中国インディペンデント映画祭 代表・中山大樹さんにきく vol.2:監督たちに宿る“メディアが報じない社会の問題点を伝える”使命感
-映画祭の上映作品をセレクトする際、毎回基準にされていることはありますか?
やっぱり、最初に映画祭をやろうとした理由に、映画を通じて中国人の生活ぶりや本当の中国の姿を伝えたいという思いがあったので、できるだけそれが分かるものをと意識はします。まったく架空の世界や物語を描いているような映画は多分選びません。
-中国国内の独立電影節(インディペンデント映画祭)などに行くと、ファンタジックな物語や架空の世界を描いた映画も多いのですか?
実験的だったり、生活とかけ離れた内容の作品はありますね。プライベートな作品も増えてはきましたが、やはり少ないです。やっぱり、中国のインディペンデント映画の特徴は、社会に目を向けているというところ。監督たちには、「映画を撮ろう」という意識がすごく強いんですよ。ドキュメンタリーでも、単に記録しようとか、ジャーナリスティックな視点で何かを告発しようというより、“映画として作る”という意識が強い気がします。中国の場合、自分たちが普段目にすることのできるものは、テレビ局が作ったり、映画館で上映されるものだったり、いずれにせよ政府のフィルターを通している。「実際の生活はそうじゃないよね」と思いながら生きているなかで、映像を作りたいという人には「じゃあ自分が、他の人が作らないもの、見ることができないものを撮って、伝えてやろう」という想いがある。だから、よりメディアが伝えない社会の問題点みたいなものに焦点を当てた作品が多くなっていくんだと感じます。
―“使命感”みたいなものを持っているんですね。
それはすごく強いと思います。特にドキュメンタリーの監督ですけど、中国が変化していくなかで、「今、自分が撮っておかなくては」とか、「こういう人たちがいることをもっと伝えたい」という意識を持っている。映画を作るのが難しい社会事情だからこそ、強いものが生まれてくるんでしょうね。例えばテレビ局がどんなテーマでも扱うようになれば、何も自分がやらなくても…となってくるわけじゃないですか。そうなるとやはりモチベーションは保てないですよね。
―使命感に燃えて撮っても、現状、観てもらえる範囲は限られている。映画監督としては、やっぱりジレンマですよね。インディペンデント映画と言われる映画でも、今回上映されるヤン・ジン(楊瑾)の『ホメられないかも』みたいに検閲を通して劇場公開される作品もある。だから、監督たちもきっと、いずれ劇場公開される映画を撮りたいとも思うでしょうし、そこの垣根というのは、将来的には低くなっていきそうでしょうか。
監督として食べていくことを考えると、やはり海外で賞をとるだけではやっていけない。海外で作品を公開できて、その収入だけで成り立つならいいでしょうけど、そういうのはやっぱり稀ですから。そうすると、中国国内での上映というのは考えますよね。ヤン・ジンの『ホメられないかも』の場合、本人も“児童映画”って言ってますけど、自分の子どもの頃をモチーフにした作品であれば、撮りたいものが撮れて、かつ検閲にも通りやすいだろうということで選んだ題材。実際、この作品は中国の色んなところで上映されました。そういう形であれば会社からの出資も受けられる。すると、また次の作品が撮れる…という形でうまく回していくこともできる。もちろん、撮りたいものを撮れるというのは前提だけれども、やはり作り続けていくための方法は考えざるを得ないですよね。ヤン・ジンが言っていたのは、「インディペンデントで撮りたいと思えば、インディペンデントで自分で撮る。もし大きな予算で大作を作ってくれと言われたら、それも出来る。そういう人が、本物のインディペンデント映画の監督なのではないか」と。インディペンデントでしか撮れないのではなくて(笑)。
―映画祭の作品選定の話に戻りますが、今回上映される作品も、現地の上映会に足を運んで決めてこられたものなのですか?
もちろん、向こうでほとんど観ています。映画祭があれば行きますし、北京にいれば顔見知りが増えてくるので、僕がどういう仕事をしているのか分かってくるとDVDを送ってくれたりする。そういう形で観る作品も最近は増えましたね。でも、特集上映するチャン・リュル(張律)監督の作品は中国では観られなかったです。今回上映する『豆満江』『重慶』『唐詩』の3本はネットにもアップされていないし、中国国内の映画祭にも出品していなかったので観る機会がなかったのですが、噂には聞いていたので、「ぜひ観たい」とお願いして監督にDVDを送ってもらいました。(※張監督は朝鮮族で、中国と韓国を行き来して活動している)―今回の上映作のなかで、この映画祭初体験という方に「このあたりから入ってみては?」と敢えてお薦めするとしたら?
