福祉について訴えるラジオが流れるが、それがなんと白々しく聞こえることだろう。

また、生活保護を受けながら闘病を続ける橋本さんは、どこかに出かけるときはビシッとネクタイをして背広を着て出かけていく。病院に行く時も然り。不意に部屋に入ってきたカメラを見て、寝間着からワイシャツに着替えようともする。こんなちょっとしたこだわりに、私は古き良き日本人の精神、心遣いを感じさせる。そうやって人生を生きてきた人間の美しさ、と言うべきか。

ドキュメンタリーの醍醐味は、何が起こるか自分でもわからずカメラを回しているうちに、すごいと思える映像や場面に遭遇することだと監督は語る。確かに、これだと思える何かに巡り合った時の感動はひとしおなのだろう。そして、その「何か」に気づき、見つけ出す「目」が大事なのだと思う。

翻って言えば、何気ない日常や生活の中に、何かを見出そうとする「目」は、私たちにもあるのだ。この映画を見て、感じ入るところは一人ひとり異なるだろう。そう、それでいいのだ。だって、「目」は一人ひとり違うのだから。そして、そういった意味でも、このような作品が観客賞を受賞したのは、まさに快挙と言えるのではないだろうか。

Text by 外山 香織

オススメ度★★★☆☆

製作国:日本、アメリカ 製作年:2010年
監督:想田和弘
出演:柏木廣子、柏木寿夫
(c) 特定非営利活動法人東京フィルメックス実行委員会

【第11回東京フィルメックス】
2010年11月20日(土)~11月28日(日)
有楽町朝日ホール、東劇、TOHOシネマズ日劇他にて
■一般お問合せ先
ハローダイヤル TEL:03-5777-8600(全日/8:00~22:00)
公式サイト

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