【TIFF】『眠れる美女』俳優ピエール・ジョルジョ・ベロッキオさんインタビュー

父マルコ・ベロッキオ監督は“サムライのような人”

2013年10月19日より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開決定!

 2011年にヴェネツィア国際映画祭から名誉金獅子賞を授与され、70歳を超えた今も精力的に新作を世に送り出しているイタリアの名匠マルコ・ベロッキオ。そんな偉大な監督を父親にもち、本作にも出演している俳優のピエール・ジョルジョ・ベロッキオがTIFFでの上映にあわせて来日した。尊厳死をテーマにした本作で、自殺願望の強い女性を“アメとムチ”で立ち直らせようとする、厳しくも誠実な医師を好演している。センスを感じさせる言葉選びで、本作のテーマに関する自身の考えや、父親や共演者のこと、またプライベート(大好きなサッカーなど)について語ってくれた。


■来日の印象について
初来日となる今回は、表参道、東京タワー、明治神宮、築地、新宿のゴールデン街などの東京巡りを満喫しているということで、まずは日本の印象について伺った。
ピエール・ジョルジョ:以下、P.G)「この仕事でずいぶん世界を廻りましたが、稲妻に打たれたような衝撃を受けています。父(ベロッキオ監督)が2年前に来日して、その時の話も聞いていたので、来る前から興味はありました。イタリアとは全く違う世界だけど、ここに住んでいる人たちとはフィーリングが合うような気がします。“感動を生きる”ということはとてもイタリア的なのですが、(観客が)映画を見た後に感動で気持ちが震えているという感じは日本でしか見たことがないです。残念ながらスシはあまり好きになれなかったけど、ラーメンはとても気に入ったので、ここでも充分に生活していけます(笑)」。

Q. 今回の来日や上映について、監督から何かコメントはありましたか?
P.G)「たった一言、“行って来い!”と言われました。上映後に連絡したのですが、劇場が満席になったことも満足そうでしたし、映画の内容も伝わったようだと話したら、“行って良かったな!”とすごく喜んでましたよ」。

■本作のテーマについて
映画は、尊厳死をめぐる3つのテーマ「安楽死」「自殺」「脳死」を扱った3つの物語で構成されており、ピエール・ジョルジョさんは「自殺」をテーマにした物語で、自殺願望の強いドラッグ依存の女性を立ち直らせようとする医師を演じている。今回、監督は脚本を書いている段階からキャスティングを想定していたため、初めてオーディションを受けずに役に臨んだという。
Q. 演じたキャラクタ−の言動とご自身の考えに相違はありますか?
P.G)「彼は医師ですが、それ以前に窓から飛び降りようとする人を見たら誰でも止めると思います。彼はそれを医師としてするわけではなく、考えずに止めるわけです。それは人として当然のことだと思うし、彼がやってることに関しては100パーセント同じ考えだと思います」。

Q. 本作で一番印象的だったのは、ピエール・ジョルジョさんがその女性(マヤ・サンサ)を思いっきりビンタするシーンでした。この物語で“眠れる美女”が目を覚ます唯一の場面ですし、このテーマに関しては監督がはっきりと答えを出していると思ったのですが。

QAの時の様子

P.G)「あのビンタはイタリアでも有名になってしまいました(笑)。このエピソードは『眠れる森の美女』の話をベースにしていて、タイトルの「眠れる美女」も、彼の患者の女性(マヤ・サンサ)のことを指しています。
基本的には反自殺、反安楽死の映画ですが、それ以上に人生や命についての映画です。だから植物状態(脳死)になり、人間として普通の生活をすることができず、感情もなくなり、人間関係もなくなったら、それは事実上、人として生きることは終わったのではないかと考えているわけです。(当事者の)家族が自由に選択する権利を持たないと、生きている人間が破滅してしまうと思うんです」。

Q. 本作全体を通して、印象的だったセリフや場面があれば教えてください。
P.G)「セルヴィッロ(議員)が演説の文章を下読みしている場面がありますが、彼の演技も素晴らしいし、読んでいる内容も真実を掴んでいるという意味で感動的だと思います。また彼と精神科医がお風呂場で話をしているシーンは、最近の政治風刺の中ではもっとも辛辣で真実をついている話だと思います。あと最後の、ローザの兄が父親から『おまえの好き勝手にはできない』といわれる場面は非常に重要だと思います」。

