【イタリア映画祭2013】主演3人の個性が光る『赤鉛筆、青鉛筆』 高校教師の情熱と諦観をユーモラスに描く
2014年8月23日より『ローマの教室で ~我らの佳き日々~』という邦題で、東京・岩波ホールほか劇場順次公開!
イタリア映画祭の常連、ジュゼッペ・ピッチョーニ監督の新作は、ローマの公立高校を舞台にした群像劇。イタリアの高校をめぐる話題は尽きない状況で、「学校なんか必要ないのでは」という雰囲気も実際にあるという。来日して舞台挨拶に立ったピッチョーニ監督は、「フランソワ・トリュフォー監督の“現実をありのままに伝えよ”という言葉を格言としていますが、深刻になり過ぎず、喜劇的な要素をもちつつ描きたいと思いました」と語っている。
物語は3人の教師の視線で描かれ、それぞれのエピソードが同時進行していく。情熱と理想に溢れた新米教師ジョヴァンニ、規則に厳格で修道女長のような女校長ジュリアーナ、現実に絶望してしまった老教師フィオリート。この3人の教育に対する信念やスタンス、生徒との距離感は全く異なるものだが、彼らは自分のやり方に確信を持っている。ところが、生徒からもたらされたある問題をきっかけに、それらに疑問を感じはじめていく。
「社会が抱える問題の一部を、学校という場や教育で解決できないだろうか」と訴える監督は、今の世相を反映するような象徴的な問題を抱えた生徒を登場させている。経済的困窮や家庭環境の激変によって、勉強どころではなくなってしまった少年・少女たち。そして教師たちは、突きつけられた難題とどのように向き合っていくのだろうか。
これまでもリアリティ溢れる誠実な人物描写をしてきたピッチョーニ監督だけに、逆転ホームラン的な奇跡は起こらない。けれど、教師が生徒と交流を重ねていくなかで、探していた答えを見つけ出す場面は胸に迫るものがあるし、監督自身の希望が込められたラストシーンはじんわりと温かい余韻を残す。
一方でピッチョーニ監督は、教師側からみた教育環境についても問題提起している。薄給なうえフォローも皆無という状況では、教師の負担は計り知れない。授業で使う機材は壊れたまま修理もされず、教材として使う資料のコピー代は“教師が一部負担”というようなシステムでは、モチベーションを維持するのも限界がある。教師が置かれている状況については、現在公開中のイタリア映画『ブルーノのしあわせガイド』でも、元教師の「俺は同世代の優秀な頭脳が教職でボロボロになるのをこの目で見たんだ」セリフなどで語られている。
本作をイタリアの高校で上映したところ、教師たちは「教師はみな、ジョヴァンニ先生として入ってきて、フィオリート先生として出ていく。つまり、情熱を抱いて教育に携わるも、いつしか疲れ果ててしまい、フィオリート先生のようになってしまうのだ」とコメントしたという。劇中の新米教師ジョヴァンニと老教師フィオリートは、公立高校をめぐる状況について考えさせられる関係になっている。
それでも、この新米教師というのは希望を与えてくれる存在である。リッカルド・スカマルチョの強く情熱的な眼差しは印象的で、「こんな先生に教わりたかった」と思う女性は少なくないだろう。女校長を演じたマルゲリータ・ブイは、今やイタリア中の監督たちに愛されている女優だ。聖母的で気品あるキャラクターが支持され、ナンニ・モレッティ監督の『ローマ法王の休日』では法王のカウンセラー役で出演している。そして本作で唯一、劇画的な人物で、監督が「彼の皮肉や厭世主義というのはファウストのよう」とイメージする老教師を、圧倒的な存在感をもつベテラン俳優ロベルト・エルリツカが怪演している。
この個性豊かな主演3人のアンサンブルがなんとも素晴らしく、味わい深い作品に仕上がっている。
監督:ジュゼッペ・ピッチョーニ
出演:リッカルド・スカマルチョ(『明日のパスタはアルデンテ』)、マルゲリータ・ブイ(『ローマ法王の休日』)、ロベルト・エルリツカ(『夜よ、こんにちは』)
製作:2012年/イタリア/98分
原題:Il rosso e il blu
▼「イタリア映画祭2013」概要
会期:4月27日(土)~29日(月・祝)、5月3日(金・祝)~ 6日(月・休)
会場:有楽町朝日ホール(千代田区有楽町2-5-1 マリオン11階)
<イタリア映画祭2013大阪>
会期:5月11日(土)~12日(日)
会場:ABCホール(大阪市福島区福島1‐1‐30)