中国インディペンデント映画祭 代表・中山大樹さんにきく vol.1:「中国のことを知ってもらうには、こういう映画をもっと日本人に見てもらったほうがいい」

 今年で第4回を迎える「中国インディペンデント映画祭」が11月30日(土)~12月13日(金)の日程で開催される。中国といえば、劇場公開作品には厳しい検閲を課すことで知られているが、そこで製作されたインディペンデント映画と聞くと、どのようなイメージを持たれるだろう?
 最初に筆者自身の考えを述べておくと、検閲を通った映画=政府の方針に迎合したつまらない映画という見方には反対だ。技巧をこらしてうまくメッセージを盛り込み、かつ観客を楽しませて大ヒットに結び付けられる商業映画の監督は素晴らしいし、検閲を通さなくても自己満足で終わっているようなインディペンデント映画をわざわざ持ち上げる気はない。しかし、これまでの中国インディペンデント映画祭でセレクトされた作品は、中国の現代社会を多様な切り口でとらえながらもエンターテインメントとして面白く、「もっと様々な作り手の世界をのぞいてみたい!」と思わせてくれる力作が揃っていた。2008年の第1回開催から、作品のセレクション、映画祭の運営をほぼ一手に担っているのが代表の中山大樹(ひろき)さんだ。
 中山さんは、会社員として上海に駐在していた頃に中国映画を片っ端から見始め、インディペンデント映画に出会った後は、仕事を辞めて自力での映画祭開催を目指して奔走したという異色の経歴の持ち主。中国に滞在しながら、インディペンデント映画の作り手を近距離で見つめてきた中山さんに、中国のインディペンデント映画をとりまく環境や、今年の映画祭の見どころなど、たっぷりお話をうかがった。


中国インディペンデント映画祭代表の中山大樹さん


-中国のインディペンデント映画といっても、はっきり定義されているわけではないですよね。その監督たちというと、“中国政府に無許可で反体制的な映画を作って頑張っている”というイメージをなんとなく抱いている日本の映画ファンは多いと思います。

特にそういう監督たちが海外では目立っていますからね。それは1つの典型ではあると思いますが、実際には色んな人がいます。商業映画を撮りたいんだけれども、とりあえずはインディペンデント映画から始めようという人もいる。例えば、ニン・ハオ(寧浩)という監督も、今はメジャーなコメディ映画を撮って大ヒットをとばしていますが、第4回東京フィルメックスで最優秀作品賞をとった『香火』(03)なんかは完全なインディペンデント映画でした。

―「この映画は検閲を通していません」というだけで、日本では気骨のある監督だという風に受け止められる傾向がある。確かにそうだとも思いますが、実際は色んな作品があるということですよね。

検閲を通すということは、映画館でかけることを前提とした商業映画なので、それなりに製作資金もあって、プロの俳優が出ているものじゃないと、中国では普通は公開されないわけです。だから、そうではない若手監督の撮る低予算映画には、そもそも映画館でかけてもらえる可能性があまりないので、検閲を通さないという手段も選択肢としては特別なことではないですね。

―北京をはじめ、南京など中国各地でインディペンデント映画祭が行われていますが、中国にはかなりの数の自主映画の監督がいるのでしょうか。

大きな映画祭は出来なくなってしまったところが多いのですが、小規模の上映会は中国各地で行われています。でも、上映している作品は大体同じです。優秀な作品というのは、実は多くないんですよね。現在1年に1回開催されている北京独立電影展(北京インディペンデント映画祭)で、応募作品数は約300本だったそうです(ちなみに、今年の「ぴあフィルムフェスティバル」応募総数は511本)。

-中国のインディペンデント映画製作の資金繰りって、どういう風になっているのですか?最近は、まったく映画とは関係のない業界のお金持ちがどんどん映画に投資して、中国では玉石混淆、大変な数の映画が撮られるようになったという話も聞きます。

ほとんどの作品は自己資金ですね。確かに、最近は知り合いから日本円にして数百万くらの資金を出してもらって、撮っている人も毎年数人はいます。金持ちなので資金の回収や版権などについてはとやかく要求せず、「はい、どうぞ」という投資者も増えてきたみたいですが(笑)、それは少数ですよ。

-少数でも日本の感覚ではびっくりです(笑)。監督たちの製作環境はどうなのでしょう。政府の許可をとっていない作品となると、色々と困難もあるのでは?前回上映されたドキュメンタリー『天から落ちてきた!』は、人工衛星の残骸の落下地点に選ばれた湖南省綏寧県の村で、その被害におびえる村民の姿を追った作品でしたが、県の政府にまで入り込んで村民と役人のやり取りを撮影していました。あれも無許可ですよね?

