『クソすばらしいこの世界』キム・コッビさん&北村昭博さんインタビュー
舞台がアメリカのロサンゼルス郊外、ヒロインは韓国からやってきた留学生、彼女が不本意ながら行動を共にするのは、英語がほとんどできず、浮かれっぱなしの日本人留学生グループ。そんな彼らをつけ狙う殺人鬼はアメリカ人の兄弟で、日韓の留学生たちは異国の地でとんだ惨事に巻き込まれる・・・。血しぶき満点、残酷描写の連続という本格的なスラッシャー映画(※)である本作を手がけたのは、これが初監督作となった日本人の女性監督、さらにアメリカの制作プロダクションも参加している。そしてセリフはほぼ英語。これらのシチュエーションやキャスト、スタッフがもうカオスなのだが、同時に従来の日本映画の枠を跳び越えていることのワクワク感をもたらしてくれる。一人、また一人・・・と殺人鬼の犠牲になる恐怖におののきながらも、異なる人種や文化の衝突が熱を帯びた混沌感を形成し、奇妙な後味を堪能できる作品だ。
主役の真面目な韓国人留学生アジュンを演じたのは、『息もできない』で国際的に高い評価を受けた韓国人女優キム・コッビさん。彼女にとってこれがホラー作品での初主演作となる。また、ボンボンな日本人留学生・雅則役にはアメリカを拠点に活動し、『ムカデ人間』『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(『SR3』)で強烈な印象を残した北村昭博さんが挑戦。6月8日の公開を前に、お二人のインタビューをお届けする。コッビさんは華奢で可憐な印象(顔が本当に小さい!驚!)。北村さんは本サイトでのインタビューは『ムカデ人間』『SR3』に続いての3回目の登場となった。
(※)残酷非道な殺人鬼が登場し、若者達をターゲットにした殺人劇が繰り広げられる作品のジャンル
――キム・コッビさんは、2011年2月のゆうばり国際ファンタスティック映画祭に参加された際、山口幸彦プロデューサーから一目惚れされ(?)、本作出演の熱烈なラブコールがあったと伺っています。出演の決め手は何でしょうか?
キム・コッビ(以下コッビ):この映画は、単なるスラッシャー映画ということにとどまらず、日本、韓国、アメリカの異なる3つの文化が出会ったことで、様々な葛藤が生じる点にも興味を持ちました。また、日本やアメリカの俳優との共同作業ということが、とても面白いと感じました。それに英語での演技というのは、私にとって新たな挑戦になるので、やってみようと思ったのです。
――確かにほとんどが英語のセリフですが、語学の勉強はされていたのですか?
コッビ:英語はもともと好きで、ずっと勉強していたので、ある程度話すことはできました。なので、セリフの難しさは特にありませんでした。ただ、英語が話せても、英語で演技をすることは違います。それは頭では分かっていましたが、実際に英語で演技してみて、その難しさを実感しました。
――ちなみにコッビさんは、ホラー映画にはもともと興味があったのでしょうか?
コッビ:それほどでも・・・。このジャンルの特別のファンというわけではなかったんですが・・・(苦笑)。
――北村さんにとっての出演の決め手は何でしたか?
北村昭博(以下、北村):(きっぱりと)キム・コッビちゃんとの共演です!実は『ムカデ人間』の後に、この映画のオファーを頂いていました。ただ、ホラーの次にまたホラーに出るのは、ホラー専門俳優というイメージがつくのが怖くて、一度お断りしていたんです(注:『ムカデ人間』の次に出演したのが『SR3』。ホラーを避けた理由の詳細は、当サイトでの過去のインタビューで)。でも『ムカデ人間』をきっかけにいろいろなホラー映画を観るようになって、好きになって、やっぱり興味が湧いたんです。そこで断ってしまったけれど、まだできるかな?と思っていたとき、ヤン・イクチュン監督と園子温監督との飲み会に参加したことがきっかけで、ヤン監督の『息もできない』を見たんです。それでコッビちゃんの演技に圧倒されてしまって・・・。この人と共演できたら絶対に勉強になると思い、山口プロデューサーに再度連絡をとって、前にお断りしたことを謝りつつお願いをしたところ、出演を承諾いただきました。住んでいるロスでの撮影で精神的に楽ということもありましたし、そんな要素が幸運にも積み重なって出演することができました。
――コッビさんとの共演が決め手とのことですが、北村さんは以前のインタビューでも共演者の方々から良いところを貪欲に吸収したいと仰っていたのが印象的です。今回のコッビさんとの共演で学んだことは何でしょうか?
