【TIFF_2012】東京サクラグランプリは仏映画『もうひとりの息子』に!「葛藤の中に希望がある作品」と満場一致で決定

第25回東京国際映画祭の最終日である10月28日、六本木ヒルズにおいて受賞者記者会見&コンペティション審査員記者会見が行われた。東京サクラグランプリは仏映画『もうひとりの息子』が選ばれ、同作品のロレーヌ・レヴィ監督が最優秀監督賞も受賞した。本作品は、ある衝撃的な事実をきっかけに、イスラエル人家族とパレスチナ人家族が葛藤しながらも歩み寄っていく物語。ロジャー・コーマン審査委員長は、受賞の経緯を「満場一致で決定した」と説明し、「非常に微妙で繊細なテーマを平等な視点で語り、観客の心にしっかり伝える力を持っている」と受賞理由を述べた。さらに監督賞受賞の理由について、「最優秀作品賞をとるということは、監督が素晴らしい仕事をしたということ」と語った。
受賞者の喜びの声のほか、審査員によるコメント及び総評などの一部をご紹介します。

【第25回TIFF受賞作品・受賞者一覧】

・東京サクラグランプリ/『もうひとりの息子』
・審査員特別賞/『未熟な犯罪者』
・最優秀監督賞/ロレーヌ・レヴィ『もうひとりの息子』
・最優秀女優賞/ネスリハン・アタギュル『天と地の間のどこか』
・最優秀男優賞/ソ・ヨンジュ『未熟な犯罪者』
・最優秀芸術貢献賞/パンカジ・クマール『テセウスの船』撮影監督
・観客賞/『フラッシュバックメモリーズ 3D』
・日本映画・ある視点作品賞 /『GFP BUNNY—タリウム少女のプログラム—』(※『タリウム少女の毒殺日記』にタイトル変更)
・TOYOTA Earth Grand Prix 受賞作品『聖者からの食事』
・TOYOTA Earth Grand Prix 審査員特別賞『ゴミ地球の代償』
・最優秀アジア映画賞/『沈黙の夜』レイス・チェリッキ監督


東京サクラグランプリ&最優秀監督賞『もうひとりの息子』

左からジュール・シトリュク、ロレーヌ・レヴィ監督、プロデューサーのヴィルジニー・ラコンブさん

ロレーヌ・レヴィ監督:この賞をいただいたことは、けっして忘れません。Thank you Tokyo! Thank you Japan! 私が(フランス系)ユダヤ人であることが、この作品への気持ちを高めたというのはあります。ただ、この映画を作るうえで強い望みを持っていたのと同時に、失敗させてはいけないという恐れもありました。まず、その恐れを克服することが必要でした。それぞれの作品にはそれぞれの道があり、それぞれの道が美しいのだと思います。

俳優ジュール・シトリュク:とても感動しています。たしかにこの映画は自分で見ても美しく、そして希望を与える映画だと思います。脚本を読んだ時からそう感じていましたが、まさかグランプリをとれるなんて!本当に信じられないという気持ちです。
ロレーヌはすごい監督で、監督賞は彼女に見合った賞だと思います。とても賢い人でカメラワークも上手です。そしてとても繊細なところがあります。
私は自分の出演した映画を紹介するために2度日本に来ていますが、どちらの作品もグランプリを受賞しました。本当に信じられない、凄いことだと思いますが、それは僕の選ぶ映画を日本の皆さん、そして映画祭が愛してくれているということだと思います。フランスでは2度あることは3度あると言いますので、今後も続けばいいなって思います(笑)。(※前回はフランス映画祭2004「ぼくセザール 10歳半1m39cm」でグランプリ受賞)

審査員特別賞『未熟な犯罪者』カン・イグァン監督

カン・イグァン監督

過去に少年院に入っていた子供たちと実際に会い、いろんな話を訊いて取材しました。この映画に描かれているように、実際に母親と別れて生きてきた子供たちも何人かいて、この物語を作るうえで助けになりました。

最優秀女優賞ネスリハン・アタギュルさん『天と地の間のどこか』

女優ネスリハン・アタギュルさん

私にとって一番難しかったシーンで、唯一難しかったと言えるのは、流産してしまった後に精神科医に分析されるシーンでした。相手の方は本当の精神科医だったので、自分がそのシーンをリアルに演じられるかという不安がありました。演技することについて改めて考えさせられ、成長できたシーンだと思います。

最優秀男優賞ソ・ヨンジュさん『未熟な犯罪者』

ソ・ヨンジュさん

平凡な僕が平凡な主人公ジグを演じること自体がとても難しかったです。ジグを演じてみて、彼らのような少年に対する想いが変わりました。とても怖い犯罪者というイメージだけではなく、彼らをちゃんと導いてあげれば、普通の子供たちと変わりはないんだと思うようになりました。

観客賞『フラッシュバックメモリーズ 3D』松江哲明監督

松江哲明監督

映画祭での上映は、僕らも想像もしていなかったような空気が(観客のみなさんによって)作られていたので、この賞をとても嬉しく思っています。今回3Dにしたのは、ドキュメンタリーと3Dは相性がいいと思っていたからです。これまでインタビューなどで情報として説明していた部分を排し、対象そのものに近づいて表現できるのではと思いました。GOMAさん自身が障害によって記憶を無くしているので、演奏する現在のGOMAさんと過去のGOMAさんを重ねることで何か(記憶の部分)を表現するのは、3Dでしかできないと思いました。

ロジャー・コーマン審査委員長

ロジャー・コーマン審査委員長

多くの国際映画祭を経験していますが、これだけフレンドリーに受賞作が決まったのは初めてです。主要な賞については、ほとんど満場一致で決まりました。本当に穏やかな話し合いの中で受賞作が決定しました。コンペには1000本以上の中から、文化、政治、宗教、信念の違いを見出した15本が選ばれていますが、その中から第3候補まで、審査委員それぞれが作品の品質でジャッジをしました。何度もイスラエルとパレスチナを訪ねていますが、1948年以来、この小さな土地に対しての戦いが未だにあることに驚いています。『もうひとりの息子』のなかで描かれている世界には、葛藤の中にも希望がありました。

(取材後記)
映画は社会の鏡といわれるが、今年の作品の傾向として、母性について考えさせられる作品が多かったようだ。審査については満場一致とはいえ、グランプリ候補には「天と地の間のどこか」「未熟な犯罪者」「風水」も挙がっていたという。審査委員のコメントの中には、「若い世代がどのように生きていくのか、また母の役割、女性の役割について描かれている作品が多く、社会が疲弊していることを強く感じた」という声もあった。だからこそ、葛藤の中にも希望が見出せる作品が支持されたのだろう。ロジャー・コーマン審査委員長は最後に、哲学者アリストテレスの「ドラマのエッセンスは葛藤である」という言葉を引用して記者会見を締めくくった。
9日間にわたる映画祭も閉幕となりました。来年もさらなる飛躍と映画の力を期待したいですね。

【第25回東京国際映画祭】
開催期間:10月20日(土)~10月28日(日)9日間
会場:六本木ヒルズ(港区)ほか
公式HP:http://www.tiff-jp.net

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  1. soramove

    映画「もうひとりの息子(フランス映画)」“東京国際映画祭”へ行ってきました、東京 サクラ グランプリ獲得作品…

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