『あの頃、君を追いかけた』九把刀(ギデンズ・コー)監督インタビュー<後編>:小説は1ヵ月、ドラマは3日で納品!? 「一日中、物語を考えてる」
―九把刀監督は、本作が長編映画初挑戦。実際映画を作ってみて一番難しいと思ったことは何でした?
うーん…(長い沈黙)…後でほかの映画がどんな撮り方をするのか知って分かったのですが、自分たちはほんとにラッキーでした。不満を感じたことはほとんど無いんです。
普通は時間の制約があったりしますが、幸い主演俳優も新人、監督も新人ということで、順撮りすることが出来ました。物語と同じように、チェンドンとミシェルもお互いを知らないところから段々打ち解けていき、次第に役に入ってゆっくり相手を好きになっていったし、僕も学びながらゆっくり監督になっていった。みんなで一緒にこの物語を理解していったって感じですね。後になって、そんなプロセスを経験できたのは貴重だったと気がつきました。
それから、台湾は台風が多いところなのですが、撮影した夏は台風が来なかったんです。1日雨に降られただけ。
唯一、不満だったことといえば…コートンとチアイーのキスシーンの撮影ですね。チェンドンに言ったんです。「もしやり方が分からなかったら、いつでも僕を呼んでくれ。見本を見せてやる」って。それでカメラを回し始めてからずっと呼ばれるのを待っていたのですが、彼は止めない。むしろ楽しんでる。あの件は今思い出してもちょっとムカつきますね。キスなんかできないみたいなフリしやがって。
―なんだか幸せそうな現場ですね(笑)。
そうなんです。よく助監督が駆けてきて、「もう遊ぶな。撮影が進まない」って叱られました。
―日本人にとってはマンガやアニメやAVなど、日本の文化がたくさん盛り込まれているのも見どころです。監督の世代の台湾の人は、日本のカルチャーに対してどんな想いがあるのでしょう?
例えば、みんな「SLAM DUNK」が大好きでした。その影響で3ポイントシュートにハマった奴らがいて、あのシュートができる三井寿役を取りあった。三井は1人しかいないから。ウザかったですね、みんな自分の好きなキャラクターをやりたがる。ただ、あのガタイのいい魚住役になった奴だけは不満そうでした。そう、そんな風に幼稚でくだらない感じだったけど、僕らの生活には(日本のものが)入り込んでいましたね。
今の台湾では、日本の映像作品より、韓国ドラマを観る人の方が多いです。ちょっと哀しい。僕は韓国ドラマは好きじゃないので。
―小説家として、これまで数多くの作品を書かれていますね。ネット上であなたのことを、「1カ月で小説を1本、3日でドラマの脚本を1本納品できる」と紹介している記述を見ました。その豊かな創作力の源はどこにあるのですか?
一日中、物語を考えているんですよ。“パソコンを開けばすぐ小説が書ける”じゃなくて、パソコンの前にいなくても常に頭で考えていて、“やっとパソコンを開けて書き始められる”という感じ。(筆者が予備レコーダーに使っていたiPhoneを見て)携帯電話ってコワイよね。僕はトイレで頑張ってる時も小説に何を書こうか考えているのに、携帯でゲームしてる人もいるでしょ。そんなことしたら物語を考える時間をムダにしてしまう。たとえパソコンに向かってる時間が同じでも、考える時間が減ってしまうから携帯はコワイ。
―ラブストーリーだけではなく、発表される小説のジャンルは多岐にわたります。普段はどんな映画や小説が好きなんですか?
ホラー映画が一番好きですね。好きなホラー映画トップ3は、1位『リング』、2位『仄暗い水の底から』、3位『パラノーマル・アクティビティ』(1作目)です。日本映画が2つも入ってる!つまり日本の幽霊はすごく怖いってこと。
―台湾の幽霊は怖くないのですか?例えば本作にもキョンシーが登場しますが…
台湾の幽霊は、悪いことをした人間をこらしめにやって来る感じです。でも、日本の幽霊にかかると、何もしてないのにビデオテープを観ただけで死ななきゃいけない。基本的にツイてないだけで殺される。よく覚えているのが、映画館で『リング』を観た時のこと。真田広之さんが元奥さんに見せた写真の中の顔が全部歪んでいるのを見て、「うぁっ」って大声で叫んで首をひねってしまった。それからずっとこんな姿勢で(首をかしげたポーズを実演してみせる)観る羽目になりました。ほんと怖い、僕の体まで傷つけるなんて。
―監督にとって面白い映画とは?
