【TIFF】『ふたたび swing me again』塩屋俊監督インタビュー

(第23回東京国際映画祭・特別招待作品部門)

塩屋俊監督

将来を嘱望されたジャズトランペッターでありながら、ハンセン病を患い、愛する人もジャズも失った健三郎(財津一郎)。それから50年後、初めて出会う孫の大学生・大翔(鈴木亮平)との旅を通して、健三郎がふたたび手にしたものとは-? 往年のジャズの名曲に乗せて、2人の心の交流を温かく見つめた感動作『ふたたび swing me again』。第23回東京国際映画祭(以下TIFF)特別招待作品部門への出品も決定した本作の塩屋俊監督に、作品への思いを熱く語っていただきました。

――この作品は、ハンセン病という重いテーマと、祖父と孫の旅やジャズというソフトな題材、いわゆる硬軟が上手くブレンドされた映画だと感じました。この作品を手がけられた動機を教えて下さい。

塩屋俊監督(以下塩屋):ハンセン病に対する国の施策が間違っていたことは周知の事実なのに、未だに元患者に対する差別が残っているのが現状です。ハンセン病を題材にした、この映画の草案を頂いたのですが、読むと非常に重い内容で、ジャンルとしては教育的なドキュメンタリーになるのでは?と思いました。ただ僕は、映画はエンターテインメントであり、エンターテインメントは人の心を揺さぶり、共感し、なおかつ感動させるものだと考えています。この重い題材をどうしたらエンターテインメント的な作品に仕上げることができるかと考えているうちに、ジャズというとっかかりを得ました。ジャズは、アメリカの地で奴隷として虐げられ、偏見と差別に晒された黒人たちの心の痛みから生まれた音楽です。そのような歴史を持つジャズと、同じく差別と偏見に満ちたハンセン病は同列のものではないか?と思い、この2つを融合させてみたいと企画を練りました。

――映画の舞台は神戸ですが、監督は神戸に対して何か思い入れなどがおありなのでしょうか?

塩屋:ジャズのことを調べていくうちに、日本のジャズ発祥の地、神戸に行き当たりました。神戸のジャズクラブ「SONE」から渡辺貞夫さん、秋吉敏子さんなど、日本ジャズ界を牽引した方々が世界へ巣立っていった事実を知りました。それでは「SONE」を舞台にした映画にしよう、「SONE」でのデビュー直前の、若きトランペッターがハンセン病を発症し、阪神大震災後の神戸に戻ったらどうか・・・というわけです。では、なぜ震災かというと、僕は2006年に兵庫県で開催された、のじぎく国体の開会式を観客として観ていました。そこで神戸市民の皆さんが歌った「翼をください」を聞いていたら、号泣してしまったんですよ。震災から立ち上がろうとした皆さんの想いが歌に込められていたと感じたからです。その頃にはこの映画の企画を考案していたので、では、神戸の再生と主人公の健三郎の再生を1つのストーリーに織り込もうと考えました。映画をご覧になれば分かるように、エンディングでの神戸の街並みは、僕の神戸に対するリスペクトを捧げたつもりです。

――ハンセン病の元患者さんにも映画を観ていただいたとのことですが、元患者さん達の反応はいかがでしたか?

塩屋:8月の半ばにロケを行った香川県で、元患者の皆さんに本作を観ていただきました。そうしたら号泣される方がたくさんいらっしゃって・・・。代表者の方に「いつの間にかストーリーに引きこまれて、とても感動しました。多くの人にこの映画を観てもらって、ハンセン病への意識が高まることを願っています」とおっしゃっていただきました。ハンセン病以外でも、エイズやエボラ出血熱などもそうですが、新たなウィルスによる新たな病気が発生し、いつまた同じような差別が繰り返されるか分からない。この映画には、そういう安易な差別への警告も込めています。

――主役の財津一郎さんと鈴木亮平さんの年齢差は50歳ほどだとお聞きしています。また財津さんの他に、ベテランの俳優さんが多く出演されていて、鈴木さんは先輩方に囲まれての演技となりましたが、監督から鈴木さんへ、何らかのアドバイスをされたことはありましたか?

塩屋:一言もしませんでした。鈴木さんは僕の演技学校の生徒でもあるのですが、彼はきっと日本の映画界で重要なポジションにくる俳優になるだろうと思っていました。クレバーだし肉体は強靭だけど、心はとても繊細で素直な青年です。それに財津さんとのコンビネーションは絶妙でした。財津さんとの最初の絡みのシーンを撮ったとき、財津さんが僕に「彼、いいねぇ。監督、いい子選んだねぇ」とおっしゃってくれました。それで、このままいける!と確信しました。

――MINJIさん演じるハヨン(健三郎の看護師)の祖母もハンセン病だったと、ハヨンが語るシーンがあります。ここで韓国のハンセン病患者について触れらたことはどういう意味があるのでしょうか?

