【イタリア映画祭傑作選 Viva!イタリア】『もうひとつの世界』ジュゼッペ・ピッチョーニ監督インタビュー
「イタリア映画祭」で人気を博した作品の中から、選りすぐりの3本が特別上映される「Viva! イタリア」が、6月29日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町で開催される。「これぞイタリア!」という情熱的な恋、人情味あふれる人々を描いた作品の中から、今回、監督インタビューとともにご紹介するのは『もうひとつの世界』。
本作は、イタリア映画祭の常連・ジュゼッペ・ピッチョーニ監督の代表作のひとつであり、今や名実ともにイタリアを代表する女優、マルゲリータ・ブイの出世作でもある。この二人が再びタッグを組んだ「赤鉛筆・青鉛筆」はイタリア映画祭2013でオープニングを飾った。
生涯を修道生活に捧げる決意をしたカテリーナ(マルゲリータ・ブイ)と、クリーニング店を営む独身男エルネスト(シルヴィオ・オルランド)が、捨て子の赤ちゃんを通して偶然に知り合うところから物語は始まる。一緒に母親探しをするうちに、エルネストは捨て子が自分の子かもしれないと思いはじめ、カテリーナも抑えがたい母性を感じはじめる。果たして、赤ちゃんという存在を通じて、二人が辿る結末とは・・・。
「イタリア映画祭2013」のため来日したピッチョーニ監督に、15年前に製作した『もうひとつの世界』をあらためて振り返っていただき、お話を伺った。
——製作から15年経った今、『もうひとつの世界』が再び上映されることについてどう思いますか?
(監督)私のキャリアは、この映画で確立されたと思っています。5作目の本作で、やっと新しい観点や意識が生まれ、観客に対して責任を感じるようになりました。イタリア以外で上映されたのも本作が初めてですし、誇りや経験など多くをいただいた映画でもあります。マルゲリータ・ブイがイタリア以外で注目されるようになったのも、この映画が初めてだと思います。
この物語で描いた問題というのは、登場人物の二人だけの問題ではなく、観客の皆さんにもある問題だと思うのです。一生をかけて愛するとか、一生の仕事を持つということについて、私たちはとても難しい時代を生きていると思います。ところが、このカテリーナは一生の仕事を見つけようとした珍しい女性なんです。
−−なぜ修道女を主人公にした本作を撮ろうと思ったのでしょうか?
(監督)ある日、理髪店に入ると、そこに地元の新聞があったんです。読んでみると、修道女のインタビューが載っていました。「人生に不足はないですか?」という質問に対して、その修道女は「まるで片腕を失ったような喪失感を抱えています」と答えていました。それを読んだ時、本作のラストシーンを思いついたんです。
ここでは人々が隠し持つ“孤独”について描いています。全く別の世界に暮らす二人、修道女と人間関係では満たされていないクリーニング屋が出会い、そこから新しい旅が始まるわけです。二人が人間的な感情を取り戻す瞬間、違う自分になれる瞬間があり、「もしかしたら、新たな人生を持てるかもしれない」というチャンスが訪れるわけです。
−−修道院という場所についてですが、イタリアでは実際にどのような女性が入るのでしょうか?
(監督)この映画を撮るために何度も修道院に行き、取材をしました。失恋や家庭の事情などで、過去に心に傷を負った女性も少なくないと思いますが、修道院という場所は過激な場所でも特異な場所でもありません。今の修道院は昔ほど規則も厳しくはないようで、髪を切らずに三つ編みが地面につくほど伸ばしている人もいました。
本作は、修道女の立場から女性を語っている映画でもあります。彼女たちは人生の若いうちに修道女になりますが、女性らしさや母性も持っているわけで、歳をとった時に“別の人生について”振り返ることもあるそうです。
だから、修道女の方たちはこの映画をとても気に入ってくれたようで、「“修道女には人生も感情もない”と思われたくなかったから嬉しい」と言っていました。
いい意味で予想を裏切られ、そしてハッとさせられる『もうひとつの世界』を、ぜひこの機会に堪能してほしい。ピッチョーニ作品に通底する、嘘のない誠実な人物描写と、繊細なセリフに深い余韻が残る。
6月29日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか、全国順次公開
『もうひとつの世界』作品データ
監督・脚本:ジュゼッペ・ピッチョーニ
出演:マルゲリータ・ブイ、シルヴィオ・オルランドほか
製作:1998年/イタリア/100分
配給:パンドラ
▼ジュゼッペ・ピッチョーニ監督プロフィール
1953年生まれ。2001年のヴェネチア国際映画祭での最優秀男優賞と、女優賞のW受賞をもたらしたリアリティあふれる群像劇『ぼくの瞳の光』や、イタリア映画祭2010で上映された『ジュリアは夕べに出かけない』などが日本でも絶賛された。新作は人気俳優リッカルド・スカマルチョやマルゲリータ・ブイが教師役で出演する「赤鉛筆・青鉛筆」(2012)。
【イタリア映画祭傑作選 Viva!イタリア】※その他の上映作品
▼『最後のキス』
とにかく、イタリア女性の迫力と情熱に圧倒される!
『幸せのちから』『7つの贈り物』のガブリエーレ・ムッチーノ監督が2001年に本国イタリアで撮った大ヒット作。30歳目前の8人の恋愛模様が、同時並行的に、それぞれの視点から軽やかに描かれる。多くの映画賞に輝き、年齢や性別を問わず、時代を超えて人々の共感を呼ぶ傑作である。出演はステファニア・サンドレッリ、ステファノ・アッコルシ、ジョヴァンナ・メッゾジョルノほか。
製作:2001年/115分
▼『ハートの問題』
イタリア人ならではの深い家族観・人生観が沁みる
日本にもファンの多いフランチェスカ・アルキブージ監督の最新作。病院の集中治療室で知り合った、性格や生き方が対照的なふたりの男性の友情と彼らを取り巻く人々との愛情を描いた、笑いながらもしんみりと心に響く感動作である。主役を演じるアントニオ・アルバネーゼとキム・ロッシ・スチュワートのキャステングもいい。
製作:2009年/104分
2013年9月17日
映画「ハートの問題」何が大切か、それは人それぞれ、だから面白い…
映画「ハートの問題」★★★★ アントニオ・アルバネーゼ、キム・ロッシ=スチュアート ミカエラ・ラマゾッティ、フランチェスカ・イナウディ アンドレア・カリガリ、ネルシ・クセマライ キアラ・ノスケーゼ、パオロ・ヴィラッジョ出演 フランチェスカ・アルキブージ監督、 104分、2013年6月29日より全国順次公開 2009.,パンドラ、イタリア (原題/原作:QUESTIONE DI COURE)…