【TIFF】エンプティ・アワーズ(コンペティション)

映画と。ライターによるクロスレビューです。

監督:アーロン・フェルナンデス
出演:クリスティアン・フェルレル、アドゥリアナ・パス

作品解説(公式サイトより)
街道沿いのモーテルの管理を任された少年。そのモーテルで男を待つ女性。年の離れたふたりの男女の心のすき間を、ゆったりとしたテンポと温かいタッチで描くヒューマンドラマ。孤独と希望を絶妙に演出する監督の才能に注目。

本作の舞台となるベラクルスは、メキシコ湾岸の港町であるが、2月のカーニバルの時期以外は比較的落ち着いているリゾート地である。繁盛しているとは思えない海沿いのモーテルと、そこにゆったりと流れる時間が作品の主役となり、孤独を共通のキーワードにしながら、少年と女のひとときの交流を温かく見守っていく演出は巧みである。アーロン・フェルナンデス監督は本作が長編2作目であるが、近年世界の映画祭を席巻しているメキシコ映画界において、新たに注目される才能のひとりである。)


クロスレビュー

メキシコの海辺というのに、どんよりした空模様のほうが多いのは、少年の退屈な気持ちを表す。17歳の少年と親しくなる港々に男がいると豪語する年上の女性は、そんな人生に幻滅、諦めと寂しさで。ふたりは、最初は扉を挟んで出会い、次に壁を挟んで会話が生まれ、屋根の上の少年に女性が近づいていくという具合に距離感の縮まり方が空間で示される。演出が細やかだ。空っぽの時間に見えても、扇風機は壊れ、人が出会って別れていく。そんな日常を経て少年が大人に成長していくというのは万国共通のテーマでもあり、好感がもてる。
(藤澤貞彦/★★★★☆)

ハリウッド映画などに比べれば、刺激的なことは何も起こらない『エンプティ・アワーズ』。しかし決して空虚な時間ではなくて、これも人生の一部である。おおよそ我ら「普通の人」の人生は淡々と過ぎて行くものだから。おじの代理でモーテルの管理人を任された.17歳の若者が、常連客の女性とのやりとりを通じて彼なりに成長していく姿は頼もしく、いつしか観る者の中にも親ゴコロが芽生えるはず。これは、愛すべき「日常」への賛歌だ。
(外山香織/★★★★☆)

17歳の少年と年上の女性との“ひと夏の経験”の物語といった趣か。人と人とのゆるやかな出会いと別れが、あわあわと描かれているのがいい。情感溢れる映像にゆったりと身を任せ、心地よい映像体験だった。ただし、“海辺”“夏”“10代の主人公”“何気ない日常”の描写は、同じコンペティション部門の『ほとりの朔子』との類似性も感じられ、賞を競うという性質のコンペにおいては、映画としてのインパクト面で不利に働くのではないかと心配だ(これは両作品のつくり手側の責任ではなく、コンペ選出側の問題だ)。とはいえ近年のメキシコ映画のレベルの高さを知らしめた秀作であることには、疑いの余地はない。
(富田優子/★★★★★)


©Urban Distribution International
100分 スペイン語 Color | 2013年 メキシコ=フランス=スペイン |

上映情報
▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen6
10/17 13:30 – (本編100分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: アーロン・フェルナンデス(監督/プロデューサー/脚本)、クリスティアン・フェルレル(俳優)

▼TOHOシネマズ 六本木ヒルズ Screen7
10/20 17:35 – (本編100分)
登壇ゲスト(予定): Q&A: アーロン・フェルナンデス(監督/プロデューサー/脚本)


第26回東京国際映画祭
期間:2013年10月17日(木)〜10月25日(金)9日間
場所:六本木ヒルズ(港区)をメイン会場に、都内の各劇場及び施設・ホールを使用
公式サイト:http://tiff.yahoo.co.jp/2013/jp/tiff/outline.php