タランティーノも大絶賛!超話題のホラー映画『ムカデ人間』北村昭博さんインタビュー

日本代表として、“ムカデ人間”の魂の叫びを炸裂させました

欧米でセンセーションを巻き起こした超話題のホラー映画『ムカデ人間』が、7月2日(土)から公開される。ドイツ郊外を舞台に、人間の口と肛門を結合させた“ムカデ人間”の創造という、とてつもない夢を実現させようとする外科医ハイター博士(ディーター・ラーザー)と、彼の実験の犠牲になる3人の男女の恐怖と抵抗を描いた作品だ。米国では想像を絶する内容とアイディアが話題を呼び、人気アニメ「サウスパーク」で取り上げられたり、“ムカデグッズ”なるものが販売されるなど、ホラー映画というより一種のポップカルチャーとして認知されるほどのブームに。公開日には何と、クエンティン・タランティーノ監督が来場し、大絶賛したという。

そんな本作で特に注目を集めたのが、何の因果かムカデ人間の先頭にされてしまう日本人ヤクザ・カツローに扮した北村昭博さん。高校卒業後に演技と監督業の修行のため渡米し、今や「HEROES ファイナルシーズン」に出演するなど、ハリウッドを拠点に活躍中だ。そんな北村さんが本作のPRのために“来日”。役作りや作品への思い、世界を相手に「日本代表」としての誇りを熱く語ってくれた。


「こんにちは、北村昭博です。映画を観ていただいてありがとうございます!今日はよろしくお願いします!」
インタビュー前の北村さん、満面の笑みで超フレンドリー。映画では鬼気迫る表情で、ハイター博士に「てめぇ離せ-!」「おりゃー!」「★△&%▼*☆■◎※◆!」(←日本語だが聞き取り不能)などと喚き散らしていた“ムカデ人間A”カツローとはえらいギャップだ。実は、カツローのようなノリで「はぁ?そんなチンケな質問に答えられねぇよ」とか恫喝(?)されたらどうしよう・・・とビクビクしていたのだが、あまりのギャップにかえって戸惑い。
「僕、映画ではガラの悪い関西出身のヤクザの役でしたけれど、本当はスイーツ系が大好きだったりするんですよ。役と実物のギャップがあり過ぎるってよく言われています!」
・・・と力強い告白を受け、ひと安心。まずは役作りについて伺ってみた。

●カツローのキャラクターを綿密に構築
「トム・シックス監督が手がけた脚本には、カツローのバックグラウンドについて書かれていませんでした。カツローがどういう人生を送ってきたのかということは、物語の進行上はあまり必要ないのかもしれません。でも、僕は米国でメソッド演技(外見から変え、自分のキャラクターについての様々なディテールを考えていくことで役作りのアプローチをする方法)を勉強したんです。それに則って、カツローのキャラクターを自分なりに考えてみました。僕はキャラクターのディテール作りは重要だと思っています。それと、海外で演じられている日本人像を壊したかったという思いもあるんです。何というか・・・、日本人の役ってチョイ役とかサムライ役が多くて・・・。だからもっと強烈な新しい日本人像を紹介したら面白いんじゃないかと思いました」
本作のために、新たな日本人像を求めた北村さん。リサーチしているうちに、ボクシング亀田3兄弟の父・史郎氏とやくみつる氏のワイドショーで繰り広げた口論がYouTubeにアップされていたのを発見。
「史郎さんの汚い関西弁のインパクトがあまりにも凄くて・・・(笑)。『殺すぞ!』とか『おりゃあ~!』とか言っているような人が、ヨーロッパの映画に出ていたら面白いんじゃないかな、と考えました(注:『ムカデ人間』はオランダ・イギリスの合作映画)。そこからインスパイアを得て、カツローは関西出身のヤクザということにしたんです。それに、関西弁のほうが標準語よりもインパクトあるし、独特の味があるし、外国映画で関西弁を喋りまくる日本人ってあまりいなかったと思うし。そしてさらに、カツローの生い立ちや家族などを自分で細かく考えたんです」