やっぱり、特集するチャン・リュル監督の作品はすごく観てほしいですね。ただちょっと変わっているので、あの人の映画は(笑)。デビュー作の『唐詩』はほんとんどセリフが無いうえ、黙々と男の人が部屋の中にいて…という場面が続く。ポカンとしちゃうと思うんですよ(笑)。そこから入るとちょっと驚くかもしれませんが、『豆満江』は面白いです。北朝鮮から越境して来る人たちと、朝鮮族の人たちの話で、子供同士の出会いを中心に描かれます。そこに摩擦が生じたり、悲惨なことも次々起きる。シリアスで哀しい話ではあるのですが、朝鮮族である監督が実際にそういう地域で生まれ育ったそうなので、とても真に迫っています。おまけにユーモアの要素もあって、すごく訴えかけてくる作品ですね。子供が主人公なので、ベルリン国際映画祭で子供が審査するジェンレーション部門で賞もとってるんです。ネタバレになるので詳細は伏せますが、「こんなの子供に見せていいの?」って思うぐらいショッキングな映画なので、ドイツってすごいなぁ、と…。日本では教育に良くないと思われそうな内容もあるんですけど、本当は子供も見た方がいいのかなという気もする作品です。
―今のお話もそうですが、前回上映された『占い師』も実はかなりエグいですよね。身障者の奥さんがいるお爺さんが、カメラに向かって「あいつは500元で買ってきた」とか語っている。中国のインディペンデント映画って、もし日本で製作・公開されていたら問題にされそうな作品も多いですが、監督たちは倫理的な問題についてどう考えているのでしょう?
倫理面って、日本ほど洗練されてないと思います。「そういう人がいるんだから」という感じですよね。『占い師』のシュー・トン(徐童)監督は今回も『唐爺さん』を上映しますが、1本目の作品『収穫』を撮った時に散々叩かれたんです。「娼婦を登場させ、顔まで映している。彼女や同僚、客まで撮っているが、彼女らのプライバシーはどうなるのか?」と。監督にしてみれば、映画館でかけるわけでも、テレビで流すわけでもなく、ごく小規模な上映なんだからプライバシーなんて逆にどう侵害されるんだ?という気持ちでしょう。その程度にしか考えていない。ただ、責められたせいでシュー・トンも意識して、次の『占い師』からは実物を連れて歩くようになりました(笑)。(※今回も来日予定の唐小雁さん)本人が言うんだからいいじゃないか、と(笑)。
―昨年中国でヒットしたチェン・カイコー(陳凱歌)監督の『捜索』という作品は、ネットへの投稿動画が拡散し、個人情報が特定されたヒロインが追い詰められいくという話でした。ネット動画が映像視聴の主要手段となり、「微電影」(ショートフィルム)なども盛んになっていくと、そうした怖さも無視できません。
2011年の東京フィルメックスで上映された『独り者の山』(ユー・グァンイー/于広義監督)というドキュメンタリーがありましたよね。もういい年なのに独りで暮らしている男が、好きな女性のことを思って甲斐甲斐しく世話を焼くんですけど、「あの女はレズビアンなんだぞ」と言われてショックを受けるという話。この作品は上海テレビ局から資金提供を受けて撮っていたので、テレビ放送されたんです。それを観た人が、その女性に教えたんですよ。中国では同性愛者は(97年まで)犯罪者扱いだったので、まだまだ立場が弱いのに、ばっちり顔も映っているし、冗談じゃない!という話になって、女性は監督を訴えると言い出したんです。監督はただ面白いから作っただけ。問題になるとは考えてなかったので、驚いてしまった。結局、それまで方々に送っていたDVDを回収して、中国国内では放映しないということで裁判沙汰にならずに収めたそうです。映画もテレビも、昔は政府公認のものしか流れていなかったので、そういう問題は存在しなかった。最近、ようやくプライバシーの問題を意識するようになってきましたね。昔は肖像権なんて言葉も中国にはなかったですから。監督の意識よりも、先に観る側の意識が上がっていったというところはあると思うんです。でも、ネットが普及してからの話なので、急にですよね。
―最後に、中国インディペンデント映画祭へのご来場を考えている読者にメッセージをお願いします。
作品のテーマがそれぞれ異なるので、インディペンデント映画にもたくさんの種類があるんだと感じていただけると思います。例えば、、ゲイのクラブ歌手を主人公にした『マダム』はインディペンデント映画の中でもわりと象徴的なテーマである同性愛を扱っていますし、ずっと正統派のドキュメンタリーを撮ってきたウー・ウェングァン(呉文光)のようなベテランの作品もあれば、ちょっと変わったスタイルの作品もある。ただ、どれも非常に厳しい状況の中で力を入れて作られているので、自己満足で終わるインディペンデント映画も多いなか、メッセージが強く伝わる作品が揃っていると思います。中国インディペンデント映画を取り巻く環境とは…? <vol.1>に戻る
Profile
中山大樹(なかやまひろき)
中国インディペンデント映画祭代表。千葉県出身。現在は主に中国に滞在しながら、インディペンデント映画の上映活動や執筆をしている。
▼開催情報▼
中国インディペンデント映画祭2013
期間:2013年11月30日(土)〜12月13日(金)
場所:オーディトリウム渋谷
公式サイト: http://cifft.net/
チケット情報:一般 1500円/シニア・学生1200円/高校生以下800円
3回券3600円 ※劇場入口でのみ取り扱っています
全席自由席(整理番号順入場)
当日朝10時より、全ての回の整理番号をお求めいただけます。