映画館を出たあともずっと考え続けることができる映画かな。最高のホラー映画は、家に帰ってベッドに入った後、怖くて目を開けられないようなやつですね。誰かが僕を見てるかもしれないから。
ラブストーリーだったら・・・台湾では『あの頃、~』を観たたくさんの人が、以前好きだった人に電話して、想いを伝えたそうですよ。やり遂げた人たちが手紙で報告してくれました。そういうのってすごくいいですよね。ただ、昔好きだったことを伝えただけで、もうどうにかなるものではない。でも、言わなきゃ相手はずっと知らないままだから。
―ご自身が経験された気持ちですね。
その通りです。
―今後の計画を教えてください。4月に製作会見をした映画『功夫』の進捗はいかがですか?
来年の7~8月頃にクランク・インしたいと思っています。アクション指導は、アジアで一番のアクション監督に引き受けてもらえました。まだ公表はできません!彼の要求は非常に高いので、僕には撮れないんじゃないかと心配しています。だから、今年は3本の映画をプロデュースして、アクションや特撮はどうやって撮るのか勉強したと思っています。キャストについてはまだ決まっていません。僕の好きな俳優にコンタクトして、OKしてもらえたら公表しますね。○○さんが好き!僕の映画に出てほしい!と公表して断られたら恥ですから。
<取材後記>
「うん、うん、うん…ん??」と、話を聞いていると所々で本気か冗談かよく分からない発言をする。こうしたインタビュー原稿でよく見かける「(笑)」を今回あまり使っていないのは、終始、真顔で可笑しな小ネタを放り込んでくるから。面白い発言をしよう、しよう、とするサービス精神と、“幼稚さ”を自己プロデュースしてしまうところがちょっと可愛らしいのだが、話の随所から心を込めて最高の作品を作ったという誇りと、非常にピュアで繊細な人柄がうかがえた。そもそも、「世界中に自分の青春時代のマドンナを知ってもらえて嬉しい!」なんて言える人がどれほどいるだろう?しかもその恋の結末は…この映画が投げかける人生にムダな努力や経験は何もないというメッセージを、そのまま体現して前に進む人という印象だ。
「ラッキーだった」という長編デビュー作が大成功を収め、きっと2015年公開予定の第2作『功夫』で真価を問われるのことになる九把刀監督。妙に大人にならず(?)、このまま“幼稚”に走り続けてくれる姿を見たい。
Profile
九把刀(ギデンズ・コー 本名:柯景騰)
1978年8月25日、台湾・彰化県生まれ。国立交通大学管理科学部卒業、東海大学社会科学院で修士課程を修了。1999年からインターネット小説を書き始める。ラブストーリーからホラー、コメディーまで、幅広いジャンルでこれまで60作近くの作品を発表しており、その多くが映画、テレビドラマ、舞台、オンラインゲームに脚色されている。2008年、異業種の著名人が監督したオムニバス映画『愛到底』の第1話「三声有幸」で短編初監督を経験。初恋の女性の結婚式に出席したことをきっかけに、自叙伝的小説「那些年,我們一起追的女孩」を2006年に完成させ、他の監督のメガホンによる映画化の話も持ち上がったが、「やはり自分の青春は自分で」と自身の長編映画デビュー作に決める。
▼作品情報▼
あの頃、君を追いかけた
原題: 那些年,我們一起追的女孩
製作総指揮:柴智屏(アンジー・チャイ)
監督・脚本・原作:九把刀(ギデンズ・コー)
出演:柯震東(クー・チェンドン)、陳妍希(ミシェル・チェン)、郝劭文(スティーブン・ハオ)、鄢勝宇(イエン・ションユー)、荘濠全(ジュアン・ハオチュエン)、蔡昌憲(ツァイ・チャンシエン)、胡家瑋(フー・チアウェイ)
配給:ザジフィルムズ、マクザム、Mirovision
2011年/台湾映画/110分
(c)Sony Music Entertainment Taiwan Ltd.
9月14日(土)より新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開
2013年10月18日
映画「あの頃、君を追いかけた」青春真っ盛りのドタバタ、ラストはしんみり…
映画「あの頃、君を追いかけた」★★★★ クー・チェンドン、ミシェル・チェン出演 ギデンズ・コー監督、 110分、2013年9月14日より全国公開 2011,台湾,ザジフィルムズ、マクザム、mirovision (原題/原作:那些年,我們一起追的女孩)…