●監督に積極的に提案
最初の脚本で、カツローのセリフらしいセリフはほとんどなく、ただ恐怖で泣き叫んでいる設定だったことに、北村さんは疑問を持った。
「普通のホラーって、犠牲者役の人は恐怖の演技がほとんどですよね。でも僕はそれだけでは面白くないし、リアル感がないと感じました。その立場に立たされたら、恐怖だけではなく怒りや哀しみや絶望などの感情がわき上がると思うんです。そういうエモーションが、僕的にとても重要。だから『怖いよー!』と泣き叫ぶより、博士に反抗する役のほうが映画に合っていると思いました。正直なところ、ここは自分の力の見せ所でした。なので、脚本にいろいろなアイディアを書き込んで、監督に相談したんです。監督も『いいね!』と賛成してくれました。そして博士役のディーター・ラーザーさんも様々なアイディアを出す人でした。監督は僕ら俳優のアイディアを大切にして、信頼してくれる人です。だから彼との仕事は本当にやりやすかったし、楽しかったです」

迫真の演技を見せる北村さん

ちなみに北村さんのセリフは全て日本語。
「監督は日本語は分からないんですけど、日本映画が好きなんですよ。そのせいか、僕が何か日本語を言うと嬉しそうでしたね。監督にとって僕がどういう言葉をわめこうと、こだわりはなかったみたいです」
北村さんはそれだけシックス監督の信頼を得ていたということでもある。北村さんが博士を罵っていたセリフの意味は、撮影中は誰にも理解されていなかった。編集作業で英語字幕をつける段階で、監督はじめスタッフも「アキヒロ、こんなすごいこと言っていたのか・・・」と感心しきりだったという。ただし、クライマックスの博士との対決シーンでの北村さんのモノローグに関しては、ストーリーに直結することなので、こういう意味のセリフを日本語で言いたいと監督の許可をもらった。
「そもそも対決シーンでは、僕のセリフはない予定だったんです。それでは話の流れとして納得できなくて、ワンクッションを入れる意味でも、モノローグを入れたいと思いました。その提案をしたら、監督も『ものすごくいいよ!』って喜んでくれたんです。モノローグでは、キャラクターを構築するうえでバックグラウンドがあったから、それをここで吐き出そうと考えました。この場面で自分なりにキャラクターを積み重ねてきたものが役に立ちました。それに撮影は時系列で行われたので、エモーションの部分でも役に入り込みやすくて良かったです」
このクライマックスでのモノローグ、筆者は不覚にも(?)ジーンと心に染み入り、ある種の崇高さすら覚えた。そのシーンは、北村さんの緻密な役作りの集大成と言っても過言ではない。ぜひ皆さんも劇場で見届けてほしい。

●映画について
さて、この『ムカデ人間』は内容が内容だけに、拒否反応を起こす人がいるであろうことは否定できないし、ただのゲテモノ映画という烙印を押される可能性もある。北村さんはその辺りをどう感じているのだろうか。
「この映画は観る人によって、様々な見方があっていいと思っています。海外でも最初から最後まで怖がっていた人、ずっと爆笑していた人など、いろいろな反応がありました」
その辺りは観る人の自由に任せると?
「そうです。それにこの映画、思ったよりグロくないでしょ。本当はもっといくらでもグロくすることも出来たと思います。でも監督は、直接的にグロさを見せつけるのではなくて、観る人の想像力を掻き立てようとしました。それとやはり美しい映画を撮りたいという思いもあったようです」
確かに若い米国人女性2人とカツローが“結合”される手術シーンは直接出てこない。でも、きっとこうなっちゃってるだろうな~と思わせるのには十分な演出。それに、博士の邸宅は庭の手入れが行き届き、室内のインテリアも不気味なりに洗練された印象を持った。シックス監督の見せることへのこだわりを感じさせる。
「この映画、実は極秘で進められていたんです。スタッフもストーリーはおろか、『ムカデ人間』という映画のタイトルすら知らなかったくらいだったので・・・。だから僕たち3人が“ムカデ人間”になったシーンを撮影した時、あまりにもすごい光景で泣いていたスタッフもいて・・・。しかも監督のほうを観たら、監督も『ビューティフル・・・』って感動していましたね。それを観た時に、すごい映画を撮っているんだなー!って僕も感動しました。そして映画に対する手応えを感じましたね。この映画は絶対に成功するって!」

