台湾原住民の抗日暴動“霧社事件”を描く『セデック・バレ』:美術監督・種田陽平氏、リアルにこだわった制作秘話を語る

魏徳聖監督(右)と種田陽平さん

 1930年日本統治時代の台湾で起こった原住民による抗日暴動“霧社事件”を描く歴史大作『セデック・バレ』が4月20日(土)、公開初日を迎えた。
 渋谷ユーロスペースにはこの日、魏徳聖(ウェイ・ダーション)監督と、『フラガール』や『キル・ビル』などで世界的にも活躍する美術監督・種田陽平さんが舞台挨拶に登壇。立ち見が出るほど盛況の客席に向かって、魏監督は「この日が迎えられて本当にうれしい。4時間半のフルバージョンが上映できたのは台湾と日本のみ。この作品を通して、日本と台湾がともに経験した歴史を改めて発見してほしい」と感慨深げに挨拶すると、種田さんも「この仕事をしていたのは2008~2009年頃のこと。台湾で大ヒットして、日本でもいつ公開されるのか待っていたのですが、途中から公開されないんじゃないかと不安になってきていたので、よかったです」と喜びを滲ませた。

 構想開始から10年以上。この作品にそれほどまでに情熱を注いだ理由について、「悲しい出来事だけど、色んな角度から考えることができる非常にいいテーマ。歴史において、善か悪かは単純にはかれるものではない。いったいどういう経緯で事件に発展したのか、映画を通してきちっと語ることができれば、恨みや憎しみは解消されるのではと思いました」と改めて語った魏監督。そんなエネルギッシュな監督について種田さんは、「柔和な感じの方ですが、いったん山奥に入ると別人のようになる」と証言。「足腰も強くて、山登りも得意で、誰よりも器用に岩の上をジャンプして川を越えることがでる。多分役者さんよりも上手い(笑)。頭で考えるよりも現場主義で、責任感も素晴らしい。それに、すごい有名なんですよ。どんな台湾の田舎に行っても、おばさんやおじさん達がみんな集まってくる。こんな有名人なのかとびっくり(笑)」と明かした。

 原住民の集落や日本人が作った霧社の町並みはオープンセットで作られた。「日本の観客が見たときに“日本の建築がおかしい”と思わないようにちゃんと作りたかった。監督がこだわりの人で、『原住民の住宅も本物の様式で作りたい』と。実際に原住民の人たちに手伝ってもらいました」という種田さん。逆に種田さん自身のこだわりについて聞かれると、「山の中や高地での撮影がすごく多かったのですが、最初監督が『ここに町を作りたい』と連れて行ってくれた場所はほんとうに山奥で、標高2000メートルぐらいの村もあった。僕の最初のこだわりは、『これは大変だからもうちょっと台北の近くで探してもらえないか』ということでした(笑)」と思わず苦笑い。「というのは、アクションは本当の山中で撮影しても、メインとなる舞台はできるだけ落ち着いて撮影できる環境が必要だと思ったので、台北から近い場所で探し直しました」と振り返った。

 台湾での大ヒット、昨年の大阪アジアン映画祭での上映(観客賞受賞)を経て、大きな関心を集めながらも、日本公開までに月日を要した本作。
「非常にヘビーな映画です。特に第一部を見たあとは気分が落ち込むかもしれませんが、第二部を見れば楽になっていくはず。痛みを経験してこそ憎しみや恨みを解かすことができる。必ず第二部も見てください!」(魏監督)、「歴史を扱った物語ですが、アクション・エンターテインメント映画だと思って楽しんでもらえればと思います」(種田さん)と観客にメッセージを送り、2人は会場を後にした。

『セデック・バレ』は、日本の統治下で抑圧された台湾中部の狩猟民族セデック族が、民族の誇りをかけて武力決起し、鎮圧に出た日本軍と壮絶な戦いを繰り広げる実話に基づく物語。第一部「太陽旗」、第二部「虹の橋」の二部構成で、安藤政信、木村祐一ら日本人キャストも多く出演している。

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『セデック・バレ 第一部:太陽旗 第二部:虹の橋』
原題:賽徳克・巴莱
監督・脚本・編集:魏徳聖
製作:ジョン・ウー(呉宇森)、テレンス・チャン(張家振)、黄志明(ホァン・ジーミン)
出演:林慶台(リン・チンタイ)、大慶(ダーチン)、安藤政信、馬志翔(マー・ジーシアン)、ビビアン・スー(徐若瑄)、木村祐一ほか
プロダクションデザイン:種田陽平
配給:太秦
2011年/台湾映画/第一部「太陽旗」144分、第二部「虹の橋」132分、計276分

4月20日(土)より渋谷ユーロスペース、吉祥寺バウシアター他にて全国順次公開
公式HP http://www.u-picc.com/seediqbale/