【TNLF_2013】「ニコラス・ウィンディング・レフン監督特集」現実と向き合えない男たちの狂気
今年で3回目を迎えるトーキョー ノーザンライツ フェスティバル。毎回、北欧出身の監督をピックアップして特集上映を行っているが、初年はラース・フォン・トリアーのレアな過去作を紹介するなど、映画ファンのツボをおさえた企画が好評を博している。
今年は、昨年公開されたライアン・ゴズリング主演の『ドライヴ』でブレイクした、ニコラス・ウィンディング・レフンを特集している。カンヌ国際映画祭で監督賞(『ドライヴ』)を受賞したことで、国際的な知名度も急上昇中のレフン監督だが、欧米ではそれ以前の作品もカルト的な人気を集めている。日本でも過去作の上映を待ち望んでいたファンは少なくないだろう。今回は「ブリーダー」(1999)と「Fear X」(2003)の2本が上映されるが、ともに劇場未公開、国内DVD未発売の作品。今回の上映はかなり貴重な機会となる。
両作で共通して描かれているのは、現実と向き合えない男たち。「ブリーダー」は、他人と映画の話しかできない男と、父親になることへの拒絶感から精神不安定になってしまう男の話だし、「Fear X」も、妻の死から立ち直れず、現実と妄想の世界をさまよう男の話である。
まずは「ブリーダー」であるが、昨年のカンヌで主演男優賞(『偽りなき者』)を受賞した、旬の男、マッツ・ミケルセンが出演している。彼が演じるのは、レンタルビデオ店で働く映画オタクのレニー。客の反応もお構いなしに、古今東西の監督名を一気にまくし立てたりするのだが、そういうシーンに彼のキャラクターがあらわれていて面白い。しかも、その客が観たかったのはポルノだった、なんていうオチも(笑)。そんなレニーにも4人の映画鑑賞仲間がいて、レオ(キム・ボドゥニア)もその一人。レオは父親になるという事実を受け止められずにいる。まだ自由でいたいという気持ちと父親になることへの不安から、次第に気持ちのコントロールができなくなっていくが、彼のストレスが頂点に達したとき、物語は不穏な空気に支配されていく。
一方「Fear X」は、妻の死が受け入れられない男の孤独と狂気を描いたサスペンス。警備員である彼(ジョン・タトゥーロ)は、独自の手法で妻を殺害した犯人を探している。仕事が終わった後も、同僚の誘いを断り、殺害現場に設置された監視カメラの録画をチェックする日々。ある日ついに手がかりを掴んだ彼は、妻の殺害について知る人物に接触することになるのだが・・・。接触するホテルはそのままクライマックスの舞台となり、そこで起きるエレベーターでの出来事は、『ドライヴ』で最も強い印象を残した“あのシーン”を想起させる。エレベーターは抑圧していた性(さが)が炸裂する空間となるのだ。
バイオレンス描写の洗練を極めた『ドライヴ』と比べてしまうと、両作ともシークエンス間の関連性は弱いと感じるし、表現手法もグロテスクだ。劇中では“たぎる血”を連想させる赤を多用していて、なんだかおどろおどろしい。とはいえ、どちらも『ドライヴ』の原点と言える作品だと思うし、その狂気の断片を見ることができる。レフン監督が描く狂気とは、それまで抑えていた感情の爆発であり、その瞬間にだけみせる人格の豹変である。そして、それはエモーショナルで、感傷的な瞬間でもあるのだ。
「Fear X」や『ドライヴ』の主人公がみせるストイックさとか、ある種の“強がり(やせ我慢?)”に、男の色気を感じてしまう筆者。刹那的な狂気と独特の美学、レフン監督の今後の作品にも期待したい。
※次回は2月15日(金)に「Fear X」14:00〜、「ブリーダー」16:30〜 渋谷ユーロスペースにて再上映
▼ 「ブリーダー」 Bleeder
製作:デンマーク/1999年/98分/デンマーク語
出演:キム・ボドゥニア、マッツ・ミケルセンほか
▼ 「Fear X」
製作:デンマーク・カナダ・イギリス・ブラジル/2003年/91分/英語
出演:ジョン・タトゥーロほか
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▼「トーキョーノーザンライツフェスティバル2013」概要
期間:2013年2月9日(土)〜2月15日(金)
場所:渋谷ユーロスペース
JAPAN PREMERE5本を含む14作品上映!今年も内容盛りだくさん、魅力いっぱいの「トーキョーノーザンライツフェスティバル2013」スケジュールの詳細、イベント、最新ニュースについては、下記公式サイトでぜひご確認ください。
公式サイト:トーキョーノーザンライツフェスティバル 2013