塩屋:日本もハンセン病患者に対する偏見や差別はひどいものがありましたが、近隣の韓国や中国でも患者を取り巻く状況はとても悲惨なものでした。ハンセン病は旧約聖書や古事記や日本書紀にも記述があるくらい、世界中で昔からあった病気なんです。それがいつの間にか、差別化してしまい、患者本人だけではなく周囲の人にも犠牲を強いることになってしまった。そういう状況は日本だけではないことを伝えたかったので、このシーンを入れました。

――財津さんを囲んで、世界的なサックス奏者である渡辺貞夫さん、犬塚弘さん、佐川満男さん、藤村俊二さんが奏でる、クライマックスでのジャズのライブシーンは圧巻でした。撮影の様子などをお聞かせ下さい。

塩屋:財津さん、渡辺さん、犬塚さん、佐川さん、藤村さんが同じステージに立っているなんて、なかなか見られるものではないですよ。彼らが一堂に会した姿は壮観でしたし、その場に立ち会えて、僕もラッキーでした。「SONE」でのライブシーンは3日間かけて撮影したのですが、初日に犬塚さんが1人黙々とウッドベースの練習をされていたんです(注:犬塚さんはクレイジーキャッツでウッドベースを担当)。その様子を見ていた渡辺さんが、すーっとステージに来て、犬塚さんが弾きやすいようにピアノでコードを合わせられていて、いつの間にかセッションされていました。監督の仕事なんかせずに、この様子をずっと見ていたいと思ってしまいましたよ(笑)。エキストラで出演して下さった方々も喜んで下さいました。

――渡辺さんの出演のきっかけは?

塩屋:当初は音楽アドバイザーをお願いするつもりでした。ランチをとりながら、ご相談していたのですが、音楽の話をしているうちに、だんだん盛り上がってしまって、「貞夫さん、映画に出て下さい!」とお願いしたら、即決して下さいました。渡辺さんの演技もとても上手だったし、サックスの演奏シーンは彼にお任せしていましたので、僕の演出は不要でした。

――ところで、この映画がTIFFの特別招待作品として出品されますが、グリーンカーペットでの意気込みなどがあればお聞かせ下さい。

塩屋:今回、TIFFに呼んでいただけることは大変光栄なことだと思っています。長年、日本の映画界を引っ張ってきた財津さん、犬塚さん、佐川さん達と一緒にグリーンカーペットを歩けるなんて素晴らしいことですし、こんな機会は滅多にないことだと思っています。それにTIFFでも、これほどベテラン俳優の方々が一堂に会した映画はなかったのでは? 誇りを持って歩きたいと思います。

――次回作は何か構想をお持ちなのでしょうか?

塩屋:次回作はもうすぐクランクインします。第1次産業を活性化させるテーマで、コメディで撮ります。3話形式で、第1話が農業、第2話が林業、第3話が水産業、と題材を分けて、それぞれ主役も異なります。でも、1話の主役が2話でも登場するというような、登場人物が交差するような構図になっています。なぜこのようなテーマの作品を選んだのかというと、日本の自給率は40%と、先進国で最も低いことを僕は危惧しています。日本には農作物を育てる土地も人も、いなくなってしまいました。では、なぜいなくなったのかと言うと、日本は戦後、農業を疎んじてきた。そのしわ寄せが今、自給率の低下というかたちで起こっているのです。農業をファッションとして捉えるのではなく、本当の意味での農業の大切さや素晴らしさを、映画を通して喚起したいと考えています。第1話は僕の故郷の大分で撮影します。他の地域からもロケ招聘のお話をいただいています。楽しみにしていて下さい(笑)。

――ありがとうございました。

塩屋俊(しおや・とし):
《プロフィール》慶應義塾大学在学中に「NEIGHBORHOOD PLAYHOUSE」の演技理論に基づいたレッスンを受けたのち、テレビや映画等への出演を重ね、特に海外作品出演で欧米の製作現場から多大な影響を受ける。1994年にアクターズクリニックを設立。監督として手がけた作品に『6週間 プライヴェートモーメント』(99)、『ビートキッズ』(04)、『0(ゼロ)からの風』(07)、『きみに届く声』(08)がある。

Text by:富田優子
Photo by:鈴木こより

映画レビュー: 【TIFF_2010】「ふたたび swing me again」音楽映画の枠に収まらない名作
第23回東京国際映画祭公式サイト:http://www.tiff-jp.net/
公式サイト:http://futatabi.gaga.ne.jp/
2010年11月13日(土)より有楽町スバル座他、全国ロードショー!

©2010「ふたたび」製作委員会

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