“ムカデ人間”の先頭を演じたのが北村さん

●ムカデ人間の“顔”として
3人の人間が結合されて、一体のムカデ人間になる。その先頭を任された北村さん、幸いにも顔は自由がきき、ドアップの画も多い。さぞかしおいしい役どころだったのでは?
「ムカデ人間を代表していましたよね(笑)。だからこそ様々な感情を表現したいという思いはありました」
その一方で、“ムカデ人間B”と“C”にさせられた米国人女性2人は、美しい顔が傷つけられ、言葉を発することもできずに、たださめざめと泣くばかり。
「僕のオシリにくっつけられた2人の分の怒りや哀しみも、僕がまとめて表現したいと思いました。それにこのまま博士に従順になっちゃったら面白くないでしょ。博士役のディーターさんはドイツでも有名な素晴らしい俳優で、存在感は抜群でした。そんな彼を尊敬しつつ、負けないように頑張りました。もともと僕は負けず嫌いなので、コイツだけ目立ったらコイツの映画になってしまうからそれは断固阻止したい!日本人をバカにするな!ってね。だから1ヶ月の撮影期間中はディーターさんとは緊張感を保って距離を置きました。けれど、全ての撮影が終わったとき、ディーターさんが『グッジョブ』と言ってくれて、本当に嬉しかったです。僕がカツローを演じ切れたのは、彼のおかげでもあるんです」

●観客へのメッセージ
「僕は日本代表のつもりで、この映画の撮影に臨みました。カツローの魂の叫びを炸裂させています。絶対に日本の人が観ても楽しんでもらえる映画に仕上がっていると思います。だから今までホラーが苦手な人にもぜひ観てもらいたいです!それと、トム・シックス監督の独特の世界観や、博士役のディーター・ラーザーさんの狂気も感じ取ってほしいですね」
インタビューの最後にメッセージをお願いすると、さらに言葉に力を込めて、こう語ってくれた北村さん。映画のコンセプトから敬遠してしまう人もいるかもしれない。正直なところ、筆者もホラーは苦手分野で、恐る恐る映画を観たクチだ。でも、単なるゲテモノ映画では終わらず、人間の怒り、哀しみ、絶望などの心の揺れも細やかに描かれている点に、とても感心した。
そして、常に「日本代表」としての意識を高く持ち続け、世界に目を向ける北村さんの挑戦はこれからも続く。今後のさらなる活躍に期待したいが、まずは『ムカデ人間』を観て、彼の強烈な存在を心に刻んでいただきたいと思う。

取材・文:富田優子


北村昭博(きたむらあきひろ)〈プロフィール〉
1979年高知県高知市生まれ。高校卒業後に渡米し、ビバリーヒルズ・プレイハウスで演劇と監督術を5年間武者修行。LACC映画学科在学中に処女作 「PORNO」の脚本・監督・主演をまかされて映画監督デビューを果たした。新進気鋭の次世代型映画監督であり、ハリウッドで活躍する数少ない日本人俳優の一人でもある。脚本・監督代表作は「PORNO」「I’ll Be There With You」。俳優としての代表作は本作の他、「HEROES ファイナルシーズン」(タダシ役)。アメリカで劇場公開され、DVD配給されている監督作の「I’ll Be There With You」では、LA Indies Award最優秀新人賞を史上最年少で受賞し、LA最大のエンターテイメント紙「LA Weekly」の映画評でPICK OF THE WEEK(今週のオススメ)を獲得するなど、今後の活躍が期待される。


▼『ムカデ人間』作品情報▼
監督・脚本:トム・シックス
製作:イローナ・シックス、トム・シックス
撮影:グーフ・デ・コニング
音楽:パトリック・サヴェージ、 オレグ・スピーズ
編集:ナイジェル・デ・ホンド
出演:ディーター・ラーザー、北村昭博、アシュリー・C・ウィリアムス、アシュリン・イェニー
配給:トランスフォーマー
©2009 SIX ENTERTAINMENT
2009年 / オランダ・イギリス合作 / 英語 / 90分 / カラー / HD / ステレオ / R-15
公式HP:http://mukade-ningen.com/
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7月2日、シネクイントにてレイトロードショー!(全国順次)

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