撮影許可証がないと協力は得にくいですよね。公共施設もそうですが、学校などはやりにくい。『天から降ってきた!』の撮影ですが、チャン・ザンボー(張賛波)監督が言うには政府の人は彼のことを記者だと思っていたみたいです。中国の記者って、基本的に政府に不都合なことは書かないじゃないですか。だから、記者ならむしろ安心して撮らせちゃうというところがあるんですよ。だから、綏寧のウェブサイトを見ると、彼が撮影した当日の様子が載ってるんです。“衛星の残骸回収に成功”っていう見出しで(笑)。

-メディアも取材に来ました!という(笑)。

『書記』という作品もありましたが、あれも登場した書記が密着取材を許したのは、多分、インディペンデントのドキュメンタリー映画がどういうものかまったく考えてなかったんでしょうね。

-劇場公開されないインディペンデントの映画は、DVDなどで流通もしているのでしょうか?最近よく聞くのはネット視聴ですが、一般の人も観たいと思えば観られるものなのでしょうか。

昔は正規のDVDがあるにはあったのですが、今はすごく減りましたね。DVD自体が売れないんですよ。みんなネットで観るので、海賊版すら買わなくなっている。自分でDVDを作って売ったりしている監督はいますけど、ネットで見られるとすれば、それを入手した誰かが勝手にアップするパターン。監督が自分で投稿するということは、そんなにないと思います。

―今年6月に上海国際映画祭を取材したとき、マーケットに出展していたオンライン番組配信「愛奇芸(iQiyi)」の担当者が「劇場でかからないけど良い映画はいっぱいある。自分たちはそれをどんどん配信していく」と言っていました。

中国にはいくつか動画サイトがありますが、最近は版権を購入して、お互いそれを認めて、海賊版は許さない方向になってきている。中国映画に関しては、どこかが版権を買っていれば、海賊版ってあまりネットでは流れてこないんですよ。商業映画も含めて、ルール作りは最近ちゃんとしてきている。ただ、自分たちの権利と関係のない洋画や日本映画はやりたい放題ですが…。だから、うちの映画祭で前回上映した『ピアシングⅠ』や『独身男』などは大手サイトの「土豆網」がちゃんと購入していますね。最近の傾向としてはウェブサイトが「微電影」(ショートフィルム)の独自の賞を設けて作品を募集し、応募作品を全部自分たちのサイトにアップするということもあります。

―そうした動画サイトから有望な若手監督が育つという兆しはないのですか?

もっとも「微電影」のコンテストは数え切れないぐらいあるんですが、そこから有名になった人がいるかというと、まあいないですね。ただ、作りたい人はいっぱいいるんです。今はどこの大学に行っても、だいたい映画専攻みたいな学科があったりしますから。

―本当に面白い作品がどのくらいあるのか分からないですが、多様なインディペンデントの映画が生まれてくる土壌はできてきているのかな、と感じます。

確かに、観やすくはなりましたよね。動画サイトの方には直接的な検閲はないので、サイト側がちょっとこれは載せられないと自主規制しなければ、色んな作品を出しやすい。

―中山さんご自身のことも交えてお伺いします。検閲を通さないからこそ撮れた自由な内容と、現代中国のディープなところを切り取った面白さが中国のインディペンデント映画の魅力だと思うのですが、中山さんが会社を辞められてまで日本に紹介したいと惹かれたところは何だったのでしょう?

