『消えたシモン・ヴェルネール』ある失踪事件を通じて描く、青春の群像

 カンヌ映画祭(10)やフランス映画祭(11)で話題を呼んだサスペンス。

 パリ郊外の学校に通う高校生たちが、ある夜パーティーの最中に、森の中で死体を発見する。遡ること10日前、彼らのクラスメイトであるシモンという男子学生が消息を絶っていた。数日後、今度は女子生徒が失踪し、その翌日も別の男子生徒が姿を見せなくなる。失踪した3人の間に特別な関係はなく、心当たりを持つ者もいない。彼らはなぜ、どこへ消えたのか。“クラスメイト連続失踪“の謎は日ごと深まってゆく・・・。

 2人目の失踪から警察による捜査が始まり、学校では一連の事件について様々な憶測や噂が飛び交うようになる。ただでさえ高校なんて、友情や恋をめぐる駆け引き、他愛もない冗談や見栄、あるいは秘密で溢れているような場所である。観客は、生徒たちの主観や思惑の入り交じった、ウソかホントかわからない会話に翻弄されながら、物語の深みにどんどんハマっていってしまうのだ。

 カメラは4人の学生に焦点を当てて、死体発見までの2週間をひとりずつフラッシュバックしていく。サッカーの試合で突然キレて“ハルク()”と呼ばれているジェレミー、高嶺の花的存在で美脚が自慢のアリス、時代遅れの髪型とベストがトレードマークのラビエ、そして消えたモテ男のシモンだ。彼らの高校生活にはそれぞれのストーリーがあるが、互いにリンクし、一つの結末に向かっていく。この物語構造とスクール・カーストの描き方が、昨年の話題作で、同じく高校を舞台にした失踪ミステリー『桐島、部活やめるってよ』を思わせる。日仏の高校生活を比較しながら鑑賞するのも一興だろう。一方、カンヌでは“ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』を彷彿する”と評されている。たしかに、アリスが登場する冒頭のシークエンスなど、人物を背後から追うロングショットやビジュアルの雰囲気はそれに近いものがある。いかにもサスペンス!という煽るような過剰な演出はなく、美しいカットを重ねた映像とソニック・ユースが手がけたオリジナル音楽が心地良い。とくに代表曲の『Schizophrenia(スキゾフレニア)』は、独特の物語構成のなかで目印となるような重要な役割をもっているので注目してほしい。

 ラストの展開は好みが分かれるところだと思うが、個人的には良い意味で裏切られたという印象で、予想が覆されていくのが快感でもあった。ある生徒の視点では何気なくみえた光景が、別の生徒の目線からだと、ハッとさせられるほど印象が変わって見えたりするのが面白い。きめ細かな演出と緻密な脚本が光る本作が、ファブリス・ゴベール監督の初長編作というから驚きだ。ミステリーを軸にしながら、青春のきらめきを見事に映し出した愛すべき作品である。

※アメコミのキャラクターで、怒りや憎しみなど負の感情の高ぶると怪力を持つ巨人に変身してしまう

12月14日(土)より、ユーロスペースにてレイトショー!ほか全国順次公開
※ユーロスペースでは来場者全員に解説リーフレットをプレゼント(内容:映画・音楽解説&監督インタビュー掲載)

監督:ファブリス・ゴベール
出演:ジュール・ペリシエ、アナ・ジラルド、セルジュ・リアブキン、ヤン・タッサンほか
音楽:ソニック・ユース
原題:Simon Werner a disparu
製作:フランス/2010年/93分
配給・宣伝:ビーズインターナショナル
公式サイト:http://www.kietasimon.com/

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