北村:コッビちゃんはプロフェッショナルな人。僕はよくナーバスになるんですが、彼女はカッコイイし、惚れ惚れする仕事ぶりで刺激になりました。優しいし、話しやすく、仲良くさせてもらって、共演できたことが誇らしいです。コッビちゃんと共演だなんて、(周囲から)嫉妬されますもん(笑)。一緒にお仕事できて良かった。明日にでもまた共演したいですね。
――それはジャンルを問わずということですか?
北村:それはもう、ぜひ恋愛もので!
――コッビさんは、北村さんにどんな印象を持たれましたか?
コッビ:北村さんは努力家で、真摯に勉強している姿勢が印象的でした。お話していても気があって、演技のうえで追求するスタイルが私と似ているんです。ただ、一緒に絡むシーンがそれほど多くなくて・・・。実は修正される前の脚本は、北村さん演じる雅則は(日本人留学生グループの一人の)エリカ(大畠奈菜子)の彼氏なんですが、私(が演じるアジュン)と浮気をして、二股になる・・・いう設定だったんです。でも修正後は二股の設定がなぜかなくなってしまっていて、北村さんがとても残念がっていました(笑)。
北村:本当に、めっちゃ残念でした。
コッビ:私も残念だったので、またぜひ共演できたらと思います。ラブコメとかがいいかも(笑)。北村さんとはこの映画を通して、いろいろなお話ができて、共感することも多くていいお友達になれて嬉しいです。
――役づくりのこだわりがあればお聞かせ下さい。また、朝倉加葉子監督はディスカッションをしながら皆で役をつくり上げていくタイプだったのでしょうか?それとも俳優の方々は監督の指示に沿って演技をする進め方だったのでしょうか?
コッビ:撮影前にまず脚本を読み、スカイプで朝倉監督とディスカッションを重ねていきました。話し合いながら役づくりを進めていきました。
北村:朝倉監督がアメリカに来られたのが撮影2週間前でした。初めてお会いしたとき「コッビちゃんを目で犯していいですか?」って訊いたんです(笑)。恋人がいながら、彼女をそこまで深く愛しているわけではないという軽薄な設定にしたのが、僕的に重要。コッビちゃんに対してニヤニヤしながらエッチなことを妄想するという、イヤらしさを出したいと相談したら、快諾してもらえました。その時点で役の方向性が監督と合致したので、あとはスムーズでした。そのイヤらしさが出ていれば成功ですね。誰が生き残るのかは最後まで観てのお楽しみですが、お客さんが観ている途中で「北村、死ね!」ってむかついてくれれば本望です(笑)。
――演技のうえで、印象に残った出来事やシーンはありますか?
コッビ:自分の身を守るために、斧を振り回すシーンです。あの斧は本物で、力いっぱい振り下ろしているけれど、撮影の都合上、スレスレのところで斧を止めなくてはならないこともあって、力の加減が難しかったですね。しかも同時に(演じる)アジュンの感情を出さなくてはいけないので、大変でした。
北村:ホラーは本物の怖さを見せなくてはいけないと思っているので、僕が怖がっていたら、本当に怖がっていたと思ってもらっていいです。演技ではなくて、心の奥底から沸き上がる恐怖を表現しました。
――コッビさんは今後どんな女優になっていきたいですか?憧れの女優はいますか?