もともと仕事をしながらも、自分がもっと楽しめて、なおかつ有意義だと思えることをやりたいという思いはあったんです。上海で駐在員をしていた時期があるのですが、商業映画はたくさん観ていて、自分で作ったホームページで中国映画の紹介を書いていました。でも、インディペンデント映画のことは知らなかったんです。見る機会もなかったですから。ホームページはアクセスもそれなりにあったので、日本に帰ってきても続けなきゃと中国からDVDを送ってもらったりしながら更新していました。その頃初めて東京フィルメックスのことを知ったんです。その年は、イン・リャン(応亮)の『あひるを背負った少年』、チャン・ミン(章明)の『結果』、ニン・イン(寧瀛 )の『無窮動』と、中国映画が3本かかるというので観に行きました。最初にイン・リャンの映画を観た時、明らかに低予算で、学生映画に毛が生えたような感じだったので、正直「こんなの映画祭でやるの?!」って思って(笑)。でも、観ていると面白い。こういう映画があるんだって、すごい驚きではあったんです。それまで観ていた商業映画よりも、自分が中国で見てきた中国人の姿や生活に近いし、中国のことを知ってもらうには、こういう映画をもっと日本人に見てもらったほうがいいんじゃないかなと思いました。

-中国のことが分かる映画を紹介しようという思いが映画祭につながった?

そういうのをやったらいいのにとは思ったのですが、誰もやる人がいない。だったら、自分でやってみようかという感じですね。もっぱら観る側だったので、作り手と直接会ったこともなかったし、映画を上映するというのがどういう事かもまったく知らなかったので、突飛といえば突飛ですよね(笑)。

-映画祭のノウハウについて、誰かからアドバイスを受けたのですか?

前回(2011年)行われたトークイベントの様子。ゲストは『一瞬の夢』などジャ・ジャンクー作品に主演した俳優・王宏偉さん(左)と、東京フィルメックス・プログラムディレクター市山尚三さん

全然です。フィルメックスで、イン・リャンのところに行ってアドレスをもらっていたんです。後で「もっとインディペンデント映画を観てみたい」と彼にメールを送り、イン・リャンがたまたま上海にいるときに、私も行って会いました。そこで色々な方の連絡先をいっぱいもらって、北京に会いに行って映画を見せてもらったりしました。その時にはもう、仕事は辞めていました。

-最初に観た映画を余程素晴らしい!と思って走り回られるのなら分かるんですけど(笑)…。

そうでもないですね(笑)。でも、こういう映画がもっとあるはずだって思ったんです。最初のイメージとしては、土・日の2日間くらいで何本か上映できたらという感じだったのですが、進めているうちにどんどん話が大きくなって、いきなり映画館で2週間という映画祭になってしまった(笑)。ただ、映画館に企画を持っていって話をしても、何も知らなかったんです。「上映はDVCAMにしてくれ」「DVCAMってなんですか?」というところからのスタート。技術的なことも何も分からなかったし、字幕もつけなきゃいけなかった。そのために映像ソフトを自分で買って、第1回は自分で字幕もつけました。最初は機材などに結構お金もかかったし、もちろん赤字なんですけど、何回も続けるつもりもはなかったんですよ。でも、やってみたら反響があって、来てくださった方からすごく良かったと言っていただいた。「ああ、こういう需要があるんだな」って、やってよかったと感じました。

-2回目(2009年)からはゲストも呼んでらっしゃいます。サポーター募集などはされていますが、それでまかなっていけるのでしょうか?

正直、それでは全然足りないですよ。2回目は、慶應義塾大学に協力してもらい、ゲストを招聘した企画を立ててもらったりしました。前回は、映画祭で呼んだ監督を大学に招いてもらい、講演会や上映会をしました。それで、その上映料をいただくという形でご協力をいただいています。もちろん、それとチケット料だけでは全然足りないですが、でも、結構大きいですね。

-今年も同様の企画が?

専修大学でシュー・トン(徐童)監督のトークが行われますし、慶應義塾大学でも公開講座ではないですが、やはり関連講座が行われる予定です。

中山さんがセレクトした今年の上映作品の見どころは?…<vol.2>に続く!



▼開催情報▼
中国インディペンデント映画祭2013
期間:2013年11月30日(土)〜12月13日(金)
場所:オーディトリウム渋谷
公式サイト: http://cifft.net/
チケット情報:一般 1500円/シニア・学生1200円/高校生以下800円
3回券3600円 ※劇場入口でのみ取り扱っています
全席自由席(整理番号順入場)
当日朝10時より、全ての回の整理番号をお求めいただけます。

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