【TIFF】『もうひとりの息子』:記者会見レポート

仏若手俳優ジュール・シトリュク「演技はしていたけど、そこで感じた感動は本物」

2013年10月19日よりシネスイッチ銀座にて公開決定!

左からプロデューサー、監督、ジュール

第25回東京国際映画祭コンペティション部門にて『もうひとりの息子』が上映され、フランスから来日した俳優のジュール・シトリュクとロレーヌ・レヴィ監督、プロデューサーのヴィルジニー・ラコンブが記者会見に出席した。ジュールの来日は今回2度目で、前回は主演作品『ぼくセザール 10歳半1m39cm』がフランス映画祭2004で上映された時。その時のことを「生涯の中でもっとも美しい旅の記憶のひとつ」と振り返ったが、今回、上映後に驚きの再会があったという。「上映後のQAで、『ぼくセザール〜』を見たのがきっかけでフランス語を習い始めた、という方がいらして、とても嬉しく誇りに思いました」と笑顔で語った。

 本作でジュールは、兵役義務のための血液検査で両親の実子でないことを知る、イスラエル人ヨセフを演じている。ヨセフは出生時の手違いによってパレスチナ人家族の息子ヤシンとすり替わってしまったのだが、その衝撃の事実が二つの家族を大きく揺り動かしていく。ジュールは、アイデンティティや信仰を見つめ直すことを余儀なくされるヨセフを演じ、もっとも難しかったというシーンについて当時の想いを語った。それはヨセフがパレスチナの家族の家を訪ね、その土地の民謡を歌いはじめるクライマックスのことであるが、「撮影には1日かかり、数週間レッスンを受けました。役柄上、完璧なアラビア語で歌う必要はありませんでしたが、これはヨセフが成長したことを表現したシーンです。自分の置かれたシチュエーションを受け入れ、新しい家族に心を開き、血のつながった父親の手を取るという感動的な場面です。演技はしていますが、そこで感じた感動は本物です」。

民族間にある深い溝や因縁を越えた壮大な物語であるが、プロデューサー曰く「映画業界の人でも、脚本家でもないユダヤ系フランス人の男性から持ち込まれたアイデアによって生まれたもの」とのこと。撮影はイスラエルのユダヤ側・パレスチナ側で行われ、パレスチナの家族を描くシーンのためにラムラという村にいった時は、撮影を嫌がる村人たちに初めは脅されたという。しかし監督は、「撮影チームはフランス人、イスラエル系ユダヤ人、イスラエル系アラブ人、パレスチナ系アラブ人、キリスト教アラブ人で構成されており、それらのメンバーが話し合いに加わって助けてくれたので困難な局面も乗り越えられた」と話し、脚本についても、「現地で立場を超えた話し合いを重ね、イスラエル・パレスチナ両者が共に前進する内容になることを目指し修正を加えた」と明かした。

そういった繊細な調整が功を奏し、本作はそれぞれの立場における登場人物の反応の対比が見事に描かれている。民族間の違いだけではなく、男女の違い、大人と子供の違いについての描写も示唆に富んでいて興味深い。

第25回東京国際映画祭は、10月28日まで開催。

▼作品情報
原題:Le fils de l’Autre
監督:ロレーヌ・レヴィ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベ、ジュール・シトリュク
製作:2012年/フランス/105分
© Rapsodie Production –Cite Films

【第25回東京国際映画祭】
開催期間:10月20日(土)~10月28日(日)9日間
会場:六本木ヒルズ(港区)ほか
公式HP:http://www.tiff-jp.net

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