ビフォア・ミッドナイト

ジュリー・デルピーが晒すおっぱいの価値~劣化という名の深化

 旅先の列車で出会ったジェシー(イーサン・ホーク)とセリーヌ(ジュリー・デルピー)が夜明けまでの時間を共にした『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(95)、9年後の二人の再会を描いた『ビフォア・サンセット』(04)の続編で、さらに9年を経た物語として紡がれたのが、ギリシャを舞台にした本作だ。前2作のそれぞれのラストであわあわとした余韻を噛みしめていたが、本作でこの二人、実は再会の後にずっと一緒に暮らしていたことが分かる。しかも子供まで儲けて・・・!

特に第1作は非日常な旅先で男と女が出会い、恋に落ちるという設定に夢があった。運命的な出会いに酔い、すべてが甘美な思い出。だが本作ではロマンチック度が一気に下がる。現在の二人は恋愛気分を満喫という時期をとうに過ぎ、倦怠期真っただ中。会話の中身は、ジェシーの前妻との子供のこととか、男の生態がどうのこうのとかの本音全開のマシンガントークがひたすら続く。とにかくしゃべる。本人たちは至って真剣に議論をしているが、聞かされる(観ている)側としたら、正直どうでもいい内容だ。

それよりも俄然目を引いたのは、イーサンの目尻の皺やほうれい線、ジュリーのたるんだ二の腕や無駄に晒すバストなどの“劣化”だ。二人が出会う第1作もだが、それ以前の作品の『リアリティ・バイツ』(94)でのイーサンの初々しさ、『トリコロール/白の愛』(94)でのジュリーの清楚な美しさをリアルタイムで観ているだけに、その経年による彼らの劣化は残酷だ。しかもジュリーは胸を隠そうともせず、口論に没頭。長年生活を共にしているカップルにとってのおっぱいの価値は下落し、色気もへったくれもない、ただの脂肪の塊に過ぎないのか・・・と失望を通り越して滑稽なくらいだ。

 しかしまあ、この口論しながらのおっぱいまる出し。しれっと出しているが強烈なシーンだと思う。果たして彼女は何分くらい晒していたのだろう。時間を計れば良かったと悔やんだが、相当長い時間露わだった。第1作で二人が気持ちの高まりのままに求め合ったときは、彼女は露骨に肌を見せず、若い女性らしい恥じらいが表現できていたのかもしれないと今にして思う。それから18年、共に暮らして9年。まる出しシーンは、恥じらいもへったくれもなく、オバタリアン(←死語?)という言葉が久々に脳裏に浮かんだ。そんなパートナーを前に、欲情するよりも激しく“口撃”するジェシーの姿に、彼らにトキメキを戻すのは無理だ・・・と思ってしまう。彼女の劣化したおっぱいは、二人の恋愛感情も劣化したことを象徴しているのだ。

ただ人間誰でも歳をとり、ジジババになる。また恋愛感情も、初期の胸キュンを長い間維持するには、相当の努力が必要だ。それにいつまでも気取ってはいられない。それは分かっているが、でも劣化したカップルは、果たして一緒にいる意味があるのか?そして劣化のあとに何が残るのか?まる出しシーンの後、冷静さを失って部屋を飛び出したセリーヌの姿に、そんな思いにとらわれる。劣化とはやはりネガティヴな要素なのか。

 その答えが真夜中近くでの二人の会話から見えてくる。前2作とは違う余韻に浸りながら、劣化を受け入れることが愛が深まった証だと示唆してくれるのだ。ここまで劣化、劣化と連呼したが、正しくは劣化という名の深化と表現したほうが正しい。それに気づいたら、バカにしていた(?)ジュリーの垂れた乳もいとおしい。深化という答えに辿り着いたことで、彼女ががさつなオバタリアンから永遠のミューズに反転して見えるという、秀逸なからくりだ。“無駄に晒す”と前述したが、そうではなかった。無駄どころか、本作において極めて必要不可欠だったとジュリーに謝りたい。彼女(と共同執筆者のイーサンとリチャード・リンクレイター監督)が手がけた脚本には“まる出し”とト書きがあったと邪推しているが、昨日発表された第86回アカデミー賞ノミネーションでは脚色賞で候補に。ぜひとも受賞してほしいところだが・・・。おっぱいまる出しのオスカー脚本家なんて、かっこいいではないか。

一応、本作が最終章の位置づけだが、また9年後に『ビフォア・ヌーン』(例)みたいな続編が出来るのではなかろうか。その頃には彼らがさらにどう“深化”しているのか気になるが・・・。まあ、気長に待ってもいいかもしれない。

▼作品情報▼
監督:リチャード・リンクレイター
脚本:リチャード・リンクレイター、イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー
出演:イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー
2013 年/アメリカ映画/英語・仏語/108分/ビスタサイズ/デジタル5.1ch/
原題:Before Midnight/ PG-12 提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム
公式サイト:http://beforemidnight-jp.com/
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2014年1月18日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト 9ほか全国公開