コッビ:国にこだわるのではなく、いろいろな国で、いろいろな人と映画に関わり続けていきたいと思います。そういう意味で、(同じ韓国出身の)ペ・ドゥナさんに憧れますね。彼女は『空気人形』など日本映画にも主演されているし、ハリウッドでは『クラウド アトラス』にも出演されて、国境を越えて活躍されています。本当に素敵だと思います。
――北村さんは貪欲にステップアップを目指されると思いますが、どんな目標がありますか?
北村:これから自分がどういう役者になるか、まだ未来が見えないのは不安でもあり、面白くも感じています。でもひとつ、確実に言えるのは、インディペンデント、メジャー、テレビ、映画とジャンルにこだわらず、素晴らしい才能のある人と一緒に仕事をしていくことが重要だということです。そういう人たちと出会って、自分自身がどう変化するのかも楽しみです。
――観客へのメッセージをお願いします。
コッビ:日本ではこれまで本格的なスラッシャー映画はなかったと聞いています。日本の新しいスラッシャー映画が誕生したと思うので、ぜひ楽しんでください!
北村:朝倉監督は今後のホラー映画界を背負う人だと確信しました。世界に飛び出していく才能だと思います。初監督作でこれはすごいレベルです。本格的なスラッシャー映画を楽しみながら、ぜひ監督の素晴らしい才能を見てほしいと思います!
〈後記〉
本作では常に不穏な空気が支配しているのに、取材中のコッビさんと北村さんは、それとは対照的に、終始明るい雰囲気。撮影現場の様子について「和気あいあいとして、すごく楽しかった」と笑顔で振り返ってくれた。また、お二人ともナショナリティに関係なく、常にステップアップしていきたいという向上心が強く、それが実現できる作品を探したいという意欲が伝わる。本作への出演もその意欲の表れだ。その姿勢が同じアジア人として、とても頼もしく、嬉しく感じられた。ペ・ドゥナとケン・ワタナベを超える日もそう遠くないのかも。それにしても、北村さんが参加した園子温監督とヤン・イクチュン監督の飲み会って・・・。何だか凄そう・・・。
〈プロフィール〉
キム・コッビ
1985年韓国ソウル生まれ。小学生の頃から舞台に立ち、子役として多数の映画でキャリアを育む。97年、フランスのImage Aigue Theaterに加わり、演劇活動を行った。『嫉妬は私の力』(03)でスクリーンデビュー。日本でもヒットした『息もできない』(08)の高校生ヨニ役で大鐘賞新人女優賞、青龍映画賞新人女優賞をはじめ数々の女優賞を獲得。他の出演作に『マジック&ロス』(10)、『恥ずかしくて』(11)、『蒼白者 A Pale Woman』(13、6月8日公開予定)など。本作が初のホラー主演映画となる。
北村昭博(きたむらあきひろ)
1979年高知県生まれ。高校卒業後に渡米し、ビバリーヒルズ・プレイハウスで演劇と監督術を5年間修行。LACC映画学科在学中に処女作『PORNO』の脚本・監督・主演で映画監督デビュー。脚本・監督代表作『LAマザーファッカーズ』(06)では、LA Indies Award最優秀新人賞を最年少で受賞。俳優としての代表作には『ムカデ人間』(10)、「HEROES ファイナルシーズン」(09)のタダシ役などに出演するなど、ハリウッドで活躍する数少ない日本人俳優の一人。『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)、「女信長」(13、フジテレビ)では滝川一益役で出演するなど、日本にも活動の場を広げている。
▼作品情報▼
監督・脚本:朝倉加葉子
出演:キム・コッビ、北村昭博、大畠奈菜子、しじみ、甘木ちか、阿部友保
製作:キングレコード 制作:ブースタープロジェクト
協力:ゆうばり国際ファンタスティック映画祭
2013年/日本映画/78分/カラー
公式サイト:http://kusosuba.com/
©2013 KINGRECORDS
6月8日(土)より、ポレポレ東中野にて3週間限定レイトショー!
第七藝術劇場、名古屋シネマテーク他順次公開!
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