6才のボクが、大人になるまで。

12年の歳月を12年かけて撮る意味とは

6boku_main 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』から始まる“ビフォア”シリーズ3部作で知られるリチャード・リンクレイター監督の最新作は、6才の少年が18才になるまでの軌跡を、実際に撮影期間12年をかけて収めたチャレンジャーな作品だ。主人公メイソン役エラー・コルトレーンも、両親を演じるパトリシア・アークエットとイーサン・ホークも12年の長きにわたって一つの役を全うした。

映画の序盤、若いイーサンが登場したときは目を疑った。2014年製作の映画に、2002年頃のイーサンが出てくるのだから当然肌つやも良いのだが、12年前の彼がタイムマシンに乗って現れたのかと思ったくらい。彼の場合、今年1月に“ビフォア”3作目『ビフォア・ミッドナイト』が公開されて、その劣化ぶりに衝撃を受けたのだから、その驚きはなおさらだった。

もちろん、その後のイーサンは物語の進行に沿って劣化していくから安心してほしい(?)。その劣化はつくりものではなく、実際のものだから、なおのこと物語がリアルに思える。『ビフォア・ミッドナイト』でも感じたが、リンクレイター監督は時間の流れ(俳優たちの劣化を含め)を無理にいじることなく、自然のままに任せ、そのなかで物語を紡ぐことに卓越している。ちなみにホン・サンス監督は、最新作『自由が丘で』(12月13日公開)で“時間に実体はない”という概念を巧みに利用して、時系列を自由自在に分断し、観客を翻弄する手腕を見せている。この点は時系列を丁寧に扱ったリンクレイター監督は対照的で、興味深いものがあった。

イーサンが劣化なら、主役のエラーは成長と呼ぶべきだろう。6才のちょっと内気な男の子が高校を卒業し、夢に向かって独り立ちするまでの12年。その間に、母親の再婚相手との衝突や母親とのすれ違い、お酒にドラッグ、夜遊びや初めての恋愛などを体験する。また、ある時点から声変わりしていたり、急激に身長が伸びていたり、と身体的な成長も顕著。終盤にはこんなイケメンになったのか!と瞠目ものだ。

6boku_場面写真1 ただ格別にドラマチックな出来事は起こらない。前述したような出来事は恐らく多かれ少なかれ、どの少年、どこの家庭でも起こり得ることで、既視感はある。果たして12年の歳月と労力を費やして撮るべき映画なのだろうか?・・・と見る前は思っていた。それに昨年は『いとしきエブリディ』(マイケル・ウィンターボトム監督が実際に5年の歳月をかけて撮影したドキュメンタリーともフィクションともつかない家族の物語)も公開されているし、それと同じ匂いも感じていた。(『いとしきエブリディ』との比較などを論じることが本記事の目的ではないので、その点は割愛させていただく。)

しかしラストシーンで、さきほどの疑問は払拭された。本作はホームドラマであると同時に、時間の積み重ね=経過を噛みしめるものだからだろう。ホン監督の『自由が丘で』の根底である“時間に実体はない”というのは、考えれば本作とも共通している。時間には実体がないからこそ、積み重ねていくことでようやく感じ取れるものだ。時間を見せるためには、12年の年月を12年かけて撮るという、CGも特殊メイクも使用しない、リアルな息吹が必要だったのかと、温かなラストを見つめながら合点がいった。

12年もの撮影期間のうえ、どういう物語になるのかは不確定、製作費もどうなるのか・・・という不安要素が多く、不効率極まりない方法でつくられた作品だが、様々な分野でコンビニエンス化が著しい昨今、本作のようなアナログ的な手間暇かけた映画は稀有な存在だろう。同時に俳優陣の年月の経過はスクリーンで見て感じとれるが、見えないところ、つまり作品を背後で支えたリンクレイター監督、スタッフも年齢を重ねていることを忘れてはいけない。作品に携わったすべての人が愛情と根気をもって完成させた作品と言えるのではないだろうか。

6boku_場面写真2▼作品情報▼
監督・脚本:リチャード・リンクレイター
出演:パトリシア・アークエット、エラー・コルトレーン、ローレライ・リンクレーター、イーサン・ホーク
原題:Boyhood
配給:東宝東和
上映時間:2時間45分/年齢区分:PG12
(c)2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.
公式サイト:http://6sainoboku.jp/
第64回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞
11月14日(金)TOHOシネマズ シャンテ他にて公開

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  1. 映画感想 * FRAGILE

    6才のボクが、大人になるまで。/未来なんて、わからなかったよね

    6才のボクが、大人になるまで。BOYHOOD/監督:リチャード・リンクレイター/2014年/アメリカ よくぞここまで、すくすく育ってくれました! TOHOシネマズシャンテ スクリーン1、E-8で鑑賞。事前情報としては、すごい長い間ひとりの男の子を撮ってた。ってことくらいです。あとイーサン・ホークが出ている。 (これは未来の自分へメモですが、TOHOシネマズシャンテ、スクリーン2はF列くらいでちょうどいいです) あらすじ:6歳から18歳までを追った12年間。 メイソン(エラー・コルトレーン)は姉サマン…

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