■共演者について
Q. なぜ、主演女優にフランス人のイザベル・ユペールが起用されたのでしょうか?
P.G)「今のイタリアにはイザベル・ユペールの世代の大女優がいないというのもあると思います。あの役には強いアイデンティティを持った女優が必要でした。繊細な部分のある話ですが、彼女の出演で物語に信憑性を持つことができるし、信じられる物語になったと思います」。

Q. トニ・セルヴィッロは「イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男」や「至宝」などネガティブな役柄の印象が強いのですが、実際はどういう方なんでしょうか?
P.G)「彼は今のイタリアで最も偉大な舞台俳優だと思います。舞台での経験は30年以上で、映画界も彼を必要としています。人を泣かせることも、笑わせることもできる技量をもった役者で、若い役者にとっては大きな目標であり、指標になっています。本来、役者同士はお互いにライバル意識が強くて、若い役者や才能がある役者に対してはなおさら、自分の役を取られるかもしれないという意識を持つので感じが良くないことの方が多いのですが、彼は手を差し伸べて助けてくれる人。いるだけで大きな存在を感じさせてくれる人です」。

■父親(マルコ・ベロッキオ監督)について
Q.「父親」と「監督」で見せる表情は違いますか?
P.G)「いいえ、全く同じです」。
Q. 優しいですか?
P.G)「いいえ!愛情深く、センチメンタルなところもあるけど、甘く優しい人ではないです。昔だったら大きな船の船長だったかもしれないし、サムライだったかもしれないですね(笑)。というのも、彼は一貫性を大事にしていて、自分が選んだこと、考えたことに対して忠実なところがあります。そういう意味で、とても日本的な美徳を持っているかもしれないですね」。

■プライベートについて
Q. お仕事以外の時間はどんなことをして過ごしていますか?
P.G)「パパをやってます。2歳と6歳の二人の娘がいます。また、母親(女優)と一緒に演技の学校で、自分も勉強しながら、かたや教えてもいます」。
Q. 生まれも育ちもローマということですが、やはりサッカーはご覧になったりするのですか?
P.G)「(興奮気味に早口で)それはもう、もちろん、サッカーは完璧に大好きです!ASローマの大ファンなんですけど、かつて日本の大選手がいました。ナカタ(中田英寿)です!彼のユニフォームも持っています。インテルのナガトモ(長友佑都)じゃない!“ローマ”のナカタですっ!!!ナカタがローマでプレーしている時、日本人観光客は歴史的な遺跡を巡って、ミケランジェロなんかを見た後に、最後にはスタジアムに行ってナカタを見る、というルートができていましたよ」。

イタリア中が注目したといわれる実際の出来事を題材にし、実力派キャストが顔を揃えた本作品、劇場公開を期待したい。眠れる美女を見つめるピエール・ジョルジョ、トニ・セルヴィッロ、イザベル・ユペール、それぞれの眼差しに注目してほしい。

▼作品レビューはこちら
『眠れる美女』ある女性の尊厳死を巡って― 生と死を見つめる人間の眼差し


▼ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ Pier Giorgio Bellocchio
1974年イタリア・ローマ生まれ。監督マルコ・ベロッキオと女優Gisella Burinatoを両親に持ち、7歳から俳優として「虚空への跳躍」(80)など映画に出演。プロデューサーとしても活動し、『夜の蝶』(94)をはじめとして、テレビ番組や映画の制作を手がける。94年には、アーシア・アルジェントなどとともに、オムニバス映画「DeGenerazione」を監督した。ベロッキオ作品には8本出演、『夜よ、こんにちは』(03)『愛の勝利を ムッソリーニを愛した女』(09)など。

▼作品情報
原題:Bella Addormentata
監督/脚本:マルコ・ベロッキオ
出演:イザベル・ユペール、トニ・セルヴィッロ、ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ、アルバ・ロルヴァケル、ミケーレ・リオンディーノ、マヤ・サンサ
制作:2012/イタリア、フランス/110分
(c)Cattleya

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